ナノテクが変える~メンズシャツの世界

2004年05月27日 (木曜日)

 形態安定加工のシャツ素材といえば綿ポリエステル混が一般的だったが、今ではその綿ポリ混もさらに進化した素材にレベルアップし、最近ではナノテクノロジーによる技術導入で機能は倍増、進化を続けている。防シワ性などが劣るといわれていた綿100%物についても綿の風合いの良さを残しながら高機能を付加できる時代。大手シャツ素材メーカーはナノによるシャツ素材開発、展開で新市場を探り始めた。

東洋紡/従来の形態安定加工シャツ

 東洋紡は、独自のナノテクノロジーで従来のVP加工よりも形態安定や吸水速乾性を一段と向上させた綿100%の形状記憶シャツ素材「ナノプルーフ」を開発、ドレスシャツ用途向け展開を始めている。

 繊維分子間を樹脂によって架橋結合させる樹脂加工では、樹脂が繊維表面に集まりやすく、樹脂を繊維内部まで浸透させるのが難しいとされる。しかし「ナノプルーフ」に導入された新しいVP技術では、ナノテクノロジーを駆使した気相制御が働き、微細な部分にまで薬剤を浸透させることが可能になった。

 このため開発に至るまでの背景にあった、洗濯性や吸水乾燥性能を大きく向上させることに成功。縮みやシワを防ぐ加工は、ナノ技術により従来以上に改善され、まったく新しいシャツ機能を誕生させている。

 また、住環境の変化や防犯のため、最近ではシャツを部屋干しする家庭が増加している。しかし、問題は雑菌が繁殖しやすいなどの衛生面での指摘がある点。

 こうしたことからも抗菌性の付与と同時に速乾性が求められ、それを解消したのがナノ技術。さらに形態安定機能が高いポリエステル混率の高い素材に比べても、今回の開発素材である綿100%による形態安定シャツ素材機能はまったく劣らない。むしろ消費者のニーズは、風合いの良い綿100%素材による形態安定加工シャツに集まると同社は見ており、来春夏に向けても“進化”させていく方向である。

シキボウ/ナノスタイルをシリーズ化

 シキボウは、ナノテクノロジー技術による生地加工方法を新しく商品化し、今後シリーズ化していく。

 3種類の生地加工があり、1つはソフトさを特色とした「テクノス・ソフト」。もう1つは撥水撥油性を高めた「テクノス・ガード」。そしてメンズドレスシャツでは新しく「テクノス・ケア」(ノーアイロン)で、綿ポリエステル混のほかに、綿100%による形態安定性を高めたシャツ生地展開を行う。

 今回の「ナノスタイル」シリーズはソフト、プルーフ、ドライ、ケアの4つのくくりがある。ソフトのくくりには、新しく開発した「テクノス・ソフト」と「テクノス・ケア」があり、「テクノス・ソフト」はナノ・サイズの柔軟剤を独自の処方で配合後、繊維質に浸透させる。特徴は洗濯回数にかかわらず、素材の柔軟性能が変わらないという点にある。

 一方の「テクノス・ケア」は、純綿のブロードにも3・5級の高いW&W性能の付与ができる加工。樹脂の反応をナノ領域で制御する。

 「テクノス・ケア」は今秋にトライアル展開するが、本格的には05年春夏展開からとなる。初年度は綿、綿ポリエステル混合わせて約50万メートルの生産販売を計画している。シキボウグループの紡織事業会社メルテックス(インドネシア)での生産も始める。

 綿100%素材のケア商材については今後も増加するとし、力を入れる。今回のナノテクノロジーを駆使した「着心地」感を全面にアピールし、綿市場の拡大を図っていく。

日清紡/ナノレベルによる多彩な機能

 日清紡は、切り口が多彩にあるナノテク素材シリーズ「ナノサイエンス」のマテリアルコレクションで、オールシーズンに対応したシャツ生地展開を強化中だ。

 同社の「ナノサイエンス」マテリアルコレクションは、ナノレベルで制御した「撥水加工」機能のほかに「防汚」、「抗菌防臭」、「スキンケア」、「柔軟加工」、「ノーアイロン生地」といった多彩な機能を持つ。

 「撥水」の特徴は撥水・撥油加工の弱点である経時変化による黄変を防止し、洗濯性は極めて高い。「汚れ」対策では、皮脂成分で汗しみや黄ばみの原因となるオレイン酸の除去効果に優れる。

 「抗菌防臭」は、銀の粒子をナノレベル(4ナノメートル)で繊維内部へ浸透させることで「ニオイ」に対応、持続的な効果を発揮する。部屋干しでのいやな臭いや肌に優しく安全だ。また洗濯耐久性があり、素材本来の風合いが生きるというのも特徴。

 さらに「スキンケア」は皮膚の成分に似た疑似角質ポリマーを生地に固着させることにより肌への親和性や安全性を高めたテキスタイルを実現した。

 天然ハーブの「ローズマリー」の抽出成分効果で汗などのにおいの原因となる黄色ブドウ球菌の増殖も抑える。

 ナノサイエンスによる「ノーアイロン生地」は、従来の形態安定加工に比べて分子サイズが微小なためにその架橋反応が十分にコントロールできていなかったが、これを高度な次元のオングストロームレベルでの改良で、綿100%でありながらW&W性3・5級以上を達成。長時間の着用でもシワがなく、きれいさを保ち、快適な風合いを得ることができる。

旭化成せんい「ベンベルグ」/高品質裏地の代名詞

 紳士服を購入した際、裏地の品質表示にキュプラとあれば、それは良い製品の証し。それほど、キュプラは高品質の裏地として、一般消費者に認知されている。

 そのキュプラこそが、旭化成せんい「ベンベルグ」だ。世界のキュプラ生産の大半を同社が占めるオンリーワン素材。ベンベルグはコットンリンター(綿花の種子を包むうぶ毛状の短繊維)を原料とする再生セルロース繊維。日本のエコマーク、欧州のエコテックス・スタンダード認定も受けるエコ素材。

 一方で、発色性や吸放湿性に優れ、絹のようななめらかさと光沢などの特徴を持つ。制電性もあり、裏地でポイントになるすべり性も高い。

 1昨年当たりから紳士服でも価格一辺倒から見直し気運が高まる中「中高級品ではベンベルグ100%、交織品とも採用する傾向が強まっている」と同社の高梨俊雄ライニング営業部長は話す。

 パターンオーダーはじめあつらえへの傾斜もベンベルグにとってはプラス要因。裏地には一格上の素材を使う動きにあるからだ。

 03年度、紳士服生産は10~20%減と言われる。しかし、ベンベルグ裏地の販売量はほぼ横ばい。「逆にベンベルグのシェアは伸びた。04年度は製品在庫も適正化しており、5~10%増を狙う」と意気込む。

 さらに、高級品対応として先染めジャガード、ストライプなどファンシー物の対応力を強化、袖裏用の総合サンプル帳も新たに作成する。

 同社は03年10月、ブランド名を「ベンベルグ」に統一している。