革新技術で世界の繊維製造業をサポート/村田機械社長・村田大介氏
2006年04月28日 (金曜日)
物流システム、工作機械などの産業機械、ファクシミリなど情報機器分野で注目されるFA、OAの総合メーカー村田機械。言うまでもなく1935年のジャカード機製造に始まり、「マッハスプライサー」「ボルテックス」精紡機、ダブルツイスターなどによって世界の繊維産業をサポートする繊維機械の革新的リーディングカンパニーだ。しかし村田大介社長は繊維機械分野を含め「売上高に占める新製品の比率がまだ低い」と開発力への不満を漏らし、技術革新へのあくなき挑戦を強調する。
川下起点に最終顧客のニーズを拾う「ボルテックス」
――長い景気回復が続いています。
景気回復は、各企業が固定費の削減に努めたことが最大の要因でしょう。ここへ売り上げ増が加わるわけですから当然、利益も計上できます。過去控えてきた設備投資の増強や、政府が進める構造改革への期待も後押ししています。当社も数年前に固定費の削減を図り、また最近は軸足をやや自動車関連や半導体に移した関係で、増収増益基調を続けています。今期も増収増益予想です。
ただ最近、全売上高に占める新商品比率の低さが気になります。メーカーにとっての最大の使命は、革新技術で新たに開発した商品をどんどん市場に提供することです。各分野で技術革新による新商品の創出が焦眉の急と意識しています。目先的には、原油高騰に代表される材料価格の上昇、更に為替の変動、輸出環境の悪化が懸念材料です。
――村田機械における繊維機械事業の位置づけをお聞かせください。
連結ベースの売上高比率では、繊維機械事業が約25%を占めます。一番多いのはロジスティックス、FAシステムなどのL&A部門で約40%、さらに自動車関連などの工作機械部門が約20%、残り15%が情報機器です。
この数字でも明らかなように、繊維機械事業は当社にとって、単に「祖業」というだけではありません。とくに技術開発力の面では繊維機械分野が担う役割が非常に大きく、当社にしかできない技術は一番豊富です。社内で人材的に最も充実している部門でもあります。世界的に名前がよく知られており、初めての人には「繊維機械のムラタ」と説明します。
何よりも心強いのは、繊維産業は生産拠点こそ時代とともに移り変わりますが、ワールドワイドで絶対に無くならない産業だという点です。ですから、そこに機械を供給することで必ず生き残れる事業だと考えています。
――革新空気精紡機「MJS」(ムラタ・ジェットスピナー)の次世代機ボルテックス精紡機が、世界的に注目されています。
「MJS」もそうですがボルテックスは、従来のように単に川上・川中企業に機械を売る発想を180度変えて、川下を起点に最終顧客のニーズを拾うためのシステムと位置づけて開発しました。各ユーザーへの販売提案も、当然この観点で導入をお勧めしています。
ご承知のとおりこのシステムは、100年以上の歴史を持つ従来のリング精紡法と大きく異なる技術で、毛羽や毛玉の発生が極めて少なく、摩耗性や吸水性に優れ、しかも毛羽落ちや風合い変化も少ない――などの特徴を持ちます。このような独特の糸特性が新しい付加価値になるからこそ可能な展開です。現実に、国内だけでなく世界各国の紡績で導入が進み、アパレルや最終消費者からも十分な手応えを感じるようになっています。
ここへきて、中国などアジアでもじわりと浸透し始めています。スポーツウエアなどの分野で、ボルテックスが独自のブランド価値を得られるような拡大を期待しています。
――70年からの村田海外留学奨学会や新春の都大路を飾る全国都道府県対抗女子駅伝への協賛など、メセナ活動にも熱心ですね。
奨学留学生は今年で100人を超えました。企業はしっかり業績を上げることが第一義ですが、利益の一部を社会に還元し、地域社会の振興に役立たせる必要があります。それが創業者、村田禎介の思想であって、今後ともしっかり引き継いでいく考えです。
プロフィール
(むらた・だいすけ)1987年村田機械入社、94年取締役、97年常務、2000年専務、03年社長就任
新入社員に薦めるこの1冊/中学生でも読める入門書
加地伸行著の「論語」を薦める。儒教研究の第一人者だけにあまたある「論語」本の中でも極めて平易に書かれており、「中学生でも読める入門書」というのが推薦理由。スタンフォード大学院で学んだ村田さんと「論語」、意外な組み合わせに思えるが、西洋を知悉(ちしつ)するだけに東洋的倫理の普遍性も実感できるのだろう。「君子とは公共心ある教養人。小人とは知識しかない人。新入社員は君子を目指せ」と求めるレベルは高い。