トークとーく/ライカ社長・諸藤雅浩氏
2004年03月02日 (火曜日)
社員のライカ愛に応える
メンズアパレルのしにせライカは昨年11月に民事再生法を申請し、今年1月には伊藤忠商事へと営業権が譲渡された。再建を担う大役に抜てきされたのは、伊藤忠でブランドマーケティングを担当していた諸藤雅浩氏。従業員1200人を束ねる船長としてこぎ出す抱負を聞いた。
大型ブランド導入が第一歩
――伊藤忠へ営業権が譲渡された経緯をお教えください。
昨年11月21日にライカから伊藤忠へ営業権譲渡の申し入れがありました。伊藤忠はライカグループに対して年間70億~80億円の取引があり、ライカとしては「商社を一本化したい」との意向がありました。その後、同月の25日に民事再生法の申請となりました。それを受けて一度は申し入れは白紙撤回となりましたが、裁判上の手続きを経て、今年の1月19日に正式に伊藤忠への営業譲渡の契約を締結しました。
――なぜ社長へ抜てきされたとお考えですか。
伊藤忠でブランドマーケティング事業部に在籍しているときは、ライカ向けの商権を担当課長として取り扱っていました。また、今回のライカ再建の枠組みは、実質上、私を含めて二人だけで作成しました。そのため、「商社から見たライカ」をよく知っています。これが最大の理由だと思います。
――伊藤忠経営陣からはいつ伝えられましたか。
1月になってからです。岡藤正広執行役員(繊維カンパニープレジデント補佐ブランドマーケティンググループ統括)から、食事をしながら「ライカを頼む」と伝えられました。岡藤は、私が入社したときの教育担当者であり、長期にわたる上司です。
――その意味でも、伊藤忠との一体感は強固なものになりますね。
そうです。伊藤忠の全面バックアップがあるわけです。ですから、今後の方針としては、伊藤忠の得意分野である、新規大型ブランド導入を積極的に手掛けていきます。それがライカ再建のスタートという位置づけです。
――いつ新規ブランドを導入するのですか。
今年の秋冬には時間的に間に合わないので、早くとも来年の春夏からということになるでしょう。
――これまで他社が手掛けたブランドの取得もありますか。
そうですね。実際的には、いわゆる「手あかの付いていない」ブランドはほとんどありませんから、全くの新規と他社が手掛けたブランドの両面で検討していきます。
人員は現体制維持/3年後に売上250億円
――組織面の改編もお考えでしょうか。
従来のライカにはひとつのブランドを統括する「ブランドマネージャー」の存在がなかった。このため、企画と生産の一体感に乏しかったと思います。ですから、組織のタテ割り色をもう少し濃くし、ブランドマネジャー制を導入します。
今申しました、(1)新規ブランド導入(2)組織改編が、当面取り組む最重要の課題となります。
――業績の見通しはいかがですか。
04年の7月期にはアパレル部門の売上高200億円弱を見込んでいます。3年後の07年3月期には同部門で250億円の目標を立てています。親会社の伊藤忠の連結対象となりますから、決算期の変更を検討しています。
――200億円の内訳は。
店舗は百貨店を中心に現在360店あります。ライカの主力であるメンズが約半分の100億円、フランスのブランド「カステルバジャック」が40億円、レディースが40億円、子供が20億円となっています。まず、得意分野のメンズで勝負するつもりです。
在大阪の本社ということもあり、東京での知名度は相対的に低い。東京地域でライカのイメージを浸透させるのも課題です。
――過去数年、ライカは合理化・縮小を続けてきました。今後もこの流れは続きますか。
いえ、それは考えていません。ピーク時には30近くあったブランド数は14にまで半減し、人員も1200人規模になっています。これ以上の縮小は、ブランド数に関しても従業員数に関してもありません。つまり、現在の1200人体制を維持していきます。ブランドも、先ほど申しましたように新規の導入を検討していますので、数が増えることはあっても減ることはありません。
平均34歳の若さ/モノ作りで国産重視
――1200人を率いる抱負は。
縮小した結果、当社に残った社員たちは本当にライカが好きな人たちです。内勤の正社員(約200人)の平均年齢も34歳と非常に若い。30代で第一線で活躍する人材がたくさん残ってくれたということです。彼らにとっては、伊藤忠はいわば「占領軍」であるにもかかわらず、迎え入れ方は非常に温かい。ライカに強い愛着を持ち、「ライカを良くしたい」と考えている社員たちの思いに応えなければなりません。
今は、営業部門の担当者に会って話をしている段階です。忘れてはならないのは、店舗の現場で働く多くのFA(ファッション・アドバイザー)たちです。彼らが頑張ってくれているおかげで会社があるわけですから、ぜひ私の気持ちを伝えたいと思っています。
――モノ作りへのこだわりもお持ちです。
現在の国産品比率は約50%です。残りの50%は主に中国生産ですが、国産の割合を高めたい。本当に良質の衣料は日本産であると考えているからです。「ライカ・モノ作りグループ」とも呼べるようなメーカーとの連携を強めていきます。
――ライカをどのように発展させていきますか。
消費者の「ライカ」に対するイメージは、「ヨーロピアン高級カジュアル」と定着しています。これをより発展させるため、高品質・高級品の販売に徹します。ですから販路としては、百貨店内店舗を中心とした展開の基本路線は変更しません。「さすがはライカだな」とファッションが好きな消費者に思っていただくような商品を供給するのが使命だと考えています。
もろふじ・まさひろ
福岡県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、83年伊藤忠商事入社。43歳。大学時代は日本拳法に打ち込み、2段の腕前。
記者メモ
縮小を続けてきたライカに残った社員たちの気持ちに応えたい、とインタビュー中何度も強調した。伊藤忠から出向してきた身として、“ライカ文化”に誇りを持つ社員たちへの厚い心配りが感じられた。それと同時に、「伊藤忠の全面支援でライカに光が差した」と自負もにじませる。
43歳で1200人の従業員を抱える企業のかじを取る。前職の課長時代の部下は16人だった。本人いわく「加藤誠・伊藤忠副社長繊維カンパニープレジデントより直接の部下の数は多い」(笑)。ルックスも口調もさわやかそのもの。「ころもがえ」し、新しい上着に着替えたライカの“顔”に似つかわしい。