2社撤退後のアクリル事業/「残り福」は恩恵少ない?
2004年05月20日 (木曜日)
昨年、旭化成とカネボウ合繊が撤退したアクリル事業。国内市場が縮小を続け、ついに事業打ち切りを余儀なくされた形だ。残存メーカーは、黒字を確保する傾向がはっきりしつつある。2社退場の「残存者利益」ではなく、各社の開発・営業努力が実っている。
三菱レが価格交渉に強み
アクリル短繊維の首位メーカー、三菱レイヨンは輸出比率が90%を超える。粗原料高や円高の逆風があったものの、価格浸透が順調に進み、アクリル事業で03年度は営業利益14億円を稼ぎ出した。02年度の同9億円からの増加で、伸び率は55%だ。「年明け後の粗原料高・円高は採算に響いた」(袋谷勝義常務繊維事業部門長)ため、この要因がなければ一段の利益になったという。このため、今期は「大きな期待」(同)をアクリル事業に掛け、同21億円を計画している。
同社は05年に中国・寧波のアクリル生産拠点が稼働し、年産5万トンを予定。08年からはさらに5万トンの増設を計画。国内の大竹事業所の年産13万トンは維持し、「中国のアクリル需要伸び率から判断して十分消化可能」(小林浩一アクリル繊維貿易部長)との考えだ。
量を追う三菱レイヨンに対し、特化路線を進むのが日本エクスラン工業。わたベースでの特化品比率が60%を超え、「アクリルの価値観を上げる」(柴本豊造東洋紡エクスラン事業部長)ことに心血を注いでいる。02年度に黒字化し、03年3月期は利益幅が拡大した。岡山西大寺工場の年産6万5000トンはほぼフル稼働。「増やす意思はなく、中身をどう変えるか」(同)が課題で、衣料用春夏素材やホームファニシング分野の拡充を打ち出す。
東レのアクリル事業は04年3月期決算で黒字化を果たした。衣料用途への集中を進めたのが収益に寄与。小売業とタッグを組み、販路を確保してからの取り組みが実った。国内市場向けが約50%を占める同社だが、旭化成撤退によるユーザーの“振り替え”は国内ではほとんどなかったという。「コストが合わない」(安藤敏彦短繊維事業部長)のが最大の理由だ。
国内外メーカーのアクリル事業からの撤退で全体の供給量が減少したため「価格交渉に有利に立てた」(小林氏)とする三菱レイヨンを除き、旭化成、カネボウの撤退は残存メーカーに「残り福」をもたらしていない。旭化成撤退が02年10月に発表され、需要家の心理要因から03年の前半は前倒しで発注があり、「“残り福”を実感した時期もあった」(東レの安藤氏)。だが、今年はそれもなく、2社の退場はそのまま国内生産量減少となった。残存各社とも、中国を中心とする外需に頼る度合いが今後も強まるのは確実だ。