テンセル会特集/テキスタイル技術・販売の知識集団へ
2006年04月28日 (金曜日)
売れるモノ作り強化
テンセル会(小島幹人理事長=豊島常務)は25日、名古屋で06年度年次総会を開催した。同会メンバーが30社とコンパクトになったなかで、紡績(糸)、テキスタイル(ニット、織物)、染色加工などを一元化した、技術・販売の知識集団としての性格を強めている。「テンセル」をベースに、世界に冠たる“テンセル提案者”というこの集団が、06年度をどう組み立て、活性化していくのか。総会に合わせ、テンセル会の動向を追った。
次への飛躍に布石を
国内テキキスタイル業界が不振のなか、テンセルのテキスタイルもほかのセルロース素材や輸入品との競合にさらされている。市場においては、カットソー用の素材がまだ根強かった。
原油高騰のあおりで、テンセル原綿は今年1月に値上げされたが、値上げ分をテキスタイル価格に転嫁することは厳しい。
技術面では、「X―クリエーション委員会」をベースに、新しい紡績糸の開発や加工開発、進化を提案してきたが、市場をリードする量のまとまりになっていない。技術的に優れた「モノ作り」をするだけでなく、ニーズやトレンドに沿った開発かどうかを検証する時期にあると、小島理事長は振り返る。
今年度はこのため、「売れるモノ作り」、最終消費者への満足度を与える開発にまず注力する。加えて、コストの洗い直しや、QR(即応)体制の確立など諸般の問題点を克服していかなければ、次のテンセルの飛躍はないと位置づけている。
「レンチングイノベーション・イン東京」の6月展にはテンセル会として出展し、05年よりさらに進化したテンセルの披露を目指す。
テンセルが今再び、市場をリードする素材になることによって、日本の国内テキスタイルにインパクトを与えることをテンセル会は目指す。
さらに、輸出振興にも注力する。米国、韓国、台湾などの市場へ向け、量のまとまった輸出を企画することが今年のポイントとなる。
テンセル会理事長・小島幹人氏
国内の織物ビジネスの環境は厳しい状況下にありますが、カジュアル向けカットソーなどには一脈の光明が見えます。
テンセル会として05年には、ニュー「テンセル」の加工開発と進化、織り組織、浸染と洗い加工のドッキング、製品洗い加工など多様な開発品をベースに、「ジャパン・クリエーション」や「レンチングイノベーション東京」など多くの展示商談会にプレゼンテーションしてきました。
展示商談会において、国内テキスタイルビジネスは量の追求の世界ではないと言えます。テンセル会としては、表情や風合い変化など、新しい商品作りで企画提案力を引き続き高めていきます。
テキスタイルの拡販につきテンセル会は、国内市場対応と海外市場(輸出)対応との2つに分けて順次対応し、さらなる成果を目指していきます。
コスト競争力、納期対応などの問題も、さらに深く追求していく必要があると思います。
コストについては、在来の生産方式をもう一度見直しや洗い直しによって、ユーザーが求める価格まで近付けることができるかどうか。例えば、すべてを国内生産で終始した方がよい部分と、「コストとの兼ね合いから海外生産」という図式を取り入れる必要も出てきていると感じられます。
さらに、テキスタイルという単体ビジネスから、OEM(相手先ブランドによる生産)方式で製品とのリンクにおいても取り組んでいきたいと思います。
納期についても、ジャストイン・タイムに「物」を届けるシステム作りも研究しています。
輸出では、米国、欧州連合(EU)、韓国、台湾などを含む東南アジアなどにつき、市場別に提案していく手法も一つの拡販への足掛りとなっていくと思います。
「モノ作り」の発想と技術的付加価値だけによる独りよがりの開発提案から、もう少し視点を変えた開発提案も求められています。
レンチング社による統合の結果、テンセル、モダールの素材融合もスムーズになってきており、レンチング社とテンセル会との幅出しとふくらみが出てきました。
<視点を変えた開発提案目指す/国内外市場への対応強化>
