特集・香港パート2/日系商社・繊維企業の貿易戦略

2006年10月06日 (金曜日)

世界市場へ優位性発揮

 香港の対日アパレル製品ビジネスは、コスト上昇圧力による価格競争力の低下で、生産拠点としての地位を相対的に低下させている。一方で、全世界的な適地生産・適地販売の流れのなか、日系企業は世界有数のビジネス自由度の高さを基盤に、司令塔機能を背景とした世界市場に向けたアプローチを組み立てる。

自由度が高い香港/アジアの繊維事業を統括

 日本の商社は今期、対欧米のアパレル製品OEM(相手先ブランドによる生産)ビジネスに力を注ぐ。香港はその司令塔として期待を集める。

 欧州、米国、日本、世界の一流ブランドが集まる市場としてのファッション感度の高さ、金融センターとしての役割、アジア物流の拠点としての機能、世界を相手にビジネスを繰り広げてきた香港資本のしたたかさ、そのどれもが繊維ビジネスのコントロールセンターとしての可能性を示す。

 とくに有力アパレルや小売店のバイヤーがそろう対欧米の製品ビジネスでは、長期的な視点に立った現地の有力ニットアパレルなどが、3年先、5年先をにらんでコンピュータ自動編み機の導入など工場への設備投資を進めている。また、従来生産拠点としてきた中国・華南地域の人件費高騰を嫌い、ベトナムなどへ生産拠点を移す動きも活発になった。

 華南地域からベトナム、ミャンマー、カンボジア、バングラデシュ、さらにはインド、パキスタンまで、香港はその地理的特性とビジネス資源を生かして、アジア全域の生産拠点をコントロールし、コスト上昇圧力や人民元リスクを吸収したモノ作りが展開できる。

 繊維原料やテキスタイルビジネスでも巨大生産地・中国を背景に、香港は司令塔の機能をフルに生かして世界の市場へ商材を供給するゲートウエーとしての役割を果たす。

対米製品事業 軌道に乗る

 双日グループのNOWアパレルは、対日製品ビジネスをメーンとし、上海、青島の両事務所とも連携して中国生産をオペレーションする。日本向けは大手SPA(製造小売業)の新ブランドを手掛けるなど堅調に推移する。

 今期は本格的に取り組み始めた対米製品ビジネスが「うまく進んでいる。明かりが見えてきた」(市川篤社長)と手応えを語る。昨年、双日が米国に設立した衣料品企画販売会社、双日アパレルUSAに人員を出向させるとともに、両社によるコラボレーションを進め、生販一体となっての対応が軌道に乗り始めた。

 同社は6月、サンプル縫製と検品を主業務とする子会社「青島双日服飾」(2004年設立、資本金70万ドル)に200万ドル増資した。ミシンを増設し6ラインの生産体制を整え、デニムからエレガンス系の製品まで小ロット生産に対応できる縫製工場に拡張した。8月末で156人のワーカーがそろい、年内には本格稼働する。

 生産体制が整いつつある同社では、対米製品ビジネスの取扱高を2007年に現在の1・4倍、2008年には同1・8倍へと拡大することを計画する。

欧州向け拡販に手応え

 日岩帝人商事〈香港〉(吉川洋社長)は、アパレル製品ビジネスと繊維原料・テキスタイルの比率が3対1で繊維事業を展開する。吉川社長は「繊維事業はまずまずの業績で推移している。とくに製品ビジネスで欧州向けが増えてきた」と、今期ここまでの進ちょく状況を語る。

 取扱高の75%を占める製品ビジネスでは、婦人分野の布帛アイテムで、テキスタイルから製品までの一貫対応を提案、欧州向けで具体的に話が進んでいる。

 米国向けはベトナムで縫製するメンズのスポーツカジュアルが中心。ベトナム縫製拠点での課題を残していることもあり、今期はやや苦戦を強いられている。対日製品ビジネスは、顧客アパレルが香港への発注アイテムを絞っていることも影響して横ばいで推移する。

 原料・テキスタイルビジネスについては、「米国向けにカシミヤを供給するビジネスで一時の勢いが落ちてきた」(吉川社長)こともあり、原料ビジネスがやや苦戦している。その一方でテキスタイルビジネスは「昨年の後半から核になる顧客を選び出し、改めて重点的に攻めている」ことが奏功した。下期からこのビジネスが数字面でも業績に寄与する見通しを持つ。

生地―製品一貫対応進む

 蝶理香港(上山保則社長)は原料、テキスタイル、アパレル製品それぞれのビジネスを展開するが、取扱高の57%を占めるテキスタイルビジネスに特徴を持つ。テキスタイルのうち日本品の扱いは25%で、韓国品が30~35%、中国品が40~45%の構成となっている。

 納品先の縫製工場は中国からベトナムを中心としたアセアン、インド、パキスタンまで広範囲にわたるが、「最終製品の消費地はほとんどが米国市場」(上山社長)と説明する。

 同社の目標は取扱高の20%強にとどまる製品ビジネスを、できるだけ早期に50%超まで高めること。そのため昨年10月にテキスタイルから製品まで一貫で対応するチームを日本から香港に移し、販路開拓と生産拠点の整備を進めている。

 製品ビジネスのモデルケースとなるのが、ペルーのピマ綿「アンデス物語」を使ったニット糸からセーターまでの一貫対応ビジネス。日本向けで評価が高くリピートも多い。「素材を知る強さを生かしたい。静かに着実に進んでいる」(上山社長)と、今後の展開に自信を見せる。

