防炎・難燃繊維特集/防炎製品の普及を急げ!

2005年08月31日 (水曜日)

 あす9月1日は、関東大震災を契機に制定された「防災の日」。多発する大型地震もあって、一般消費者の関心は今まで以上に高まっている。その証拠に百貨店や量販店では防災関連商品の売れ行きが好調と言う。ただ、防災関連商品は災害発生後への対応品が多く、ガラス飛散防止フィルム、家具固定用ポールなどはあるが、地震後に懸念される火災被害を最小限にとどめる製品が少ない。しかし、阪神・淡路大震災で神戸市長田区は地震発生後の火災で甚大な被害を受けた。その面では火災も防災、地震対策の一つ。本特集では火災被害の縮小に効果がある防炎・難燃繊維の今を探る。

住宅火災の死者増加/逃げ遅れが主な理由

 総務省消防庁によると、2004年、日本での総出火件数は6万件強。前年に比べ4000件強も増えた。火災による死者総数は1993人に上ったが、この内、住宅火災による死者は1004人。前年に比べると37人の減少だが、03年に続き2年連続で1000人を超えた。

 05年1~3月では総出火件数が2割も減っているにもかかわらず、火災による死者は8・1%増、住宅火災による死者は実に11・2%も増え、1986年以来の最多を記録した。

 住宅火災による死者は高齢者が半分以上。その理由は逃げ遅れだ。逆に言えば、逃げ遅れないようにすれば死者数は減る。防炎・難燃繊維を使った製品もその一翼を担っている。

 私たちは数多くの繊維製品に囲まれて生活する。しかし、繊維は一般に、燃えやすい。タバコやライターなど小さな火元に触れても着火しやすい。だから、火に近い場所では燃えにくい繊維製品を使えば、火災を予防することにつながる。

超高層は防炎義務付け/カーテン 購入者任せの実態も

 ただし、その普及は遅れている。公共物はカーテンやじゅうたんなどインテリア製品は、消防法第8条の3第一項で防炎物品(消防法に定められた防炎性能基準を満たしたもの)使用が義務付けられるが、一般住宅には法的な規制はない。本当は高さ31メートルを超える高層建築物は全て防炎物品の使用義務がある。しかし、建設が相次ぐ昨今の超高層マンションは敷き詰めカーペットや共用部分を除けば「カーテンなどは購入者任せになっている」(大和ハウス工業)のが現実。オーダーカーテン製造卸の見本帳を見ても、防炎品の比率は5割を超える。防炎カーテンが世の中に存在するにもかかわらずだ。

 火災が起こってからではもう遅い。住宅火災での死者を減らすためにも、防炎・難燃繊維を使った製品を本格的に普及させる必要がある。その面で消防庁や日本防炎協会などの活動に加え、法的な規制強化も重要。05年から米カリフォルニア州がベッドマットの防炎規制を強化し、07年には全米へも広がる動きがあるように……。

ダイワボウレーヨン「FRコロナ」

 ダイワボウレーヨンは05年から米カリフォルニア州のベッドマット防炎規準を定めた州法「TB603」施行に対応した難燃レーヨン短繊維を「FRコロナ」として販売する。

 同州法に対応するため、米ベットメーカーは難燃繊維不織布をウレタンフォームと側地の間に挟み込む。その不織布の原料として、FRコロナは採用されている。

 ベッドマット用は従来の難燃剤練り込みタイプよりも、低コストながら難燃性を維持したのがポイント。FRコロナは従来品の半分以下のコストを実現した。

 練り込みタイプのほか、わた段階で難燃加工を施すタイプも開発済み。現在は月20~30トンと当初計画を下回るが、波及効果としてベッドマット以外にもインテリア向けに米コンバーターから引き合いも出てきた。

クラボウ「ブレバノプラス」

 クラボウの防炎素材「ブレバノプラス」はカネカのモダクリル繊維「プロテックス」と綿混紡織物で、ユニフォーム用に販売する。防炎性に加え、導電繊維を織り込み、帯電防止機能も併せ持つ。販売量は微々たるものだが、この5年で倍増した。西澤厚彦テキスタイル第一部次長は「ユニフォーム全体が細分化されているためだ」と分析する。

 火に近い職場があるから、防炎品も全て一律ではなく、それぞれの環境に合わせたものが要求されていると言う。そして、あまり火に近づかない作業現場では、防炎性を落として通常のユニフォームに近い風合いを求めていると指摘する。

 これまでは火に近い職場は全て高機能繊維使いが多かったが、それが変わり始めているようだ。

 ブレバノプラスでは消防関係や溶接だけでなく、外食産業の厨房など新たな用途にも広がりを見せる。

カネカ「カネカロン」

 カネカの「カネカロン」はモダクリル繊維。アクリル繊維との違いは、原料となるアクリロニトリルの重量割合が40%以上、50%未満のものを言う。1957年に事業化したもので、ビニロンに次ぐ国産合成繊維であり、同社だけが生産販売する。

 そのカネカロンはアクリル繊維の特徴に加え、難燃性を持つのが特徴。燃えるために必要とする酸素濃度が空気中のそれを上回っているため、火源がない限り単独では燃え続けない。限界酸素指数(LOI値)は28~38。さらに、合成繊維は熱で溶融する場合が多いが、カネカロンは炭化して縮む。

 難燃性を生かし、カーテン、備蓄毛布、イス張り、パーティションなどに販売してきたが、今年から新用途が加わった。米国のベッドマット用だ。05年度は100トンの販売計画だが、米国の防炎規制が現在のカリフォルニア州から全米に広がれば市場規模は5倍に拡大するだけに期待は大きい。

東邦テナックス「パイロメックス」

 東邦テナックスの耐炎繊維「パイロメックス」は燃えない繊維。日本で同社しか生産販売していない。難燃性基準となる限界酸素指数(LOI値)は実に50~60もある。耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性にも優れ、無機繊維にはない紡織加工性やドレープ性、ソフトな感触がある。

 黒色という難点があるため、主な用途は溶接・溶断火花受けシート(スパッタシート)、炉前服、各種防炎シート、断熱材、グランドパッキングなど。最近はNAS(ナトリウム硫黄電池)電池用グラファイトフェルト等の電極材用途、C/Cコンポジット材の原料に使用する。

 05年度の販売計画は前年比5割増の900トン。前年度は国内生産のみだったが、米国企業の買収により、米国生産も加わるためだ。スパッタシート向けはほとんど変化がないものの、昨今の石綿問題から「問い合わせは増えている」と言う 。