日本の繊維産業とアジア2・インドネシア/04年底に反転か?

2005年03月29日 (火曜日)

日系企業の悲観ムード薄れる

 インドネシアのマクロ経済は回復基調にある。民間消費に支えられて実質国内総生産(GDP)成長率は右肩上がりで推移し、04年は前年比5・1%を記録した。とはいえ、繊維産業を取り巻く環境は依然厳しい。2ケタ%台で推移していた最低賃金上昇率は03年以降1ケタ%台に低下しているものの、エネルギーコストの上昇が続いている。旭化成せんいが同国でのナイロン長繊維製造とアクリル紡績事業から撤退せざるを得なくなったことも、同国繊維産業の厳しさの表れだ。しかしここにきて、少なくとも日系企業を覆っていた悲観ムードは薄れつつある。「インドネシアの繊維産業は現時点が底で、05年度から反転する」(NI帝人商事インドネシアの田中博社長)という見方さえ出てきた。

反転攻勢へあの手この手/合繊製造と紡績業界

 97年度以降赤字体質が続いていた帝人系のポリエステル長、短繊維製造合弁、テイジン・インドネシア・ファイバー・コーポレーション(TIFICO)は、課題の一つだった過剰人員問題にめどをつけた。03年度以降の2年間で合計約600万ドルの特別損失を計上しながら、02年末に約2000人だった従業員をほぼ半分にした。エネルギー源の重油から石炭への転換も着々と進めている。さらに、従業員を増やさずに重合能力を20%、ポリエステル短繊維生産能力を30%増強することを計画している。赤字が続くポリエステル長繊維についても、旧式のFOY設備をPOY、DTY設備に置き換える計画だ。コスト構造の改革の途上にあった04年度は、収支トントンかやや赤字が残った模様だ。しかし05年度は売上高が前年比11%増の3億ドルとなり、経常利益、純利益ともに500万ドルの黒字を確保できると石田正夫社長は語る。

 東レ系のポリエステル長、短繊維とナイロン長繊維製造合弁のインドネシア・トーレ・シンセティクスの04年度営業利益は、特殊品の構成比を高めたことで7倍となった。ナイロン長繊維に限るとまだ赤字が残るが、同社社長を兼ねる東レ・インドネシア事業統括会社の杉本征宏社長は、セミダルの定番をゼロにし、モノフィラメント、ブライトに切り替えることで同長繊維についても05年に黒字化を図ると意気込む。

 合成繊維製造合弁に加え、紡績合弁の間にも収益力回復傾向がみられる。クラボウ系の紡織・編み立て合弁、クラボウ・マヌンガル・テキスタイル(略称=クマテックス)は、売上高の65%を糸売りで稼ぎ出す。04年度全社売上高は15%増加した。経常段階では赤字が残るものの、営業損益は黒字転換した。「スピンエアー」「ルナファ」など、クラボウが開発した特殊糸のクラボウ向け生産を昨年から強化したことが、増収につながった。今年度は、「量から質への転換」(安達寛社長)を一段と鮮明に打ち出す結果、生産量が減少すると予想しているが、「スピンエアー」などの特殊糸の生産を強化し、増益を図る方針だ。

生機製造の好調持続/増設の動きも目立つ

 比較的好調だとされていた生機製造企業は、04年度も好調を持続している。

 ダイワボウ系の紡織合弁、プリマテキスコは5%の増収で50%の経常増益となり、最終利益は2倍近くに増えた。「既存の定番品を販売するだけでは厳しくなる」(鳥居進一社長)と判断、新商品の提案活動を強化したことが収益力の強化につながった。生産品種はこの1年間で、それまでの2倍の40品種に増えた。保有織機640台のうち毎月80台で品種を切り替えながらそれを果たした。同社は紡織設備に加えて晒し設備も保有、バティック用生機の晒しを行っている。この晒し部門は安定した収益源となっている。今後、高級ゾーンへの提案を強化することで一段の拡大を図る方針だ。

