炭素繊維特集/東レ、東邦テナックス、三菱レイヨン 3大メーカーが世界市場を牽引
2005年06月29日 (水曜日)
年率10%超で市場拡大
PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維の設備増強や能力増強が相次いで発表された。04年に2万5000トン超となる世界の炭素繊維の供給能力は06年には3万トンをゆうに超える。各社は旺盛な需要にさらなる増設を検討しており、日本発の同素材の急成長は必至と言っていい。
増設計画、今年も相次ぐ/シェア最大の東レは年産1万3100トンへ
東レは4月にPAN系炭素繊維「トレカ」の設備増強を愛媛工場で実施すると発表。07年1月からの稼働予定で、炭素繊維原糸のプリカーサの重合・製糸および焼成までの一貫生産ライン2系列と樹脂を含むプリプレグ(炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸したシート)生産設備1系列を増設する。これにより愛媛工場における「トレカ」生産能力は現状の年産4700トンから6900トンに拡大し、グループ全体としては1万3100トンに拡大することになる。
三菱レイヨンは今年1月末の発表で、米グラフィル社で現状の年産1500トンの生産能力を今年第4四半期(10~12月)の稼働予定で500トン増強し、年産2000トンとするとした。
また同社は06年第1四半期(1~3月)の稼働予定で、英SGLカーボングループへの生産委託を決定しており委託量は年間500~750トンを予定している。これにより、三菱レイヨンのグループ全体としての生産能力は06年第1四半期時点で、5700~5950トンとなる計算だ。なお同社は国内で07年第3四半期(7~9月)に焼成ライン2000トンの設備増強も検討している。
昨年8月にラージトウからレギュラートウへの設備改造を含めた生産増を発表した東邦テナックスは、計画に若干の変更を加えながらも06年10月にはグループとしての生産能力を7800トンに拡大する。
以上が、国内メーカーの今後を含めた生産能力規模だ。また米ヘクセル(現状の推定年産2300トン、08年に1000トン増を計画)、米サイテック、台湾プラスチックスといったレギュラートウのメーカーはプリプレグがコアビジネスのメーカーであるため大規模な増設はないと見られている。そうなれば現状発表された計画が実施され、かつ今後の増設がないとするならば少なくとも08年時点で8割弱のシェアを日本メーカーが占め続けることになる。
こうした増設・増強のラッシュは1997年に国内メーカーの一斉増設以来のものと言っていい。97年当時は一時的に供給過剰状態となったが、2002年を底に、3大用途とされる「航空機」、風力発電の風車ブレードなどの「産業資材」、ゴルフシャフトなどの「スポーツ」のうち安定化したスポーツを除き、うち2用途で旺盛な需要に供給が追いつかない局面に差し掛かっている。発表されている増設・増強計画はこうした需要に対応するものだ。
国内メーカーでも戦略に違いがある。プリプレグに着目すると、東レは07年1月にはグループ合計で2220万平方メートルに拡大する計画だ。三菱レイヨンはグループ合計で930万平方メートルの生産能力を持つ一方、東邦テナックスは糸売りに徹する姿勢だ。東レ、三菱レイヨンはプリプレグを積層して一定の形状に成型したコンポジットの生産までの一貫体制を敷いており、こうした各社の戦略と規模の差がいかなる結果を生み出すか注目に値するところだ。
2010年のシェア40%に/東レ
東レは今年4月に、2007年1月稼働開始予定で、炭素繊維原糸のプリカーサの重合・製糸・焼成までの一貫生産ライン(年産2200トン)と樹脂を含むプリプレグ生産設備1系列(年産580万平方メートル)を愛媛工場で増設すると発表した。
ちょうど1年前には06年1月稼働予定でトーレ・カーボン・ファイバーズ・アメリカ(CFA)社で焼成設備を1系列増設し、倍増の年産3600トンとする計画を発表。現状発表済みの増設分を合計すると、炭素繊維で07年1月時点で1万3100トン、プリプレグで2220平方メートルに拡大する計画になる。今後の増設を視野に入れ、圧倒的な市場シェアを維持拡大する構えだ。炭素繊維での現状のシェア34%から、年間総需要伸び率予想の10%を超える年率12%の販売拡大により、07年には35%に、10年には増設でシェア40%とする計画と言える。
航空機用途では圧倒的強さを維持・拡大する方針。米ボーイング社とは04年から18年間の長期供給計画を締結しており、B777やB787などへの一次構造材の独占供給と次期航空機への継続採用を確立している。産業用途では米CFA社での1800トン増設に加えさらなる大型設備の開発を推進。品質優位性によるディファクトスタンダード化と多用途展開を進め圧力容器や土木建築、輸送機器、一般産業機械などにおけるテクニカルマーケティングを推進する。スポーツ用途では同分野の生産基地が中国にシフトするのに対応するとともに、高付加価値品などでの新規需要を開拓する。
