春季総合特集4・商社編/消費者視点の発想一段と鮮明に
2005年04月25日 (月曜日)
アパレルメーカー向け製品OEM(相手先ブランドによる生産)事業が、収益の柱となっている商社にとって、衣料品市場の不振は大きな問題だ。05年度の商社は、多様化する消費者ニーズに対応した企画提案、モノ作りを進めるために、消費者の視点に立った発想でビジネスを構築する姿勢を一段と鮮明にした。一方、クオータフリー実施で中国を中心に欧州、米国など海外市場の商流は確実に変化している。この機を逃さず、各商社は海外商権の拡大に積極的に動き出している。
存在価値を際立たせる戦略
多様化する消費者ニーズに対応した企画提案や、モノ作りを進めるために、企業は消費者の視点に立った発想でビジネスを構築することが不可欠になった。各商社はそれぞれの強み=存在価値を際立たせる形で、新たなビジネスの構築にアプローチしている。
伊藤忠商事は、マーケティング・カンパニー構想を一段と加速する。岡藤正広常務繊維カンパニープレジデントは、「ブランドマーケティングのビジネス手法、消費者の視点に立ったマーケティング発想で既存商権を見直すことによって、川上・川中分野を活性化する」と、ブランドマーケティング部門を持つ強みを最大限に生かす。
すでに繊維原料部門の企画で米国婦人服ブランド「エリー・タハリ」と独占輸入販売契約を結び、ウールン商会を総発売元として今年から日本で展開するなど効果が表れ始めた。
ダイエー再建のスポンサーになった丸紅は、同社の強みとして「生産軸を持った卸機能」を掲げる。小籔博執行役員繊維部門長は「情報や近代的物流、企画提案力、開発力を持った卸。かつ売り場に足がかりを持ち、売り場に近いスタンスで事業展開する卸」と、売り場、消費者に近い距離を強調する。
ライフスタイルを提案
住友商事は4月から繊維本部と消費流通事業本部を統合し、ライフスタイル・リテイル事業本部へ組織を改めた。事業本部長の梶原謙治執行役員は「消費者が何を欲しがっているのか、ますます企画提案力が重要。川下を基点に川上へさかのぼって魅力ある提案をする」と、コーチなど高級ブランドから食品までの幅広い情報の共有を企画提案に生かす狙いを語る。
繊維本部と物資本部を統合してライフスタイル事業本部を設立して1年の三井物産。事業本部長の北村透執行役員は「インテリアや寝装、雑貨などへ事業領域を広げ、商品だけではなくサービスも含めて、消費者起点でより豊かなライフスタイルを提案する」と、ライフスタイルで先行する同事業本部のミッションを説明する。
4月から食料、物資・リテール、繊維の3部門を統合し生活産業部門を発足した双日。部門長の米村太一執行役員は「消費者に近い食料などを統合したことで川下対策を強化する」と、変化が激しく予測のつきにくい消費者動向への対応を強化した。
トーメンは、原料からテキスタイル、製品まで幅広い商材を扱う強みを生かし、川上から川中、川下まで“一気通貫”で、より柔軟に市場の動きに対応する。大向堅一執行役員大阪本社担当補佐兼繊維本部担当補佐は「われわれの存在価値は、原料から製品まで、どの切り口からでも攻められること」と、組織の協働とシナジーを生かす。
SCM強化が顧客満足に
生産、物流拠点を背景にしたサプライ・チェーン・マネジメント(SCM)に特徴を持つ商社も多い。三菱商事の矢野雅英執行役員繊維本部長は、「商品供給を軸にSPA(製造小売業)と連携したSCMの構築がコア」と強みを語る。今期はMD機能や企画力を重視したSCMへと進化させ、顧客の満足度を高める。
中国の生産拠点と物流拠点をITネットワークで結んだSCM一貫体制に強みを持つ住金物産。今期はこれを販売系システムまで含めたSCMネットワークに進化させる。より効率的で市場ニーズに沿ったモノ作りを進め、「今までにモデルのない新しいメーカー型商社」(大塚隆平副社長繊維カンパニー長)を目指す。
NI帝人商事は「生産から流通までを含めたモノ作りに絡む機能、その新しい役割を果たすことが商社の生き残る道」(森田順二社長)と、バリューチェーンをコーディネートし、コンパウンドして、コンバートできる3C機能を一段と強化し、未来型の商社を追求する。
海外市場開拓への動き加速
国内の繊維市場が縮小傾向にある中、各商社は自らの得意分野で積極的に海外市場を開拓する動きを加速している。
今年1月からのクオータフリー実施後、「モノの流れが中国から欧州、中国から米国へと変わってきた」(NI帝人商事森田順二社長)というのは各商社に共通の実感だ。統計データなどをみても中国から欧州、米国市場へ向けた製品の流れが急増している。各商社はこの流れを大きなチャンスととらえて積極的に動き出している。
トーメンは今期、重点分野として、日本市場である程度シェアを持つタイルカーペットやカーテン、寝装品など、これまでほとんど海外に目を向けていなかったインテリア分野の製品を、中国経由で欧米市場へ積極的に拡販する。大向堅一執行役員大阪本社担当補佐兼繊維本部担当補佐は「中国で生産している製品は日本市場の高い品質要求をクリアしてきたもの。米国市場でも十分通用する」と自信をみせる。
新たな市場開拓のためにニューヨーク現地法人でリビング、インテリア分野へシフトした人員配置を行うとともに、欧州の現地法人とも連動、全社一体となって海外市場へ向けた販路拡大を進める。