今年度も、テンセル会メンバーの縦、横の関係をさらに充実し、テンセル集団として英知と研究によって、さらなる市場作りをしていくことが、テンセル会の隆起につながることと確信しています。
X―クリエーション委員会委員長・橋田佳雅氏
<質と技術」に立脚する/売れる商品」主体に開発>
05年度のX―CREATION委員会の活動を振り返ってみますと、春にはテンセル会主催の「2006S/S GREEN TEXTILE EXHIBITION」、秋~年末には「レンチングイノベーション イン東京」「ジャパンクリエーション2006」への出展を行いました。それに合わせて、テンセル会の企画力とそれを具現化する力を駆使して商品開発に努めた1年でした。
最大のテーマはオーストリア・レンチング社と英国テンセル社が統合されたことで扱うことができるようになったオーストリア産「テンセル」原綿の開発を行うことでした。
この開発を進めることでオーストリア産と英国産では同じリヨセル繊維でもキャラクターが随分と違うということが理解できました。両者を比べてみますと、オーストリア産は「優しい、女性的」、英国産は「野生的、男性的」という印象です。
オーストリア産の原綿にはマイクロタイプがあります。その優しく優雅な雰囲気は我々にとっては新鮮なものでした。マイクロの細番手による薄地開発では高い評価が得られましたし、よりソフトな風合いでインナー用途に好評を博しました。
テンセル会の持つ技術の蓄積が十二分に発揮できたと思います。
06年度の活動方針について申しますと、テンセル会単独展示会、「レンチングイノベーション・イン東京」への出展を基軸とし、営業的に売れる商品を主体において開発を進めていく予定です。
毛羽の少ない特殊紡績糸として定着している「T・X」では発色性の良さを生かしたプリント商品への展開などでテンセル会の「進化させる能力」をアピールしていくつもりです。
また、テンセル会のコアコンピタンスである「QUALITY & TECHNOLOGY」という観点に立ち返って開発を進めていきたいと考えています。具体的な策はまだ発表できませんが、「奇をてらわず、従来のものとは一味違う」「均一性、画一性とは違った表現、適当な遊び、緩み、歪みが心地よい」といったイメージの開発商品を披露したいと思います。
レンチング ファイバーズ マーケティングマネージャー ジャパン・住永憲治氏
<認知度向上と市場開拓進む/「環境に優しい繊維」浸透>
テンセル会総会も今年で14回目を迎えました。この間、英国テンセル社がオーストリア・レンチング社に買収されて、はや2年がたちました。月日の流れは早いものだと思っております。
今年も第2四半期に入りました。弊社の近況を簡単にご説明申し上げます。
生産・販売ともに、「テンセル」もモダールも非常にタイトな状況にあります。
05年は米国モービルの工場を除くと、ビスコース、モダール、テンセルとも年間フル操業で設備は順調に稼働してきました。
市況面では、原料代とエネルギーの高騰で、レンチング社にとっては厳しい年でした。
衣料用途だけでなく、ホームファッション、アクティブスポーツウエア分野、さらにふとんの中わたなどの分野への市場開拓も進みました。認知度が高まると同時に、用途開発、販路開拓も進んでいます。
レンチング社がいかに環境に配慮し、テンセルが環境に優しい繊維だということも浸透してきました。
テンセル、リヨセル、モダールともに認知度をさらに高め、ブランドを深耕し、イメージ向上や、さらなる開発で付加価値を高めていきたいと思います。
レンチング社の向こう3カ月のイベントとしては、6月8、9日の「レンチングイノベーション・イン東京」(青山ダイヤモンドホール)開催を予定しています。
7月11~13日の「TEXWORLD USA」(ニューヨーク)にはレンチング社として大ブースを構え、この中に日本企業3社(豊島、モリリン、新内外綿)も出展する予定です。
豊島十部/市場ニーズへの対応強化
豊島十部は、原綿輸入、紡績、テキスタイル作り(織物、ニット)に加え染色加工までを有機的に結合して、「テンセル」をプロモート、オペレートし、「テンセル商社・豊島」との異名をとる。
