入門/生活・産業資材の世界
2005年02月21日 (月曜日)
自動車安全部品で大活躍/繊維なければ車はできない
日本を代表する産業である自動車と斜陽産業と呼ばれる繊維。その両者が切っても切れない仲だとは、誰も思わない。しかし、繊維がなければ自動車は作れない。前回の内装材だけでなく、繊維製品は安全部品やエンジン部品にも使われているからだ。今回は運転者などを守る上で不可欠な安全部品に使用される繊維製品を紹介する。繊維がローテクの斜陽産業ではないということを証明できるのではないか。
もれなく装着のエアバッグ/広がる装着部位で成長領域
今、新車を購入すると“もれなく”装着されているのがエアバッグ。車が衝突した際、その衝撃をセンサーが感知し、ガスを発生させたり、火薬を爆発して袋をふくらませる。その袋でハンドルなどに体がぶつかるのを防ぐというもの。
1970年代、米フォード、GMが高級車に装着したのがその始まりだ。米国では98年に運転席と助手席にエアバッグ装着で義務付けられている。日本では欧州同様に法規制はないが、装着率は非常に高い。
今では運転席は当たり前。助手席、さらには横からの衝撃に対応したサイドエアバッグ、横転事故の際にロールオーバー(車が回転した際)のケガを防ぐインフレータブルカーテンエアバッグなど部位がどんどん広がっている。
エアバッグはナイロン66/耐熱性や高温時強度保持で
その袋はナイロン66糸を使用した織物からなる。なぜ、ナイロン66糸を使用するのか。ポリエステル長繊維ではない理由とは?
それはインフレーターからの高温ガスやバッグ内に飛散する微量の燃焼物への耐久性、高温時の強度保持、素材そのものの自消性などが、ポリエステルに比べナイロン66が優れるからだ。
織物構造は平織り/コーティングとノンコート有り
織物構造は平織り。エアバッグが開いた時の強度と通気性を抑えるため、等方性(あらゆる方向に強い)と高密度が要求されることが背景にある。
織物はコーティング加工を施すものと、未加工品があるが、軽量化、柔軟性、低価格化、リサイクル性などから未加工品(ノーコート基布)が主流となっている。これら基布を縫製したものがエアバッグになる。
ナイロンF唯一の成長分野/年率8%成長が見込まれる
日本化学繊維協会によると、日本のナイロン長繊維年産量は00年(約17万6000トン)から3年連続の前年割れだが、04年は約12万トンとほぼ横ばい(グラフ)。これを支えているのが、エアバッグ用ナイロン66であり「唯一の成長分野」とも呼ばれている。
東レによると、エアバッグ用ナイロン66の世界需要は03年で6万8000トン。今後も年率8%成長を続け、10年には11万6000トンに拡大する見通しにある。安全性の高まりからエアバッグを装着する部位が広がっているからだ。
エアバッグ用ナイロン66では世界で米インビスタ(旧デュポン、03年の年産量3万トン)、独PHP=ポリアミド・ハイ・パフォーマンス(旧アコーディス、2万トン)が大手。国内では東レ(8000トン)、PHPと提携する東洋紡(6000トン)が2強に続く。国産2社とも需要増に対応し、増強が相次いでいる。
OPW型が注目株/旭化成せんいが再参入
さらに、旭化成せんいも住友商事、住江織物との合弁により、カーテンエアバッグ袋(横転事故に対応した安全部品)製造という形で新規参入している。これはOPW(ワン・ピース・ウーブン)と呼ぶジャカード織機で袋を織り上げる形で、日本生産は初めて。
カーテンエアバッグは今、エアバッグの新規需要として期待される。新車では運転席の装着率がほぼ100%、同乗者席も90%だが、カーテンエアバッグはまだ2割の装着率に過ぎないからだ。
カーテンエアバッグは横転し車が回転した際、運転者や同乗者の事故を防ぐ。その他のエアバッグは衝突時に一瞬開くだけだが、カーテンエアバッグは数分間開く必要がある。このため、カーテンエアバッグはコーティング加工が施される。
さらに、袋を縫製しなければガス漏れが少ない。その発想から生まれたのが、ジャカード織機によるOPWだ。横転事故が少ない日本で長く開く必要があるのか、さらにコスト的にOPWは高くなる(織機は1台6000万円)ため、縫製品という方向性もあるが、OPWで事業化した旭化成せんい、住友商事、住江織物の動きは注目される。
ちなみに、OPWの特許を持つのはスウェーデンの大手自動車安全部品メーカーのオートリブで、元々旭化成が売却したものである。
シートベルトも需要拡大/高強力ポリエステルF使い
安全部品ではエアバッグよりも歴史が長いのが、シートベルト。スウェーデンの自動車メーカー、ボルボが現在の3点式シートベルトを開発したのは、1959年と言われる。
シートベルトもエアバッグ同様、安全部品であるため、使用する素材には厳しい物性が求められ、原糸供給者は限定されている。素材はエアバッグとは逆に、高強力ポリエステル長繊維が大半を占める。
シートベルトは長期間、繰り返し使用されるため、耐久性が求められる。使用条件下も様々なため、耐熱性と耐寒性、耐紫外線なども要求され、これらの点で、ポリエステルはナイロンを全て上回る。この高強力ポリエステル長繊維を使用した細幅織物がシートベルトになる。
年率5%成長見込む/年率5%成長見込む
高強力ポリエステル糸大手は米パフォーマンスファイバーズ(ハネウェルグループ)、KOSA、SANSなど欧米企業、次いで帝人ファイバー、東レ、東洋紡と続く。東洋紡はタイヤコードに集中しており、国内でシートベルト用高強力ポリエステル長繊維を生産するのは東レ、帝人ファイバーとみてよい。両社はタイでも高強力ポリエステル長繊維を生産している。
業界推定によれば、国内の市場規模は年1万8000トン。自動車生産台数は大きく増えてはいないものの、シートベルト用原糸は年率5%程度の成長を見せる。
装着部位も拡大/緯糸モノフィラ使いも
RV(レクレーショナル・ビークル)車などの増加によって、1台当たりのシートベルト装着部位が広がっているためだ。さらに、RV車などは車高が高いので、シートベルトが長くなっていることも背景にある。
東レによると、1台当たりの使用量は16メートルだったが、現在では18メートルに増えている。
シートベルトの織り組織は平織りだが、横方向への剛性を高めるため、モノフィラメントを打ち込むケースもある。高級車中心だが「米国では緯糸はモノフィラメントを使うケースが多い」(帝人モノフィラメント)。
こうしたエアバッグやシートベルトは自動車にとってなくてはならない存在。同時に、単に安価だからといって使用できるものでもない。命に関わる部品を値段だけでは替えるわけにはいかないからだ。
その面では基本物性など技術力が問われる世界といえる。