東洋紡「ザイロン」次世代のスーパー繊維
1998年12月14日 (月曜日)
東洋紡が今年九月から、つるが工場(福井県)で本格生産を開始したのがPBO繊維「ザイロン」である。「PBO」とはポリパラフェニレンベンゾビスキサゾールの略称であり、有機繊維では最高の機能素材であるパラ系アラミド繊維の二倍以上の強度と弾性率を持つ。「ザイロン」(ZYLON)はその商標であり〝Z=究極の有機繊維〟という意味が込められている。
この次世代型スーパー繊維の事業化に当たっては東洋紡の開発力が決定的に働いた。PBO繊維開発のルーツは米国空軍の研究室にさかのぼる。その後、米ダウケミカル社が事業化に乗り出し、東洋紡をパートナーに九一年から共同開発プロジェクトが始動した。ところがパイロットプラント稼動直前にダウ社が撤退を決め、単独で引き継いだ東洋紡が事業化を成功させた。
超高強力・高弾性率ポリエチレン「ダイニーマ」をはじめ中小型スーパー繊維の事業化で実績が豊富な同社の面目躍如である。つるが工場の第一期設備は長繊維のみで年間百八十トンの能力を持つ。
「ザイロン」の主な特徴は次の四点である。
(1)引っ張り強度は一デニール当たり四十二グラムとパラ系アラミド繊維の二倍。
(2)引っ張り弾性率は高弾性率タイプで同二千グラムでパラ系アラミド高弾性率タイプの二倍以上。
(3)耐熱性は熱分解温度が六百五十度と、パラ系アラミドより百度高い。用途によっては百五十~二百度高い温度で使えるケースもある。
(4)耐炎性は限界酸素指数(LOI値)が六八と、パラ系アラミドの二倍以上。
このほかにも、寸法安定性に優れる、吸水率が低く水分の影響が少ないなどの特徴があり、一キロ一万数千円と価格面でも〝スーパー〟ながら、従来の素材では対応できなかったニット用途をターゲットに着々と需要を開拓しつつある。
辻昭男ザイロン事業部長によると当面、有望な用途は国内でアルミやガラス成形に使う耐熱クッション材、欧米市場では消防服、防弾チョッキ、ヨットセールクロスなどだ。二〇〇〇年には耐熱フェルト用途などをにらんで同二百トンの短繊維を増設する計画。さらに光ケーブル、橋梁、送電線などの補強材、エレベーターケーブルなどこれまで繊維が使われていなかった用途にも期待がかかっており、十年先には数千トン規模にするという構想も決して夢ではなくなってくる。
生産規模が大きくなれば、コストが低減され、価格も安くなり、新規用途開発と相乗効果も出て来る。