テンセル会の主幹として、同会をまとめ、リードしていく立場にもある。
国内テキスタイルが委縮していくなかで、ニーズ発掘、市場開拓、顧客需要に沿った開発をさらに進めていかなければならないと、同課は昨年を振り返る。
今年から来年にかけては、テンセルの進化―発展はもちろんのこと、ニーズやトレンドに合わせた、スピーディーなモノ作りを目指す。つまり、適品を適時供給するQR体制を一段と強化していく方針を、生産チームを交え改めて再確認している。
開発についても、独自開発もさることながら、コストに見合う開発やリーズナブル・プライスで供給できるシステムの構築をさらに推進する。
ミセス、キャリアゾーンを中心にしてきており、今後ヤング層にも着てもらえる服に向けた素材(テキスタイル)提案も課題の一つとしている。
営業フォロー、物流対応にも気配りをして、各段階のMDの“心”をとらえるような「モノ作り」、「情報発信」の波状的な展開を図り、“求められるテンセル”に生まれ変わろうとしている。
そのためには、効率、ミス・ロス排除を含めたトータルでのコスト引き下げの協力なども不可欠となってくる。
国内深耕もさることながら、輸出振興で量へつなげる。あるいはシーズンの平準化でも欠くことができない。現在、米国、韓国、台湾などの実績に加え、欧州も実績ができ始めている。
倉庫精練/豊富な加工バリエーション
「テンセル」織物の染色では、量・質ともナンバーワンの地位にある。テンセル会メンバーとの取り組み、さらに豊島十部一課との連携により「テンセルの倉庫」あるいは「ベンベルグの倉庫」と言われている。
同社第一事業部の基幹加工素材は、テンセルと「ベンベルグ」。
また倉庫精練のもう一つの柱商品にカーシート分野もある。
テンセル100%はもちろんのこと、テンセル複合織物の加工バリエーションも豊富だ。さらに、テンセルをベースにした1ウエーあるいは2ウエーストレッチも、加工によって生み出す。
さらに、ニドム機の“もむ” “たたく”“酵素処理”とタンブラー加工(仕上げ)を組み合わせた新加工開発も倉庫精練は提案する。
特殊タンブラー機は、陰干し風合いのナチュラルさが売り物で、テンセルとテンセル複合はもとより、コットンをベースに、コットン・「T―400」、コットン・テンセル、コットン・ポリエステル、コットン・ポリウレタン弾性糸など汎用複合素材の加工進化を多方面に訴求していく。
また、テンセル複合加工で、他産地との協働による特殊起毛―染色加工で新しいジャンルの商品も提案している。
同社にとって、コスト引き下げは永遠のテーマ。ミス・ロスの徹底した排除、エネルギーの省資源化、水の節約などを進める。
現下の原油価格高騰下でのコスト引き下げは、自助努力の範囲を超えているが、顧客満足度をプラスした加工で難局を切り開いていく。
モーリタン/テンセルニットの展開加速
モーリタンはニットの一貫生産(編み立て、染色加工)を行う企業だ。「テンセル」素材を使ったニットテキスタイルの展開を年々、加速している。
テンセル商材は、同社の売上高の20%を占めるに至り、柱商品となっている。とくに05年は、レギュラーテンセル使いのベア天竺が好調で、アウター、インナーで成長した。販路の幅出しでは、高級通販向けが伸びている。なかでもテンセルプレティングの天竺(テンセルとPTT繊維「ソロテックス」の組み合わせなど)や先染めのベア天竺が好調だ。
同社はとくに、レギュラーテンセルの後加工(染色)にノウハウがある。例えば、「AJ―1」あるいは液流加工「エアフロアー加工」を施すことによって、テンセルの風合い出しやテンセル特有の表情出しが可能になる。
現在、編み立て―染色については、独立企業による自販物が35%、委託加工が65%となっている。
06年については、和紙やキュプラの複合交編の開発に注力していく。また、レギュラーテンセルを駆使して“豊かな感性・豊かな表情”のあるテンセルニットを進化させていく。
後加工(染色)については、エンボス加工や、抜染、洗い風合いの加工品を提案する。なお、06年の開発商品の一部は、6月に開かれるレンチングイノベーション・イン東京展で披露する。