染色特集/日本を染める
2005年12月26日 (月曜日)
自販に乗り出す/生き残る新たな方向性
中国への生産シフトが進むなか、染工場の受託減少は中小に限らず、大手でも深刻な問題だ。その落ち込みをカバーするため、高付加価値加工のテキスタイルを自販や製品事業を強める動きが強まっている。
その成功例といえるのがセーレンだろう。独自の染色システム「ビスコテックス」を皮切りに、受託加工から脱却。12月には子会社のKBセーレンの素材と「ビスコテックス」を組み合わせた提案を行うため、合同展示会を開催した。セーレンの無縫製ニット「プリモーディアル」の組み合わせなども模索。アパレルOEM(相手先ブランドによる生産)事業を、専門店アパレルやSPA(製造小売業)中心に順調に伸ばしているが、さらに大手の百貨店アパレルルートを開拓する考えだ。
小松精練は日本だけでなく、欧米そして中国・アジア輸出に取り組む。仏プルミエール・ヴィジョンへの出展もその一環で、欧米トップブランドへの採用で、その波及効果により中国や東南アジア、そして日本への拡大を図る。また、小松精練〈蘇州〉では委託加工も行うが、日本、欧米、中国などへの自社によるテキスタイル販売に主力を置き、中国内販の拡大を目指す。
SPAを目指すサカイオーベックスは、機能性スポーツウエア「パーソンズ・アクティブ・ウェア」、フォーマルウエア「ファンレモ」の店舗展開を開始した。ファンレモでは卸売り先の専門店や小売店と“ファンレモの会”を結成、月に1回集まって意見交換し、消費者からの“声”を取り入れることで開発に生かすなどの工夫も行う。
倉庫精練が進めるセルロース繊維の自販の場合、6月に商品開発部を新設し、糸作り、織布・編み立て・染色まで自社で設計できる体制を整えた。東海染工は、中国で純綿ニットのOEM縫製事業を展開。来春から店頭に製品が並び始める。各社は技術開発力を高めながら、自販の方向性を模索する。
非衣料の強化/長繊維染色の基本戦略
「非衣料強化」。長繊維染色大手の基本戦略だ。すでに、カーシート地、エアバッグなど自動車資材を中心に事業構造転換を成し遂げたセーレンに追いつけとばかりに、各社の非衣料強化の動きは加速する。
長繊維染色が得意とするポリエステル長繊維100%の婦人服地は中国の台頭、カジュアルトレンドに伴う国内需要の落ち込みから右肩下がり。そのなかで各社はこれまで培った染色加工技術を生かして非衣料強化に本腰を入れる。セーレンは連結営業利益のうち、実に6割を自動車資材が占め、受託加工体質から完全に脱却。カネボウの繊維事業を引き継ぎ、染色から合繊メーカーへ変ぼうを遂げた。恐らく、セーレンの成功例を各自の手法で取り入れようとする動きと言って良い。
サカイオーベックスは05年度からの中期経営計画で「先端複合部材の創出」をテーマに炭素繊維など高機能繊維の用途開発に取り組む。04年には研究開発拠点であるハイパークロス事業場を新設している。
ファッション衣料のイメージが強い小松精練も、中期課題として非衣料分野の拡大を掲げる。なかでも住江織物との合弁会社である小松住江テック(石川県白山市)がポイント。「商品確立も終えて拡大基調に入っており、今下期から黒字転換する」見通し。現在は住江織物からの受注が大半だが、下期からは小松精練経由で一部、その他のカーシート地製造の受託加工も始めた。
倉庫精練もカーシート地加工では大手。起毛加工技術は高い評価を受けているが、これに加え、04年4月にはコーティング・ボンディング技術を生かし、繊維資材事業部を新設した。
ユニチカの子会社、アイテックス(石川県白山市)は、婦人衣料向け加工量の受注減をカバーするため、得意とする特殊起毛技術を生かし、ワイピングクロスなどの資材向けの用途開拓を進めている。今後、カーシート分野も視野に入れる。
既存技術で新たな事業/新分野の開拓を進める
