変わるか?エアバッグ市場

2004年08月27日 (金曜日)

旭化成せんいが再参入

 「エアバッグに再参入する」。ナイロン66唯一の成長分野であるエアバッグの魅力に、旭化成せんいも抗えなかった。同社は先ごろ、住友商事、住江織物との合弁で、カーテンエアバッグ袋の製造販売会社「住商エアバッグ・システムズ(以下、SAS)」の設立を発表した。一度は撤収した事業に、旭化成せんいが東レ、東洋紡の2強が握る世界に再び参入するのはなぜか。2強はなぜSASのような袋を事業化しないのか。その背景にはOPW(オープン・ピース・ウーブン)というジャカード織機によるカーテンエアバッグ、その将来性に対する見方の違いがある。

2強はOPW型に懐疑的

 SASが生産販売するカーテンエアバッグは、横転事故に対応した安全部品。旭化成せんいによると、国内販売車種の装着率は12%に過ぎないが、12年には全社車種搭載が見込まれると言う。

 ただ、国内販売車種のカーテンエアバッグにはOPW型と平織りを縫製する2タイプがある。横転して、車が回転する事故を防ぐには数分間、エアバッグが開く必要があり、ガス漏れが少ないOPW型が向くと言われる。

 しかし、日本ではOPW型かそれとも、運転席などと同様に、一瞬開くだけの平織りになるのか。自動車メーカーの判断はまだ分からない。OPW型に、エアバッグ用ナイロン66の2強、東レ、東洋紡が無関心であったわけではない。むしろ2社とも事業化を検討した。しかし、OPW型のジャカード織機は1台6000万円と高額で、初期投資が大きい。試験機は導入されているものの、日本で本生産する企業はない。今は輸入が主流。

 こうした投資額の問題に加え「日本ではOPW型のように横転時、6秒間も開く必要性がない」(東レの森本和雄産業資材・機能素材事業部門長補佐)、「OPW型が日本で普及するのかどうか」(東洋紡の泉川治産業資材事業部長)と、OPW型に対する懐疑的な部分もあった。

 莫大な投資とその市場見通しから、カーテンエアバッグの需要増は認めながらも、2社は事業化を諦めた形だ。さらに「縫製品でも6~7秒を維持できる商品も開発されている」(東レの森本事業部門長補佐)ことも背景にある。

 これに対し、SASは供給先として、オートリブ・ジャパン(スウェーデンの大手自動車安全部品メーカーの日本法人)が決定済みだ。オートリブ・ジャパンは従来、カナダより袋を輸入していたが、米国でのカーテンエアバッグ需要増で、日本への供給が困難となり、国内で供給先を探していた。

 つまり、SASは一定量が見込める。ちなみに、オートリブはOPW型の特許を持ち、その特許は旭化成せんいが売却したものであったことも旭化成せんいの再参入を後押ししたのかもしれない。

国産初OPW型浸透するか

 東レ、東洋紡のようなエアバッグ用ナイロン66専用設備がない旭化成せんいのメリットはどこにあるのか。SASに糸購入先の制約はない。

 実は旭化成せんいが狙うのは現在、エアバッグ用ナイロン66糸の主流である470デシテックス(T)ではなく、235T以下の細T糸。

 同社によれば、欧州ではエアバッグを小さくできるため、運転席用で235Tが3割を占めるという。日本でも細T化が進む可能性が高いとみる。これはカーテンエアバッグも同様だ。

 しかも、旭化成せんいは単糸3・3T以下、強力8・5cN〈センチニュートン〉以上という特許(東洋紡はこの特許実施権を持つ)がある。細T化が主流になれば、市場の一角を占めることができる。

 旭化成せんいは今後、既存の産業資材用ナイロン66設備を「エアバッグ対応に改造しながら、能力増も並行して実施。年数千トンの糸需要に対応する」(種尾子晃レオナ繊維資材営業部長)方針だが、果たして、国産初のOPW型が浸透するかどうか。

 それ次第で、エアバッグでも新規市場であり、糸使用量が多いカーテンエアバッグにおけるナイロン66の業界地図が変わる可能性も秘める。

 オートリブへ糸供給する東レ、カーテン用で要求されるコーティング布で出遅れる東洋紡の2強を巻き込みながら、旭化成せんいの再参入、そしてSASのOPW型の事業化は大きなインパクトがある。OPW型は韓国コーロンも事業化を決めている。