サービス・ユニフォーム特集/新手の提案が続々登場

2004年10月19日 (火曜日)

参入企業が先発企業を刺激

 サービス業向け制服業界が活性化している。市場規模の拡大を受けて、オフィス制服あるいは作業服を手がける製造卸業者が相次ぎ参入し、これまでにない視点での提案を行っているからだ。それに刺激を受けて、サービス業制服で先行する製造卸が専門性に一段と磨きをかけているからでもある。サービス業制服業界の今を、今月初旬に実施した本紙アンケート調査の結果を交えながら紹介する。

市場拡大で参入相次ぐ/制服の3大分野から続々

 サービス業向け制服製造卸事業への新規参入事例が目立ち始めたのは99年以降だ。オフィス制服製造卸大手のボンマックス(東京都中央区)が99年に、「フェイス・ミックス」商標で参入。01年に入ると同じくオフィス制服製造卸大手のセロリー(岡山市)も、「WSP」商標で参入した。作業服とオフィス制服の両方を扱う製造卸、ナカヒロ・ハイナックカンパニー(岡山市)もこの年、「ピエ・ワークス」と名付けたサービス業向けカタログを創刊している。

 サービス業向け制服のカタログを創刊する動きはその後も相次いだ。02年に学生服製造卸大手のテイコク(岡山市)が「クロクレナイ」を、03年に作業服製造卸のアルトコーポレーション(東京都千代田区)が「カジュアルワーキングドットコム」をそれぞれ創刊。今年は、オフィス制服製造卸のヤギコーポレーション(石川県金沢市)が「ニューウエア」を創刊した。

 制服の三大分野とされてきた作業服、学生服、オフィス服の各業界から“ニッチ”とみなされていたサービス業服への参入が相次ぐのは、同分野が制服に残された唯一の成長分野だとみなされているからだ。

 様々な分野の制服製造卸を対象に本紙が行ったアンケート調査によると、有効回答企業18社中14社が、サービス業制服の市場は今後も拡大すると予想している。

 日本人の消費の対象が、モノからサービスへ移行していることは間違いない。内閣府の国民経済計算によれば、消費全体に占めるサービス消費の比率は年々上昇している。作業服、学生服、オフィス服などの市場規模が縮小傾向にあるため、成長要因を抱えるサービス業を狙った参入は、今後も続くだろう。

新たな着想が話題に/オフィス制服業界の発想

 新規参入企業は、サービス服業界に制服選びの新たな観点を提供した。商品企画や提案手法面でのアイデアが企業の盛衰を大きく左右してきた観のあるオフィス制服業界からの提案は特に注目を集めた。

 ボンマックスは、「フェィス・ミックス」商標で飲食店向け接客服分野に参入するに際し、先発企業のカタログのほとんどがベスト、ワンピースといったくくりのアイテム別編集になっていたことに着目。角川書店と組んで、テースト別に編集した雑誌風のカタログを発行した。カタログには商品の商標を冠するのが普通だが、雑誌風を強調すべく「ユニフォーム・ウォーカー」という別の題名を記載。飲食店での着用事例をタウン誌的な感覚で盛り込むなど、読む気にさせるカタログに仕上げた。このような仕掛けが奏功して「フェィス・ミックス」の年商は、カタログから派生する別注も含めると04年1月期に8億5000万円に達した。

 ボンマックスが飲食業に焦点を定めて参入したのとは対象的に、同じオフィス制服製造卸大手のセロリーは小売業、飲食業、遊戯施設、配達業など幅広い職業を狙って「WSP」を企画した。対象業種が広いと普通、特定の業種や職種を連想させにくい品ぞろえになってしまいがちだ。同社は、それを連想させるエンブレムを多数用意することでその懸念を解消しようとした。ヒントになったのは、米国で見た公務員の制服だった。警察官や郵便局員が同じ制服を着ながらもエンブレムで職種の識別を可能にしていることに着目。現行版カタログでは、253種のエンブレムに加え、33種のカンバッチも用意。顧客の好みの位置に無料で縫いつけるというサービスを提供している。この提案手法も好評を得ており、「WSP」の年商は03年11月期に2億円強に達した。今年の11月期には3億円を突破する見込みだ。

制服選びに新視点提供/作業服業界からの提案

 作業服製造卸も、従来にない選択肢をサービス業界に提案している。アルトコーポレーションの「カジュアルワーキングドットコム」は、ボトムはチノパンだけという異色の商品群だ。チノパンをユニフォームにしたい企業に焦点を定めた企画である。多種多様のチノパンと、それぞれに適する上着や、エプロン、帽子などをそろえた。品ぞろえは色種を含め600点。専用ホームページを設け、独自のソフトで“バーチャル・フィッティング”サービスも提供している。「チノパンを切り口とした私服のようなユニフォームがありそうでなかった」(足立直隆社長)こともあって、「カジュアルワーキングドットコム」は発売初年度である03年12月期に4億円を売り上げるという快進撃を見せた。今年度は6億円に達する見込みだ。