 日清紡系の紡織合弁、ニカワ・テキスタイルは12%の増収で15%の経常増益と、2期連続の増収増益を果たした。生産性の向上と、販売品種が細番手(100双純綿糸)使いと太番手(34双ポリエステル綿混糸使)使いの両方へ多様化したことが奏功したと富沢誠一郎社長は分析する。同社の売上高の4分の3は生機、残りは糸の販売によるものだ。04年度はいずれの売上高も増えた。

 東レ系のポリエステル綿混専門の紡織合弁、イースタンテックスも好調だ。05年3月期に10%の増収で15%の営業増益を果たす見込み。綿高率混の販売が増えたことなどが奏功した。

 好調さを反映し、生機製造合弁の間には増設の動きもでている。すでにニカワ・テキスタイルは、6月の工事完了を目指して紡機2万錘の増設を進めている。これで同社の保有紡機は10万錘になる。現在は8万錘で15種の糸(純綿糸10種、ポリエステル綿混糸5種)を生産している。増設後も生産糸種を増やさない。1種当たりの生産量を増やすことでコストを削減する意向だ。イースタンテックスも、紡織設備を増やす方針を掲げている。

前年度下期から回復

 ダイワボウ系の縫製合弁、ダヤニ・ガーメントは04年度、5%の減収で85%の経常減益を余儀なくされた。上半期の苦戦が響いたためで、下半期は増産に転じている。今年度は前年度下半期のペースで推移すると予想している。予想通りになれば10%増収で経常利益は「10倍」(吉川昌克社長)になる見込みだ。

 同社は、ダイワボウ向けにトランクス、パジャマ、ふとん用の“側”(中わたを詰める前の半製品)、ドレスシャツなどを縫製している。04年の生産実績は、トランクスとパジャマが760万枚(うち400万枚は米国向け)、ふとん“側”が2万5000枚(全量日本向け)、ドレスシャツが30万枚(ほとんどが日本向けで、一部米国向け)だ。

加工反製造の収益力回復/リストラなどで黒字浮上

 生機のように相場がある商品を扱っている企業とは異なり、顧客ごとに仕様が異なる加工反を製造販売している企業は、製造コストの売値への転嫁が難しく、苦戦を強いられてきた。しかしここにきて、これら企業の収益力も回復しつつある。

 東海染工系の捺染・無地染め合弁、トーカイ・テキスプリント・インドネシアは04年度に、4%の減収ながらも営業利益、純利益の黒字転換を果たした。不良品発生率の大幅低下と、人員の減少による効果だ。

 03年度に5%だった不良品率を、表現するのに無理がある柄について修正を逆提案することなどで、04年度に2・2%へ大幅に低下させた。加えて、希望退職を募集し、受注閑散期でも「経常損益がトントン」(東海染工の秦邦男取締役)になるような水準に従業員数を削減した。事業構造の再構築に一定のめどをつけたことを受け、今後は顧客訪問の強化などで、収益力の一段の強化を狙う。

 日清紡系の織布・加工合弁、ギステックス日清紡は04年度に、営業、経常、最終の各段段階で操業開始以来初の黒字化を果たした。04年3月にボイラー燃料を重油から石炭に替えたことや、染料、薬剤購入価格見直しなど一連のコスト削減策の効果が表れた。「儲からない定番品」(吉岡啓社長)の販売ウエートを下げて、高付加価値の販売に力を注いだことも奏功した。

 同合弁は、エアジェット織機34台の増設も検討している。現在、月間200万ヤードの生機を加工しているが、うち70万ヤードを自ら保有する86台の織機で生産し、80万ヤードは同じ日清紡系のニカワ・テキスタイルから、残り50万ヤードを現地企業から買っている。自社生産量を30万ヤード増やし、その分現地企業からの購入を減らすことで一段のコスト削減を図りたいというのが、織機増設を検討している理由だ。加えて、染色加工設備の更新も検討している。