中国品を全世界に輸出

 丸紅の香港繊維ビジネスは4月1日付でパスポートファッションと丸紅繊維亜州が統合、丸紅繊維亜太(日原邦明社長)として再スタートした。原料ビジネスが取扱高の60%を占め、製品ビジネスが27~28%、テキスタイルビジネスが12~13%の構成となる。

 主力の原料ビジネスでは「ポリエステルわたやポリエステル長繊維など中国品を輸出するビジネスが形になってきた」(日原社長)と説明する。仕向け地はインド、バングラデシュ、パキスタン、トルコ、南米、エジプト、南アフリカと全世界に及ぶ。

 テキスタイルビジネスはやや苦戦し、微減で推移する。セーターやジーンズ、布帛アイテムが中心の製品ビジネスは、三国取引が急速に拡大している。現在の対日と三国の割合は3対1。日本市場向けは香港ならではのセーターなどが健闘するものの、全般的には「オーダーが中国の華東地域から北へ逃げて」減少傾向にある。逆に三国取引は30~40%増と大幅に伸びている。

 今後は素材から製品までの一貫提案を一段と広げ、欧米市場向けで販路を拡大する。06年度の取扱高は6億4000~6億5000万ドルを見込む。

グループとして機能発揮

 東レ香港(平井隆次社長)は、素材から製品までの一貫展開を強めて、東レグループとしての「ワンストップトータル」効果を発揮する。すでに対日ビジネスの大手SPA(製造小売業)向け対応では、東麗合成繊維〈南通〉(TNFL)の原糸を香港のタルニット(TAK)で編み立て、東レ香港の全額子会社多麗製衣〈珠海〉(THKアパレル)で縫製する製品が実績を上げている。

 7月1日に就任した平井隆次社長は「中国、とくに華南地域でのビジネスを考えたとき、香港の機能は重要になる」と指摘、東レグループの中でメーカー商社としての機能を果たすことを重視する。

 同社の事業構成は繊維事業が売り上げの70%を占め、残りの30%が非繊維のフィルムや電子情報関連の材料ビジネスとなっている。繊維事業は原料・原綿、テキスタイル、縫製品をそれぞれ均等に展開する。

 05年12月期は繊維事業で約330億円の売り上げがあった。今後は3分野をバランスよく拡大し、2010年に連結売上高500億円達成を計画する。

中わたビジネスが好調

 帝人香港(江副勇次社長)は日本向け、米国向け、欧州向けビジネスをほぼ均等に展開する。取扱商品は南通帝人商品が60~70%を占め、25%がタイ・ナムシリ生産分、5~10%が日本品の構成になる。

 テキスタイルビジネスでは、カジュアルテーストを持つスポーツ用やドレッシーな婦人用が主力だが「コストとバリューがなかなかマッチしない」(江副社長)のが悩みの種。今期は昨年の厳冬で店頭の冬物商品がはけたこともあり、中わたビジネスが好調で「量も、金額も一番大きい」と言う。

 主力の南通帝人商品は純スポーツ、カジュアル用途を含めたスポーツ向けテキスタイルが55%を占める。昨年7月に立ち上げたミラノ支店のイタリア事業は、初年度から目標を達成し、順調に推移する。展開アイテムはスポーツ向けで、細番手の高密度織物やコーティング機能をレベルアップしたものなど、より高機能なテキスタイルに特徴がある。

 今期は輸出部を閉めて組織を一体化、輸出、海外縫製の連動を進めたことで、シナジー発揮への土台が固まった。「収益面でも向上した」(江副社長)という。

データで見る香港/米国向けアパレル輸出急回復

 香港からの全世界へのアパレル製品輸出は、05年が前年比8・5%増、06年も1~8月までの累計で前年同期比3・8%増の1419億香港ドルと堅調に推移する。そのうち米国向けは全体の36・1%と圧倒的なシェアを占めている。

 米国向けを仕向け地側の米商務省の統計データで見ると、05年の香港から米国へのアパレル製品輸入は、数量で前年同期比19・3%減の5億9700万平方メートル、金額で同8・8%減の35億1100万ドルだった。クオータフリーで中国から米国への繊維品輸出が爆発的に伸びた影響を受けたことがデータから読み取れる。

 しかし、06年は1~6月の累計データで、数量が前年同期比24・7%増の2億4800万平方メートル、金額で同24・2%増の13億8600万ドルと大幅な伸びを見せている。クオータフリー後の米中繊維貿易摩擦とその後の自主規制枠で、香港を窓口とした米国へのアパレル製品供給が急速に回復していることが、データからもうかがえる。

 一方、香港から日本へのアパレル製品輸出は、05年が前年比0・5%減の138億8700万香港ドルで、06年は1~8月の累計で同1・8%減の85億700万香港ドルと微減推移が続く。

 これを日本側の日本繊維輸入組合が調べたアパレル輸入統計で見ると、06年は1~6月の累計データで数量が同6・8%増の146万着、金額が同25・7%増の27億9000万円となった。

 特筆すべきは香港からのニット製衣類の輸入で、06年1~6月のデータでは、数量が同6・3%減の65万3000着にとどまるのに対して、金額は同53・5%増の13億7000万円と激増した。

 製品1点当たりの単価を単純に計算すると、05年の1652円に対し、06年は2098円と約27%も上昇した。統計データからも日本向けは“香港らしい”独自性を打ち出した中高級品志向のアイテムに急速に切り替わりつつある。