NI帝人商事は「海外拠点をプロフィットセンター化」(森田社長)して、商権の拡大に力を注ぐ。特に中国発欧米向け製品では、インテリア分野のカーテンやカーペット、雑貨などをアジアで調達し、米国市場向けに販売するビジネスが、今年は大きな塊に育ちつつある。
前期EU向けが低調だった丸紅は、日本のハイテク技術を活用したアジア製テキスタイルをベースに、二次製品で事業を拡大し、巻き返しを図る方針だ。「日本の強みはトータルイージーケアなど機能性」(小籔博執行役員繊維部門長)と、独自性のある高機能素材を武器に欧米市場向けのビジネスを再構築する。
「現状、中国ビジネスは大きな利益が出ている最も重要な分野」と言うのは、伝統的に中国との関係が深い蝶理の国原惇一郎常務。利益の源泉が中国を軸とした製品展開にあるだけに、日本市場向けの企画提案型OEM供給をベースに、対欧米向けの製品ビジネスをテキスタイルとアパレル両部門の連携で進める。
中国内販でブランド事業
一方、中国国内市場へ向けた動きも活発になってきた。三井物産は中国内販で積極的にブランド事業を行う。ハナエモリのヤングライン「アロマンローズ」を今年の秋冬物から中国で発売する。同社がブランドホルダー、オールスタイルがライセンシー、中国では韓国系現地企業のケイ&ジェイも含めた3者合弁で事業を進める。北村透執行役員ライフスタイル事業本部長は「中国に会社を設立してブランド事業を行うのは今回が初めて。衣料品のほか、アクセサリーなど雑貨も扱う」と意気込みを語る。
同社は今年5月、上海でブライダルプロデュース事業にも進出、結婚式のプロデュースや宴会場の手配、ウエディングドレスや引き出物の物販などの事業を行う。今後は、顧客名簿を活用して出産や子供の入学・卒業など、ライフスタイルに合わせたビジネスを展開する。
住金物産は、現地SPAが欧米ブランド製品を現地で生産、販売する際のOEM供給とそれに伴う素材販売に狙いを定める。大塚隆平副社長繊維カンパニー長は「日本のアパレルメーカー向けのOEM供給と本質的に同じビジネスモデル。今後、かなり可能性がある」と期待する。
中国内販は現時点では与信面など、まだまだ現地の取引先企業のリスクがつきまとう。しかしリスクを恐れていては、08年北京五輪、10年上海万博までは右肩上がりの成長が確実な巨大市場に参入することはできない。「リスクは走りながら考え、クリアする」(住金物産大塚副社長)ことで、商社はその役割である海外マーケットの新規開拓を果たす
国内のモノ作りを見直す動き
小売り店頭の低価格路線に一時の勢いがみられないなか、ハイクオリティーなモノ作りに欠かせない国内産地との関係を強化し、生産体制を見直す動きも出てきている。
蝶理は、製品分野での商品ゾーンの多様化に対応し、国内産地との連携を高めるために新潟事務所を開設した。同社の国原惇一郎常務は「ベターゾーンの上のクラスでトレンドに合わせてモノ作りを進める場合、国内産地にある程度頼らないといけない」と新潟産地の技術、ノウハウを高く評価する。
4月からはポリエステル、ナイロン分野で国内シェア30%と特化した強みを持つ北陸産地の北陸原料部を原料貿易部と合体、その高付加価値力を原料貿易部の世界的な販売力と結びつけ、世界市場への輸出を狙う。
丸紅も国内産地への対策を強化している。「産地との取り組みをきっちりと行っていく」(小薮博執行役員繊維部門長)との言葉通り、金沢、長岡、岡山、名古屋の各支店に対して人員など資源を投入。新年度の自立事業でも産地企業との連携で数件申請している。
NI帝人商事が合併後初めて展開するブランドビジネス「ルチアーノ ソプラーニ」は、欧州から輸入した生地をすべて日本国内で縫製するなど、メードイン・ジャパンにこだわる。高感度な母娘2代をターゲットに高級感、上質感を追求した商品は、品質に対する高い信頼感を獲得、予想を上回る受注を得ている。
生産背景を再編、強化へ
クオータフリーの影響の一つとして現地工場の欧米向けへのシフト、反日デモで顕在化した一極集中のリスクに対して、中国や東南アジアでの生産拠点や物流拠点を再編、強化する動きが活発になってきた。
住金物産は生産系SCM強化の一貫として、中国に20カ所ある自社工場について、2年前から順次リニューアルしている。事業環境の変化に合わせ、場所の移転やスペース拡大、機械設備の入れ替えなど、「目鼻がついた」(大塚隆平副社長繊維カンパニー長)状況だ。前期は物流拠点でも青島住倉国際物流有限公司を設立し、軌道に乗せた。今期は天津、大連と拠点を広げる予定で、物流機能も着実に進化を続けている。
NI帝人商事も生産基地の再構築を今期の課題に挙げる。量販店向けのロットが小さいアイテムでは生産拠点が分散している。これを集約化するとともに、よりレベルの高い製品へ移行するために技術指導を組み込み、工場のレベルを上げて、「低価格製品の場合、人民元が切り上げられたときに、価格に転化できない」(森田順二社長)リスクを回避する。
三菱商事は中国偏重のリスク分散化を検討している。矢野雅英執行役員繊維本部長は「やり方としては、中国の中での分散化もあれば、ベトナムやタイ、インドなどを供給国とすることも考えられる」と語り、少なくとも上海偏重は緩和する方向だ。