クリエイト・紡績技術の最先端(4)ニ層構造糸(中)
2005年09月15日 (木曜日)
単純なようで単純じゃない
クラボウも二層構造糸の開発に対して力を入れる企業だ。同社の二層構造糸技術はFCM(フォーカスメソッド)方式が基本。FCMとは異なる素材を芯鞘構造に紡出する技術を意味する。その技術で生まれたのが芯のポリエステルに綿をカバーリングした「シャレード」だ。
そのシャレードから派生し、いろいろな素材が登場する。その中でも代表的な素材が中空糸「スピンエアー」だろう。クラレのPVA系繊維「クラロンK―II」を芯に綿でカバーリングした素材で、顧客がテキスタイルや製品など好きな段階でクラロンK―IIを溶かして使う。最近では融解温度が従来品より低いものも開発し、ますます使いやすくなった。
最もクラボウの技術力の高さを示す素材に「クレメル」がある。これは“スピニング・コンポ”(高度な複合紡績技術による差別化複合糸開発プロジェクト)の一環として開発されたもので、いわばシャレードの精紡交撚タイプと言える。当然、二層構造糸の精紡交撚は技術的に難しい。交撚段階で二層が崩れてしまう可能性が非常に高いからだ。
スピンエアーと並んで、輸出に力を入れる「ルナファ」も芯が防縮ウール、鞘が綿の二層構造糸だ。特徴としては羊毛のチクチク感を低減、これもユニチカテキスタイルのテラマックのパルパー使い「パルパーTC」と同様、二層構造を生かして欠点を補った素材と言えるだろう。
意外にも、多彩な二層構造糸を展開するのは日本だけのようだ。クラボウによると、欧州ではこのような二層構造糸はあまり見ることができないという。
「ステンレス繊維を芯にした二層構造糸もその一つだ」と指摘するのが都築紡績だ。欧州などの市場で見かけるステンレスヤーンの場合「三子糸の1本がステンレス繊維という構成が多い」が、同社はステンレス繊維を完全に綿でカバーリングした原糸を新たに開発。「リジット・コア・ヤーン」(仮称)、通称「筋金入り」と名付け、主力素材に育てる考えだ。
日清紡では綿をさらに別の綿でカバーリングする「ファインソフト」という原糸を販売している。一見無意味な気がするが、生地にしたときのソフト感、肌触りは格別で、耐久性も見掛け以上にあるといった特徴がある。
ほかにも東洋紡が「ビフォンヌ」、ダイワボウが「セルピー」など二層構造糸を展開。いずれも、品質の安定性、カバーリング率に掛けてはプライドがある。まさに一筋“縄”ならぬ、一筋“糸”にならない技術が二層構造糸には詰まっている。