 シキボウ系の紡織・編み立て・加工合弁、マーメイド・テキスタイル・インダストリー・インドネシア(略称=メルテックス)の収益力も改善しつつある。04年度は、15%の増収で経常赤字を半分に圧縮した。今年度も15%の増収を図るとともに、不良品率の一段の低減のための投資と人的合理化も進め、特別損失部分を除く収支を均衡させる意向だ。

 同合弁は以前、専ら加工反を販売してきたが、現在は糸や生機の段階でも販売するという姿勢に転じている。04年度は糸と生機の売上高が総売上高のそれぞれ20%を占めた。糸売上高の90%、生機売上高の60%はシキボウ向けだった。シキボウが、それまで同社グループ外から調達していた糸や生機をメルテックスからの調達に切り替えた結果だ。加藤守副社長は今年度、シキボウ向け生機の生産を一段と増やことなどで増収を狙うと言う。それに備えエアジェット織機を15台(広幅)増設し、195台体制にした。一方、染色加工部門では現状月間10万ヤードの賃加工を倍以上に増やす計画だ。

 東洋紡系のユニロン・テキスタイル・インダストリーズは04年度、前年度並みの売上高を確保したものの、10%の経常減益を余儀なくされた。今年度は増収増益を狙うと松田泰政副社長は意気込む。

 すでに、生産品種の見直しには着手した。ポリエステル綿混の定番織物の年産量を970万ヤードから700万ヤードに減らす一方、空いたスペースで中東の民族衣装用ポリエステル100%織物を昨年6月から生産し始めた。わずか半年間でその規模は150万ヤードに達した。

 東レ系のポリエステル綿混紡織・加工合弁、センチュリー・テキスタイル・インダストリーの収益力も大幅に回復する。03年度の営業損益はほぼトントンだったが、04年度は16%の増収で、大幅な黒字になる見込みだ。特殊品の構成比を高めたことなどが奏功する。

縫製品輸出の強化へ/インドネシア一貫生産で

 伊藤忠インドネシアの繊維部門業績は05年3月期、15%の増収となり粗利も15%増える見込みだ。03年4月にプロミネントアパレル・インドネシア(PALインドネシア)を統合し、原料から縫製品までの各段階の商売に総合的に取り組んだことの効果が出ている格好だ。

 PALインドネシアを統合するやいなや、インドネシア国内における素材から縫製までの一貫生産の仕組み作りに取り組んだ。すでに長繊維使いについては、生地生産で5~7社との、縫製で3~4社との取り組みを深めつつある。短繊維使いについても、一貫生産体制の組み立てを進めている。

 同社は06年度に、繊維部門の売上高を2億ドルに拡大するという目標を持つ。三野正信社長は環境の厳しさを認識しながらも、日系メーカーが多数存在し差別化品を作る力があるインドネシアの潜在能力を引き出すために「有力な経営者との取り組みを強化する」と語る。

 丸紅インドネシアの繊維部門の05年3月期は、前年並みの売上高を確保するものの、微営業減益になる見込みだ。同部門は売上高の7割を短繊維や糸の貿易で、2割を生地、1割を縫製品の輸出で稼ぎ出す。今後、縫製品輸出の拡大を狙う。現在は韓国産の生地をインドネシアで縫製するという形が多いが、今後インドネシア産生地を使った商売も増やす方針だ。すでにインドネシアの縫製企業4社と取り組んでいるが、アイテムを増やすために取り組み先を「1~2社」(須田健部長)増やす。

 NI帝人商事インドネシアは04年度、微減収ながらも経常赤字幅を圧縮した。同社は売上高の5割を生地、15%を縫製品の輸出で稼ぎ出す。今後、米国向の寝装、インテリア分野向けの特殊生地の輸出拡大に努めるほか、トゥバァイ、キニなどの縫製合弁などを活用し、縫製品輸出の拡大に力を注ぐ。このような試みによって05年度は取扱高を2348億ルピアに増やすと同時に「若干の黒字」(田中博社長)を見込む。