 サービス服市場への参入が思わぬ波及効果をもたらした例もある。ユニフォーム専門商社のチクマ(大阪市中央区)で既製制服を扱うアルファピア事業部は02年、作業服を中心とする男性制服のカタログ「フィールド・クルー」からスーツ類を分離すると同時に、“見せる”ことを前提としたサービス業向け作業服の品ぞろえを拡大した。どの分野に需要があるかを見極める狙いもあって、特定の職種を想定せずに“見せる作業服”を企画してきた。当初は販売代理店から「どこに売り込みに行けばいいのか」といったとまどいの声も挙がったが、ここにきてビル管理業者、駅構内や車内の清掃業者といった柱となりそうな市場が見えつつある。そこに思わぬオマケも加わった。従来型の作業服の顧客であった製造工場の中にも“見せる作業服”を採用する事例が出始めた。同社にとって、予想外の需要だった。

 本特集用のアンケートに協力していただいた企業は以下の通り。明石被服興業▽アルトコーポレーション▽イスト▽カーシーカシマ▽コーコス信岡▽サンリット産業▽シーユーピー▽住商モンブラン▽セロリー▽タカヤ商事▽チクマ▽チトセ▽テイコク▽中塚被服▽ナカヒロ・ハイナックカンパニー▽白洋社▽フォーク▽ボストン商会▽ヤギコーポレーション。

専門性を磨く先発企業/ピンポイント戦略が進む

 オフィス服や作業服製造卸の参入が相次ぐ中で、サービス業服を以前から手掛けていた製造卸は、先発企業の強みであるノウハウの蓄積を武器に、専門性に一段と磨きをかけている。その方向性の一つは、ピンポイント・マーケティングだ。

 サービス業制服でのピンポイント・マーケティングの成功例としてよく知られているのは、パチンコ店向けの戦略だろう。ボストン商会(横浜市金沢区)が「B2」、イスト(東京都港区)が「ランド」、カーシーカシマ(栃木県安蘇郡)が「アムス・ネット」と名付けた専門カタログをそれぞれ発行している。一説によるとパチンコ店向け制服の市場規模は40億から50億円。この市場の半分ほどを前述の3社で確保しているとみられている。パチンコ店という特定の業種に絞り込んだマーケティングの成果だと言えるだろう。

 ここにきて、パチンコ店に限らず他の業種に向けてもピンポイント・マーケティングを打ち出す事例が、サービス業服で先行する企業を中心に増えている。イストは昨年、デパ地下の惣菜売り場など食品の対面販売店を狙ったカタログ「デイ&デイ」を創刊した。「かぶり物が必ず必要」などといったデパ地下ならではの要件を満たし、かつデザインや品ぞろえの価格帯もデパ地下を明確に意識したものとなっている。

 ボストン商会も今秋、葬祭業者向け制服の専門カタログ「フューネラル」を創刊。さらに、邸宅風の式場で“ハウス・ウエディング”と呼ばれる結婚式を手掛ける業者などを狙った制服を、飲食店接客服を中心とする基幹カタログの「ボンユニ」に加えた。

 白洋社(東京都中央区)は以前から、狙いを絞った特化型の別冊カタログを夏に発行し、それを総合カタログ「セブン」に翌年1月の更新時に取り込むというスタイルをとってきた。過去の別冊カタログの特化の切り口は、エプロン、低価格品、エコ商品、ビル管理業用、着物と作務衣など様々。例年は、別冊カタログを夏に発行するが、今年は「ミシュラン・サービス・厨房ウェア」の別冊カタログを、同商品群の発売に合わせる形で1月に発行した。ミュシュランは、タイヤの製造に加え、ホテル・レストラン・ガイドの「レッド・ガイド」の制作で有名な企業。白洋社は、ミシュラン・グループ、ユニチカテキスタイルの2社と組んで、同商品を発売した。

 チトセ(東京都江東区)は、フードを含めたサービス分野の深耕と新ジャンルの開拓を狙いに、来春以降段階的に新提案を打ち出す計画だ。同社は理美容対応で「リビモード」ブランドを有する。その類似ジャンルへの新たな提案の一つとして、エステやスパ関連などいやし・リラックス系サービス分野に向けて、新商品を単独カタログで発信する予定だ。