中小染色企業のなかには、これまで培ってきた技術を別の分野に応用する動きが出てきた。
鈴寅(静岡県蒲郡市)は21日、韓国サムソンコーニングの電子情報材料向けフィルム事業を買収したと発表した。同社は以前からテキスタイルのスパッタリングコーティング事業を行っていたが、98年にフィルム分野にも参入。フィルム事業はデジタル家電市場の拡大で、電子情報材料分野への比重が高まっていることから買収を決めた。鈴木隆啓社長は「質・量とともに世界でナンバー1のスパッタリングコーティングメーカーを目指す」とコメント。フィルム事業を今後5年間で、売上高を30億円規模にする。
朝日加工(大阪市中央区)は、東京の機械メーカーと取り組み共同で吸引物質を水槽に回収する消臭装置「ケスマック」を開発した。さらに今年、ケスマックに付随するミストグリップを開発したことで、フタル酸ビス(DOP)の捕集効果が向上した。10月1日に事業部を立ち上げ、染色業界に限らず食品や化学企業にも販促する。
寝装や服地などのフラット捺染を中心とする黒川工業(京都府城陽市)は、染色廃水処理技術を応用し、飲食店などの排水槽の悪臭対策ビジネスを始めた。
染色企業が持つ技術は、染色だけにしか適用しないわけではない。意外なところで活用できる技術がまだまだあるかもしれない。
日本市場を狙う/海外企業の参入
国内市場を開拓するため、海外企業の動きが目立つ。イタリアのベステは昨年10月、日本に支社を設立し、自社で染色整理加工した差別化テキスタイル、エレガントな「ベステ」、スポーティーカジュアルな「ベステラティーナ」の2コレクションの拡販を進める。新たに本社工場に糸染め設備を導入、綿中心からウールやシルク、麻、獣毛など素材の幅を拡充し、第3のコレクションでエレガントでありながらカジュアルな味付けをしたコレクションを07春夏向けに投入する考えだ。
昨年12月に日本支社を設立したスイスの老舗(しにせ)メーカー、シェラーは合成繊維や高機能素材の開発で、欧州市場とアクティブスポーツ分野で定評がある。とくに吸水と撥水の両機能を持つ加工「3X(タイムス)ドライ」や、防汚加工「ナノスフィア」などの評価が高く、日本の大手アパレルにも採用実績がある。スイスの本社では新たに最先端の染色機械を取り入れ、工場全体の年間水使用量を従来比65%も削減することに成功した。同社は環境問題にも積極的に取り組む。
ベステやシェラーはいずれもテキスタイルコンバーターの側面が強いが、高度な染色整理の技術も持ち、独自色のある素材で日本市場の開拓を狙う。
起爆剤となるか/インクジェットプリンター
インクジェットによる事業展開が業界で急速に広まりつつある。大手ではセーレンの「ビスコテックス」事業が知られるが、経済産業省の中小繊維製造事業者自立事業でもインクジェット機による新規事業の立ち上げで、市場開拓を進める企業も多い。
和歌山染工(和歌山市)はインクジェット機で顧客が希望する画像データを生地にプリントして販売する「マイブランド工房」事業を進める。インターネット上のショップでのオリジナルプリント地やカバン製品を販売するが「まだまだ試行錯誤の段階」。染料インクへのこだわりと天然素材でのプリントという差別化で市場の拡大を目指す。
堀忠染織(京都市右京区)もインクジェットによる紳士シャツの製品事業を始めた。今後は婦人ブラウスでもアパレルと取り組み、新たな方向性を模索する。
商社でも伊藤忠商事が、デンエンチョウフロマン(DR社)のインクジェットプリント技術を活用した繊維ビジネスを急速に拡大。DR社と共同で設立したインクマックスを通じて、インクジェットプリントで使用できる特殊ポリマーを使った各種布製品などの販売を進める。
新たな事業展開を模索/薬剤メーカー
薬剤メーカーは国内市場のシュリンクで、新たな事業展開を模索している。
