紡績技術特集/各社の技

2005年08月29日 (月曜日)

都築紡績の技/TS20の綿糸だけじゃない

 都築紡績の出雲工場(島根県出雲市)では、研究開発用に前紡から精紡までの機械をそろえた試作工場を設け、新素材の開発に取り組んでいる。これまで「TS」という定番糸を生産するイメージがあった都築紡績。そのイメージは大きく変わろうとしている。

 試作が最終段階に入った開発素材がいくつかある。その一つにステンレスを芯にしたコアスパンヤーンがある。他社のステンレスヤーンの場合「三子糸の1本がステンレス繊維という構成が多い」が、同社は完全にカバーリングするタイプの原糸だ。それだけに高い技術力が必要となる。これを「リキッド・コアヤーン」(仮称)、通称「筋金入り」と名付け、高知工場(高知県南国市)で9月から本生産に入る予定だ。

 出雲工場は「綿糸の総合工場を目指す」意向で、世界各地の様々な綿花を現在研究し、商品化を進めている。工場内に綿花のスペシャリストを多く育て、最終製品がどのようなものになるかを意識したモノ作りを徹底的に行う方針。オーガニックコットン、未利用綿、合繊などの原料のバラエティーを含め、リング精紡機とOE機の精紡法のバラエティーを混ぜた差別化糸の開発にも取り組む。将来的には新しい紡機も導入したいという。

 開発は差別化糸だけにとどまらない。スラブ糸の形状が織物上でどのような表情を見せるかをパソコンの画面で確認できるソフトを独自に開発した。これで生地の表情を見るためにわざわざ試織する必要がなくなった。開発だけでなくマーケティングにとっても有用なアイテムとなる。

 独自の少品種大量生産方式であるTNS方式を今後、どのように多品種小量生産型にするかなど、まだまだ工程面での改善に課題が残る。しかし、工場に顧客を招き、一緒になってモノ作りができる体制を構築中で、新生都築紡績の形ができつつある。

第一紡績の技/究める結束紡績法

 先端の結束紡績の技術を追究する第一紡績。同社が展開する結束紡績糸は特徴や紡績法によって大きく3つに分類できる。

 1982年に合繊専用だった紡機を綿でも紡績できるように改造し、商品化に成功した素材が「ASA(アーサ)」だ。結束紡績糸の構造としては糸の芯部に無撚の平行繊維束と平行繊維の周りに巻き付いている巻き付け繊維(ラップ繊維)からなる。風合いに独特のシャリ感、吸水性が良い、毛玉が発生しにくい、通気性が良い、縫製しやすいなどの特徴がある。

 ただ、リング精紡糸に比べ約80%程度の強力しかない。また、訴求点によって“うたい文句”にはできるが、生地の表情がクラウディで硬さがあった。そこで結束紡績でありながらリング精紡に近付けたのが「IFS(イチボウ・ファースト・スピナー)」紡績法だ。これらはアーサ紡機に毛羽伏せ機構を持った特殊装置を付随、98年に商業生産に成功した素材が「クリアーコット」だ。毛羽の少なさとともに強撚ライクな風合い、高い吸湿性能を持つのが特徴だ。

 しかし、あまりにも毛羽が少ないというのは弱点にもなる。いわば「きれいな顔にニキビ」のようなもので、欠点が少しでもあれば目立ってしまう。また、アーサ、クリアーコットともに糸構造に特有の“くねり”があった。そこで特殊紡機を導入し、新たな紡績法「IPX(イチボウ・プロダクション・テン)」による原糸「タフコット」を2002年に開発した。結束紡績の一種だが、アーサやタフコットとは構造が異なる。すべての繊維の一端を芯部に保持し、もう一端を結束させる格好で糸にする。

 極めて少ない毛羽、ピリング性に優れるのはもちろん、リング精紡糸に近い糸筋と風合いを実現した。今年、細番手化に成功し、80番手の純綿、リヨセル100%糸を展示会で披露。同型の紡機では通常60番手の紡績の限界と言われる中、同社の高い技術力を示す一例と言えるだろう。

ダイワボウの技/原綿から厳選した開発を

 ダイワボウは紡績子会社ダイワボウマテリアルズで差別化糸を生産する。同子会社にはリング精紡機を主体にした舞鶴工場(京都府舞鶴市)、OE機を主体にした和歌山工場(和歌山県日高郡)の2工場がある。

 来春夏向けに「プレステージコットン」シリーズとして綿花にこだわった商品群を打ち出す。インドの最高級原綿「セーラムスビン」、エジプト超長綿「ミタフィ」、スーピマ綿の3種類を厳選。これらの原綿の繊維長、繊度などの物理的なデータを収集し直し、単一原綿での最上級のモノ作りを追求する。リング精紡糸での展開が中心となるが、OE糸でも対応できる。

 リング精紡糸では細番手化を進め、今年新たにコアスパンヤーン「キューロン」を進化させた「キューロン100」、「キューロン80」を開発した。この数字は番手を示したものだ。今まで30クラスの中番手しか生産できなかったが、紡機を改造し、細番手化に成功した。もちろん、そこまでの細番手を紡績するには綿花にもこだわりが必要。キューロン100はエジプト超長綿のギザ種を、キューロン80は超長綿クラスの原綿を使用する。すでに120番手まで紡績する技術も確立した。

 一方、OE糸では「今までのOE糸のイメージを覆したい」とのコンセプトで開発した、毛羽が少なく、ソフト感やハリコシに優れる「エアコンパクト」をシリーズ化した。新たに展開するのは強撚、ムラ糸、綿リネン混、綿レーヨン混・レーヨン100%の4種。レーヨン・シルク混なども試紡中だ。リネン混は40%混が中心で、50%混までの対応が可能。リネン100%のエアコンパクトの開発も現在進めている。

