高機能繊維特集/強さに死角なし 高成長へ積極投資
2006年07月19日 (水曜日)
「強くて、切れない」「高温でも溶けない」。そんな特徴を持つ高機能繊維の時代が到来している。今や合繊大手の収益源は、かつての衣料用ポリエステル長繊維から、アラミド繊維をはじめとする産業資材用の高機能繊維事業に移り変わった。そして、合繊業界のヒーローとして、スポットライトを浴び続ける高機能繊維の勢いを止める“死角”は今のところ見つからない。主役に躍り出た高機能繊維の強さを探る。
高機能繊維へ積極投資/合繊の主役に躍り出る
高機能繊維の代表格、アラミド繊維、その強さを推し量るのは簡単だ。米デュポンのパラ系アラミド繊維「ケブラー」、メタ系アラミド繊維「ノーメックス」と並ぶ帝人のアラミド繊維(パラ系「トワロン」「テクノーラ」、メタ系「コーネックス」)事業の2005年度連結業績は売上高674億円、営業利益183億円。営業利益率27%を誇る。同グループの炭素繊維事業(東邦テナックス)の営業利益率(9・5%)も凌駕する。1288億円と2倍強の売り上げを持つポリエステル繊維主要会社、帝人ファイバーが22億円の営業赤字と苦戦するだけに、アラミド繊維の強さが際立つ。その一つ、トワロンは195億円を投じた2割増設(2万3000トン)が完了する予定だ。
圧倒的な強さを誇る高機能繊維をさらに強めるための施策も講じられている。東洋紡もその一社だ。高強力ポリエチレン繊維「ダイニーマ」、PBO繊維「ザイロン」など高強力繊維やPPS繊維「プロコン」、ポリイミド繊維「P―84」などの耐熱繊維を持つ同社は今年4月からこうした高機能繊維を集めた機能材事業本部を新設した。繊維事業本部からナイロン66エアバッグ布、タイヤコード用ポリエステル長繊維も移した機能材事業本部の売上規模は05年度で約500億円、これを3年後には700億~750億円に拡大する計画だ。
売り上げ拡大のカギを握るのがダイニーマ。現在、国内生産設備(年産1020トン)はフル生産中にあり、増設を視野に入れる。プロコンも増設に動く。同社はポリエステル短繊維設備縮小を明らかにするが、同設備をプロコンの増産に充てる。
クラレは高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」を今春100トン増の年産500トンに拡大したが、早期に1000トン、将来的には3000トンを目指すなど事業拡大策は目白押し。旭化成せんいがポリケトン繊維の事業化を進めるなど第三世代も登場しているだけに、高機能繊維市場から目が離せない。
国内唯一のアラミド専業/帝人テクノプロダクツ
帝人テクノプロダクツは国内でのパラ系「トワロン」「テクノーラ」、メタ系「コーネックス」のアラミド繊維販売を担う。
4月から工業用ポリエステル長繊維事業を帝人ファイバーに移管したため、同社は国内唯一のパラ系、メタ系アラミド繊維専業になった。テイジン・トワロンとともに、帝人の合成繊維事業の屋台骨を支えている。
蘭テイジン・トワロンでのトワロンの2割増設(年産2万3000トン)が年内に完了するが、国産のテクノーラ(2000トン)、コーネックス(2700トン)ともフル生産中にあり、2素材でも増強を検討する。
現中期計画の最終年度である2008年度には、国内販売で05年度比2割増収を計画するが、トワロンの増設効果に加え、コーネックスでは防護衣料向け生地販売の拡大を見込む。
夏堀仁アラミド事業部長によると、パラ系、メタ系とも防護衣料への引き合いが強く、防炎服向けでは安全性重視の流れから高機能繊維が見直し気運にある。これに対応し、同社では4月から消防服、防護手袋、防弾チョッキなどパラ系、メタ系含めた防護衣料課を新設し、マーケット対応力を強化する。
さらに、ゴム資材や複合材料など用途ごとに各アラミド繊維を販売できるマーケット重視の体制を敷く。これをサポートするのがさらに、7月1日付でアラミド市場開発室を新設し、マーケティングサポートを行う。5人でスタートした同室だが、9月には1人増員を予定している。
08年、ポリケトン繊維本格化/旭化成せんい
旭化成せんいは、次世代スーパー繊維、ポリケトン繊維の事業化を推進している。3月からはパイロットプラントによる生産、出荷がスタートするなど、開発が順調に進む。
ポリケトン繊維は、エチレンと一酸化炭素を原料とする脂肪族ポリケトンの特殊濃厚塩水溶液をゲル紡糸して生産する。同社によると、強力は1デシテックス当たり20グラム、弾性率は400グラム。最大の特徴は、他のスーパー繊維に比べ原料が安価で、燃焼時に有毒ガスが発生せず使用後は産業廃棄物ではなく一般ゴミとして処理できることだ。その意味で、非常に扱いやすいスーパー繊維と言えよう。
ゴムとの接着性がよいことから、主にタイヤコードやホース材用途での販売を目指しているが、加水分解しないことから、消毒洗浄が必要な食品加工用手袋などの用途開発を行っている。また、免震構造体、FRP(繊維強化プラスチック)、FRC(繊維強化セメント)、パルプ化(繊維をすり潰して粉状にする)してシール材などでの展開も研究している。
2005年10月にパイロットプラントが完成し、今年3月から月産1トン強のペースで出荷を開始した。タイヤコード用途では、サンプル出荷先がすでに実走試験段階に入り、食品加工用手袋でも世界最大手のアンセル社が採用に向けて試験を行っている。
現在、炭素繊維やアラミド繊維など既存のスーパー繊維が世界的に需給タイトで価格上昇傾向にあることもポリケトン繊維には追い風。福田康男ポリケトン事業推進室長は、「この間に上市して事業基盤を築く」として、08年には本設備稼働、10年には黒字化を目指す。最終的には「リーズナムルかつ扱いやすいスーパー繊維として、生産量で万トン単位の事業に育てたい」(福田室長)としている。そのためには、5000トンレベルの受注が見込めるタイヤコード分野にまずは重点的に力を注ぐ方針だ。