ドイツの大手染料メーカーのダイスターは、カラーソリューションビジネスを立ち上げ、日本でも川下との取り組みを強める。同ビジネスは繊維サプライ・チェーン用色見本子会社のカラーソリューションズ・インターナショナルを通じ、染料だけの販売でなく、染色加工管理をパッケージで販売する「生産側の立場に立った」ビジネス。これにより生産性、再現性の向上でコスト削減のメリットが期待できる。ウォルマート、アディダス、ナイキなど、世界で生産活動を行う企業と取り組み事業を拡大。日本でも日系企業の海外進出に対応するため、上海とシンガポールに日本人スタッフを常駐させ、同ビジネスの拡大を狙う。助剤の販売も始め、新ブランド「Evo(エボ)」を立ち上げた。
オー・ジー(大阪市淀川区)は10月、旧大日本製薬(現大日本住友製薬)から染色薬剤事業を買収した。同社はナイロン用酸性染料を幅広く販売し、今回の買収によりフィックス剤も併せて販売することで顧客対応力が強化できる。また、中国の子会社、上海欧積織染技術(OGST)を通じてフィックス剤の内販も検討する。
仕上げ用加工剤、高機能加工剤を販売する三木理研(和歌山市)は得意とするカプセル化技術を生かし、カプセルに封入する薬剤の特性によって多様な付加価値提案を行う。
コニカミノルタIJ「ナッセンジャーV」/細線や滑らかなグラデ表現
コニカミノルタIJ(東京都日野市)のインクジェット捺染機「ナッセンジャーV」。従来機に比べ品質・品位はもちろん、操業安定性を高めるとともに、生産スピードも向上させた本格機。品質・品位では細線や滑らかなグラデーションを表現する。最高速で1時間60平方メートル(従来機種は10平方メートル)、実用レベルでは30~40平方メートルを実現している。
生地幅は1650ミリ、生地厚も15ミリ厚まで対応可能。起毛品などにも捺染できる。昨年5月に発売したが、すでに国内20台、海外15台(イタリア中心)の販売実績があり、ハンカチ、ネクタイ、タオル、和装、スポーツウエアなどの捺染機として採用済み。今後は旗・のぼりやインテリア、カーシートなど産業資材用の開拓にも取り組み、早期に累計販売台数100台達成を目指す考えだ。
同社は今年1月、コニカミノルタから分社化したインクジェット専業会社。従業員150人のうち、100人が技術者で、世界で唯一、ヘッド、インク、プリンター、ソフトウェアなどすべて自社生産する。これを武器に、国内外のアフターサービスも充実している。
大和染工/事業多角化が進行中「SOMENDO」ショップ開設
浜松の大和染工(古田道生社長)は、「環境と健康」をテーマに掲げ、05年度「中小繊維製造事業者自立事業」に採択された。
具体的にはLOHAS(ロハス)の思想に基づいた商品作りと製造(モノ作り)を一元化した。
現状のような生産や消費が続けば、環境破壊が進み経済維持が困難になる可能性があるとして、同社は繊維製造業の立場から地球環境や人間関係をより良くするためロハス思想をモノ作りに取り組み、企画・生産・販売していく考えだ。
同社はすでに、「SOMENDO」ブランドの商標を取得。衣料品をはじめホームファッションなどの製品ビジネスを開始するためにアンテナショップを東京都港区青山に開設した。
同社は06年度の中小繊維製造業者自立事業への申請を目指しており、この2年間で製品事業に目途をつけたいとしている。その後は07年以降、大和染工の独自路線を推し進め、5年後の年商額(自販ビジネス)2億6000万円という数値目標を掲げている。大和染工がこの川下自販事業と併行して、(1)川下戦略(小売事業の確立)(2)海外製品販売事業(3)大和染工が綿をベースにした布帛加工からバリエーションを広げ綿、麻、シルク、ウール、さらに長繊維などの複合素材の加工を進化させる。と同時に編み物染色加工の研究・開発を推進し、事業の多角化と全天候型加工場としての事業に取り組み、同社は将来像へのアクセス作りを着実に進めている。