「無難」より「攻め」/競合激化で好循環生じる

 特定業種に向けたピンポイント企画を増やすことは製造卸にとって、在庫管理の煩雑化につながる。思惑通りに売れれば別だが、そうでなければ経営効率を悪化させる結果になりかねない。しかし、相次ぐ新規参入による競合激化によって、「無難さ」よりも「攻め」に力点を置く経営者が増えていることも事実だ。

 本紙アンケート調査によると、有効回答を寄せた13社のうち、現在発行しているカタログを「広範囲の業種をカバーしている」と認識しているのは8社。そのうち4社は今後「対象分野を絞り込む」と回答している。また、既に対象分野を絞ったカタログを発行していると認識している5社のうち1社はさらに絞り込む方針を表明している。

 特定業種を狙ったピンポイント企画が増えることは、少なくともユーザーにとっては歓迎すべきことだろう。

 サービス服製造卸業界では、市場規模の拡大が新規参入を呼び、それに伴う競合激化がピンポイント企画の提案を加速している。それがさらなる市場拡大の呼び水になることを期待したい。

泥沼的掛率競争を避けよ/新規参入がもたらした懸念

 相次ぐ新規参入がもたらした陽の側面は、サービス業制服業界を活性化させたことだ。しかし、当然ながらそこには陰の部分もある。様々な掛け率(希望小売価格に対する卸値の比率)体系の混在がそれだ。

 一般に、サービス業制服業界の掛け率は50%台だとされる。ところがオフィス制服業界の掛率はそれよりも低い。作業服業界の掛率は、オフィス業界よりもさらに低い。オフィス制服や作業服の製造卸は多くの場合、それぞれの既存販路を通じてサービス業制服の市場開拓を始めざるを得ない。既存販路の活性化のためにむしろ積極的にそうする事例も少なくない。自然に、自身が慣れ親しんだ掛け率体系で、サービス業制服市場に参入する結果となる。このことが、50%台という掛け率体系に慣れているサービス業制服流通業界に混乱を与える可能性がある。

 サービス業制服業界の掛率が相対的に高いのにはそれなりに理由がある。サービス業制服は、作業服はもちろんオフィス制服よりも多品種、小ロット、短納期を要求される度合いが強いとされる。平均単価も低い。一説によるとオフィス制服の半分以下。単純に言えば、同じ売上高を得るために、オフィス制服の2倍の手間を要することになる。サービス業制服業界の掛率体系は、業界特有のこれらの要素の中で自然に形成されたものだろう。加えて言えば、サービス業を営む企業にとって制服は、業績を左右しかねない一つの要素である。だから、サービス業制服の顧客の方が値引率よりも商品の良し悪しを重視しがちだ。このことも、サービス業制服業界の現在の掛率体系につながっている。

 そのサービス業制服市場に、オフィス制服や作業服業界が従来よりも低い掛率の商品を提案し始めた。引きずられる格好で、以前からサービス業制服を手がけている企業の掛率も低下している。掛率低下と売れ筋価格帯の低下が重なって、売上高が伸び悩んでいる企業も少なくないようだ。

 改めていうまでもないが必ずしも、掛け率が低いほど“お得”なわけではない。希望小売価格を高目に設定し、低掛率を演出している可能性もある。事実、掛率競争が激化した業界ではそのような事例が少なくな

い。そこまで競争が泥沼化すると抜け出すのは容易ではない。

商品デザインを最重視/泥沼化の兆し、今はないが

 サービス業制服の先発企業の多くは、「掛率競争に巻き込まれるようなことは極力避ける」と語る。一歩踏み込んだ試みに挑戦する企業もある。ボストン商会は今年9月、パチンコ店などの遊技施設向け制服の新カタログ「AP45」を創刊した。同カタログの小売価格は割引なしで販売することを前提に設定されている。業界の現状に対するアンチ・テーゼとも言える試みだ。代理店を各都道府県1~2社に限定することを基本として販売する方針だという。

 本紙のアンケート調査によると、「サービス業制服の販売を拡大するに当たって、最も重要だと考える要素を1つだけ挙げるとすれば何か」という質問に対し、「価格競争力」「商品デザイン」「品ぞろえの多さ」「納期の短さ」の四択の中から「価格競争力」を選んだのは、有効回答14社中ゼロだった。最も多かったのは「商品デザイン」で、12社がそれを選択。「品ぞろえの多さ」と「納期の短さ」を選んだのが各1社という結果だった。この結果は、積極的に価格勝負を仕掛ける考えが、少なくとも有力企業にはないことをうかがわせる。

 以上のことから言えば、掛け率競争の激化でサービス業制服業界が泥沼状態になると懸念することは、杞憂なのかもしれない。しかし、様々な掛率体系が混在している現状を見ると、それを案じずにはいられない。混在解消の糸口を見つけ出すことは難しいかもしれないが、業界の健全な発展を期すためには避けては通れない課題であるように思う。