東洋紡の技/進化する高次複合紡績糸

 東洋紡は4月、顧客との双方向の取り組みを通じ、特殊紡績技術をベースに、独自開発、生産体制によって作る複合特化紡績糸を総称し「INAMI(イナミ)」ブランドとして打ち出すことを発表した。

 ブランド名の由来である井波工場(富山県東砺波郡)には「テクノミルB」と称する極小ロットで新開発糸を商業生産する区画があり、そこで様々な新素材の開発も行われている。現状、(1)新長短複合技術の確立(2)長短複合の交撚糸技術の確立(3)複合糸の細番手化――の3点を主眼に置いた開発を進める。

 まず、新長短複合技術ではソフトストレッチ繊維「ダウXLA」と組み合わせた素材開発が目新しい。例えば高次複合混繊技術「マナード」を応用した二層構造糸「ポスフィナ」と組み合わせた素材は一味違う。通常のダウXLAのコアスパンヤーンの場合、オパール加工を施すと綿部分が溶解してしまいダウXLAしか残らないといった不具合が生じる。しかし、ポスフィナの技術を活用すれば、糸の構造から綿部分は溶解せずに残る。このようにダウXLAと組み合わせた素材は3層構造糸「フィラシス」でも活用され、スポーツ素材などに拡販する。

 交撚の技術は「フォロー」と「コンポジット」の2種類の技術を持つ。フォローは2本の繊維を「片方は強撚、残りを通常の撚り」といった形で、別々に撚りながら機能性を調整できる技術だ。これにより通気性などを変えることができる。コンポジットは糸と糸との二層構造交撚糸だが、この技術を活用すればノントルクの芯鞘構造糸を作ることが可能だ。糸と糸で長短複合素材など、新しい発想の撚糸素材の開発が進む。

東邦テキスタイルの技/差別化の発想は無限大

 東邦テキスタイルは複合糸の開発に力を入れている。素材からのテクニックとしてインド綿、再生セルロース繊維系のリヨセルやモダール、「テンセル」、扁平レーヨン「バイロフト」、アクリルでもマイクロアクリルを取り入れるなど、展開する原糸群も多彩だ。

 マイクロアクリルを使った「ソリスト」シリーズでは、バイロフトを組み合わせた「ソリスト・サーモ」が人気商品になっているが、新たにバイロフトを綿に置き換えた「バーディ」を開発した。マイクロアクリルとピュアクラスの綿花を使って優しい肌触りが特徴だ。軽さを持ちながら暖かさも加味した。現在、新しいタイプのレーヨンを使った素材も開発中で、ソリスト・シリーズは今後も拡充する。

 同社の紡績技術を語るうえで欠かせないのがマルチカウント糸「カクテル」だ。任意のベース番手にムラを演出することで作るスラブ糸とは少し異なる。最新鋭のコンピューター装置と紡績技術を駆使し、ベース番手自体を自由に変化させることが、カクテルと通常のスラブ糸の違いだ。そのため、太細の強弱、長さなどを自由に設定し、多様な表情を作り出すことができる。

 同糸を作るには物理的な面で非常に難しい技術を要する。太細を繰り返すため、強力を維持しなければならない。たとえ、原糸としてでき上がっても、染色などの加工の段階、すなわち“糸をいじめる”工程に耐えなければ商品として顧客に売ることができない。

 そのカクテルの進化版といえる素材も開発している。通常のカクテルが凹凸の“凸”部分を意識して作ったのに対し、 “凹”の部分を主力にして作ったのが「カクテル・リバース」だ。従来の機械に特殊装置を取り付け、凸部分に異繊維を張り付けるタイプの斑糸「カクテル・パッチワーク」は混紡と混紡、フィラメントとステープルなど、どのような原料、素材も組み合わせることも可能で「差別化の発想は無限大」と言える素材だ。

日本毛織の技/独自技術で差別化光る

 日本毛織は来季向けに軽量涼感性を追求したウール素材「クールツイスト」を開発した。純毛スパン糸にセラミックを練り込んだ高機能フィラメント糸をカバーリングし、さらに追撚する2段撚糸法「トルネードツイスト」など、紡績技術と織物設計技術を組み合わせた素材だ。毛羽が少なく非常に均一な糸で、従来の盛夏織物に比べ150%の非常に高い通気性を持つ。熱遮蔽性もあり、マイナス4℃の涼感を実現した。UVケア効果に優れる。

 また、同社はウール業界で初めて梳毛式コンパクト精紡機を取り入れた企業としても知られる。空気で繊維束を収束してから、毛羽を包み込んで撚りを掛けること仕組みから、均一、きれい、滑らかな原糸になるのが特徴だ。同糸を使った織物は「コンパットラナ」として展開。「シャンブレー調だと発色の良さが際立ち、非常にコントラストがきれい」になる。ニュージーランドのファインウール「MAF」などの高級原料を使えば、より洗練された素材となる。

 経糸でも純毛細番手の単糸を使うことができる「ネオソロスパン」は今までのソロスパンより「短繊維のからみを強く」した素材。ソロスパンの機械を改造し、すでに20台がネオソロスパン仕様となっている。100毛番手でも生産でき、独特の風合い、清涼感のある織物に仕上がるほか、双糸に比べてコストメリットもある。

 同社では原料からの差別化にも取り組み、バンブーレーヨン「ニッケ・バンブール」や、ハリコシ感・膨らみのある英国羊毛、異型断面ウール「オプティム」、獣毛混、シルク混、麻混など様々な原料を使った素材が多彩。それらと紡績技術を組み合わせた独自素材の追求に余念がない。