04~07年までの4年間で450億円の投資を行う日米欧3極の積極増設は10年までにそれぞれの拠点で増設をさらに予定し、年産2万トンへの拡大を構想。中国での生産も視野に入れフィジビリティー・スタディを開始した。
同社は炭素繊維を用いた複合材料で自動車車体などを大量生産可能な高速成形技術を世界で初めて確立した。成形時間を10分以下とし、従来の約15分の1に短縮する新技術は、炭素繊維複合材料適用自動車の量産化を加速させると期待される。同社は炭素繊維からプリプレグ、コンポジットに至る垂直統合型事業を推進し、プリプレグでは航空機用途で大幅拡大を計画するほか、コンポジットでは自動車部品のほか、土木建築分野などでの用途開発を推進する。
なおこれら規模拡大に伴い、事業収益は04年の連結売上高447億円、営業利益56億円から07年には700億円超、120億円超、2010年には1100億円超、180億円超とする計画だ。
06年に年産7800トンに/東邦テナックス
東邦テナックスは04年8月末に米国での炭素繊維事業の買収、10月初旬にドイツでの製造ラインの増設をそれぞれ発表した。米国ではアコーディス社の100%子会社フォータフィルファイバーズの炭素繊維事業を東邦テナックスの100%子会社トーホウ・カーボン・ファイバーズ社が資産買収。年産3500トンのラージトウ設備がグループに加わった。
当初計画では05年以内に買収したラージトウ3500トンの設備をレギュラートウ700トン、ラージトウ1300トンに改造し、一部を耐炎繊維「パイロメックス」に移行する予定だったが、レギュラートウへの改造は06年まで見送った(パイロメックスへの移行は年産1400トンで今上期中に完了予定)。これは通常微細粒のチョップにしてパソコンの筐体(きょうたい)などに使用するラージトウが、欧州で一般産業用途の主要用途である風力発電用の風車ブレードに使用されることが認定されたからだ。通常、風車ブレードには航空機などに使用されるレギュラートウが使われるが、同社としては需給がひっ迫する中、レギュラートウを他用途にシフトすることが可能になったかたちだ。
また昨年10月には100%子会社のテナックスファイバーズで年産1500トンを持つ1ラインを加え計3ラインとする計画を発表した。今年4月に定礎式を行い、06年秋口には商業運転を開始する予定だ。
このため、同フループとしてのレギュラートウ生産能力は06年秋に現在の年産5600トンから7800トンに一気に拡大する。
同グループでの用途別構成比は風力発電の風車ブレードなどの一般産業用途で50%、航空機用途で25%、スポーツ用途で25%。欧州での風車ブレード向けがラージトウでも可能になったため、北米で比較的シェアの低いCNGタンクなどへの振り分けが可能になったとも見られる。
日米欧生産拠点確立へ/三菱レイヨン
三菱レイヨンは今年1月末、今年の第四4半期(10~12月)の予定で米グラフィル社におけるレギュラートウの年産能力を年産500トン増強し、現状の年産1500トンから2000トンとする計画を発表した。また06年第1四半期(1~3月)をめどに年産500トン~750トンを英SGLカーボングループに生産委託することを明らかにした。
この能力増強と生産委託により三菱レイヨングループの生産能力は06年第1四半期時点で豊橋工場の3200トンを合わせ5700~5950トンとなる予定だ。
同社は、06年就航予定のエアバスA380で使用する一次構造材の被認定作業を進めている。炭素繊維は国内の豊橋工場から供給し、プリプレグを同じく豊橋工場、仏ストラクチル社から供給する体制とする計画だ。
SGLカーボングループへの生産委託により、同グループとして日欧米の炭素繊維の生産拠点を確立することになる。欧州での認定作業が順調に進むとするならば、欧州における生産拠点確立は日米の生産拠点と補完関係を築く上でも必須と言っていい。同社はSGLカーボングループへの生産委託を戦略的提携の第一歩としており、今後の提携での深化も示唆している。
同グループは1976年にプリプレグの生産を開始して以来、炭素繊維事業に参入した。焼成工場の本格稼働は83年に大竹事業所、90年に豊橋事業所とプリプレグの生産以降に炭素繊維の生産を開始している。このためかメーカー3社のうち炭素繊維の生産能力は最小であるが、プリプレグの生産能力については豊橋工場(年産400万平方メートル)、米ニューポート社(同400万平方メートル)、仏ストラクチル社(130万平方メートル)の合計930万平方メートルとなり、最大の東レ(現状1020万平方メートル、ただし07年1月には2220万平方メートルに拡大)に迫っている。
世界的な需要増に対応するためのレギュラートウの生産能力増強は同社にとってはとりわけ急務といえ、07第3四半期には、国内で年産2000トンの焼成ラインを新たに稼働させる検討に入っている。