植物原料繊維特集・自然と人間の協働
2005年07月13日 (水曜日)
環境対応にはベストマッチ
レーヨン、キュプラ、アセテート。全て植物からできた繊維だ。一般消費者にどこまで浸透しているかは不明だが、石油を原料とするポリエステルやナイロンとは違う。かといってコットンとも違う。自然と人間との協働が生み出した繊維であるからだ。今は天然繊維のトレンドだと言う。その中でコットン以外の植物を原料にした様々な繊維が脚光を浴びている。植物原料繊維が着目されているのは、単なるトレンドだけではない。21世紀は環境の時代。「クールビズ」への関心が高まるのと同様、生分解性があり、石油を原料とする合成繊維に比べ、環境負荷が少ないことも大きい。植物原料繊維の時代は一歩一歩ながら、間違いないなく近づいている。
石油が原料じゃない
植物原料繊維の代表格はコットン。コットンを知らないという人はまずいない。しかし、コットン以外の植物を原料にした繊維については、あまり知られていないのではないだろうか。
レーヨンはポリエステルやナイロンと同じと考えていないだろうか。レーヨンは最も早く作られた化学繊維で、原料は木材のパルプ。かつては多くの繊維素材メーカーが製造していた。
合繊大手の東レ、帝人ももともとはレーヨンメーカー。東レが東洋レーヨン、帝人が帝国人造絹絲だったことからも分かる。今は日本ではオーミケンシとダイワボウレーヨンしか作っておらず、短繊維だけで、長繊維で国産品はない。
日本化学繊維協会によると、2004年のレーヨン短繊維生産量は前年比2・5%減の3万7847トン。02年以降は多少減っているものの、3万8000トン前後を維持している。その面では底打ち感がある。
レーヨン短繊維は不織布にして、赤ちゃんのお尻拭きなどウェットワイパーに使われる場合が多い。レーヨンが持つ吸水性やソフト性が認められているからだが、衣料用でも新素材の開発が進んでいる。ダイワボウレーヨンは大手乳業会社と、牛乳タンパク成分を練り込んだ「ミレー」を共同開発した。保湿性を生かし肌着向けに販売しているが、抗菌性などの機能性について分析中で、ミレーの後継素材の開発にも意欲的だ。オーミケンシもレーヨンにスクワランを練り込んで保湿性、吸放湿性をもつ「パポリス」を販売しており、こうした機能レーヨンの拡大に力を入れている。
欧米では婦人服地で高評価
レーヨン同様、木材パルプを原料とするアセテートは三菱レイヨンの独壇場。とくに、トリアセテート長繊維「ソアロン」は世界で同社しか作っていない。
日本化学繊維協会によれば、04年のアセテート生産量は前年比3・7%増の10万9278トンと02年の水準にまで戻した。この内、長繊維は10%ほどに過ぎない。
ソアロンは婦人服地向けが主力用途。国内だけではなく、欧米でも高級婦人服地として認知されている。課題は編み地の開拓で、現在プロジェクトを設けて取り組んでいる。
他素材複合で価値創造
旭化成せんいのキュプラ繊維「ベンベルグ」も世界でほぼオンリーワンの繊維だ。コットンの種を包む産毛状の短繊維(コットンリンター)を原料にしている。
04年の生産量は前年比4・8%減の1万4046トン。裏地を主力とするが、服地向けでは他社とのコラボレーションを推進する。その一つが、クラボウ羊毛事業部と共同開発したウール・キュプラ混紡糸による生
地。接触冷感がありながら吸放湿性に優れた新清涼素材として、青山商事が紳士服地に採用している。
モリリンが展開するリヨセル(「テンセル」)は、オーストリアのレンチング社が生産する精製セルロース繊維。天然パルプを原料とする植物系繊維で、有害廃棄物を一切出さずに作られる。そのため環境に優しい、木のぬくもりを持った肌に優しい繊維として、見直されている。同社は大手紡績との協働で、伸縮性や光沢感、濃染化など、新たな価値を付加する開発にも取り組み、リヨセルに新たな息吹を与えている。
レーヨン、アセテート、キュプラ、リヨセル以外にも、竹を原料にしたバンブーレーヨン、トウモロコシを使ったポリ乳酸繊維など自然と人間の協働による植物原料繊維は数多い。こうした植物原料を化学的に繊維にしたもの以外に、植物原料を紡績技術によって、糸にするものもある。
紡績技術で何でも糸に
綿紡績ではバナナの木の茎、ケナフ、月桃、ラベンダー、カポックなど様々な植物を長年培った紡績技術で糸にしている。竹も溶かしてレーヨンにするのではなく、竹そのものを紡績して糸にする企業も登場している。
こうした植物原料繊維に共通するのは、コットン同様、生分解性など自然環境に配慮した素材でもある点だ。
05年、環境省が夏の軽装クールビズの実践を提唱するなど環境問題に対する意識は年々、高まりつつある。
環境を無視して事業活動することは、ますます厳しくなってくるはず。その面で、植物原料繊維はアパレルの新たな企画に役立つ可能性は高い。