Fジェネレーション市場特集/期待高まるFジェネ・団塊市場
2003年12月18日 (木曜日)
団塊世代(46~51年生まれ)は、消費の主役になりえる。子供が独立し、可処分所得が増加。ファッションに対してもその上の世代より関心が高い。とくにミセスは時間、お金に余裕がある。この50代に加え、40代コアの新世代ミセスも市場として確立してきた。40、50の英語のスペルが“F”で始まることから、40、50代をFジェネレーションと命名した。Fジェネレーション市場は、新しい大人服の市場として期待が大きい。
新大人市場形成へ/消費の主役に向かう
今年の衣料市場は天候に大きく左右された。冷夏の後は残暑。冬物に期待をかけたが暖冬となり、季節商材が動かなかった。消費を喚起したのは、阪神タイガースと福岡ダイエーホークスの優勝セールくらいである。ヒット商品不在の年であった。
そうした中でミセス、新世代ミセス商品は、比較的堅調だった。人口が多いという消費者としての塊の大きさが、その背景にある。ホールガーメントを中心にニット・カットソーが動いたのも、このFジェネレーションがニット・カットソー素材を好んでいることが一因として挙げられる。
オンワード樫山「自由区」、レナウン「エンスウィート」、ルック「スキャパ」、ナイガイ「エムエムマイユ」など新世代ミセスブランドは、厳しい商戦の中でも健闘する。ミセスのルック「ギビー」は、ミセスが自由な時間を旅に費やしている点に注目。秋冬ではエンジョイ・トラベラーをシーズンテーマにして旅着を提案した。軽さを追求したり、気軽に羽織れるコートなどの要素を組み込んだ。
こうした市場の動きに、素材メーカーも対応する。ダイワボウは高密度織物「ベンタイル」を展開するが、秋冬では洗い加工風の仕上げを提案。トレンドに合わせた都会風のきれいめな加工である。経フィラメント使いの素材も、きれいな表面感を訴求したものだ。
シキボウも従来メンズのゴルフシャツ中心に展開していたダブルシルケット加工「フィスコ」を、ミセス向けに用途を拡大したことで、現在はむしろミセスがコア顧客になった。光沢感やドレープ性、ドライな風合いを有する「チコリーノ」も人気だ。
クラボウは団塊世代向けに「50アップ」企画を提案してきた。「団塊世代は素材の良し悪しがわかる」と考え、国内生産された素材を最も受け入れやすい顧客層とみる。富士紡は「着る化粧品」を冠ブランドにして、ミセス・キャリア向けに「コスメプラス」を打ち出す。健康・美容に関心が高い顧客層として狙いをつけた。
こうした企業の取り組みは、90年代の消費の主役がヤングだったのに対し、今後の消費の主役がFジェネに交代することを予感させるものだ。
しかし、昨今の中国生産がより高級品市場に触手を伸ばしているように、今後は海外品といえどもFジェネ市場に照準を合わせたモノ作りが進むとみられる。それだけに、国内生産は“新大人市場”に焦点を絞った開発、マーケティングが一層必要になる。国内生産イコール高級品という図式が保たれているうちに、市場を固めていかないと、最後の市場さえ失いかねない。
シキボウ/セーター用糸売り始める
シキボウのニットは、Fジェネレーション向けで「フィスコ」が好評だ。このダブルシルケット加工の素材は、65双の天竺、フライスを各54色備蓄するが、来春夏物からベア天12色を加えた。大阪はミセス向けが多く、東京はキャリアでの反応がいい。
エレガンスの風を受け、「チコリーノ」も好調だ。芯部がトリアセテート、鞘部が綿の二層構造糸で、「光沢、ドレープ性、さらっとした肌触りが評価されている」という。来夏向けには麻混シリーズも加えた。ミセスが麻素材を好むこともシリーズに加えた理由だ。
また、カットソー分野だけでなく、セーター分野への展開も始めた。来夏物からセーター用の糸売りを開始。富山工場で糸を生産し、シキボウ江南で糸を染める。これをSPA型アパレルに販売するもの。
糸は複合糸が中心で、チコリーノ、麻混チコリーノ、シルパロン綿、フィスコ、ダブルデュエットなど。「綿のカットソーとウールセーターの間のブリッジ的商品」を狙う。来年5月の05春夏ニット素材展では、ウール絡みの商品も発表する予定だ。
ニットは着やすい、シワになりにくいという点でFジェネが求める素材といえる。そこにトレンドと上質感をいかに加えていくかで、国内生産の強みを発揮することができる。原料、紡績を駆使し、加工を付加するという工の部分と、セーター糸の展開では企画段階から提案する創の部分を組み合わせて対応する。
ダイワボウ/「ベンタイル」市場拡大へ
「プライスと商品価値のバランスを理解できる世代だ。しかもそれぞれが、自分なりのスタイルを持っている。本物が分かる世代だともいえる」。佐藤裕次郎開発原材部長は、Fジェネレーションをそうとらえる。そして、この世代のモノを見る確かな目は、「ベンタイル」を中心とする同社の高密度織物群の市場拡大につながると期待する。
「ベンタイル」は、海上自衛隊のパイロット用航空服素材として産声を上げた。着用時には通気性があるが、水上で湿潤すると皮膜を形成し、浸水を防止する機能がある点が、パイロットの命を守る海難救助服の素材に適すると判断された。
それから40年が過ぎた。究極の高密度織物である「ベンタイル」は、改めていうまでもなく丈夫である。丈夫であるがゆえに、様々な加工が可能だ。同社は、「ベンタイル」を加工で傷めつけることによって、様々な味わいの生地を商品化してきた。そして今、「ベンタイル」ファミリーは、コート素材としてはもちろん、ジャケット、パンツなどのカジュアル衣料素材としてその市場を広げつつある。
「ベンタイル」ファミリーは、双糸使いの「ベンタイル」、単糸使いの「ベンタイルギア」、経に長繊維糸を織り込んだ「ベントーネ」の3商標で構成される。生機種は、「ベンタイル」で7、「ベンタイルギア」で10、「ベントーネ」で3と豊富だ。この多彩な高密度生機と、様々な加工を組み合わせることで同社は、「ベンタイル」ファミリーの市場を広げている。
ユニチカテキスタイル/環境関連素材を訴求
ユニチカテキスタイルは、ライフマテリアル素材として「シルフ」を展開する。原料はユーカリから生まれた「レンチング・リヨセル」。ノンホルマリンのローフィブリル、ノンフィブリルがあり、エコロジーな製造方法だけでなく、素肌にも安心な素材だ。
「シルフ」には、空気の精、あるいはハチドリの意味がある。環境の良好な所でしか生きられないハチドリは、環境保全や自然の象徴でもある。
12月上旬に開催された「ジャパン・クリエーション2004」には、「光合成の素材」をコンセプトに、ポリ乳酸繊維「テラマック」とともに出品。両素材は植物由来で、生産・廃棄のエコロジー性に加え、生育時の光合成で二酸化炭素を吸収するなど環境保全にも優れる。
Fジェネレーションは、環境問題に対する意識が比較的高い。日本の高度成長時代の公害問題を目の当たりにしてきたこともある。「シルフ」のエコロジー素材という特徴は、Fジェネが受け入れやすいポイントだ。
そうした素材のスタンスに、ファッション性を加える。マイクロファイバーリヨセル使いの細番手は60~100単で、交織、交編のバリエーションも豊富。緯フィラメント(ナイロン、ポリエステル、アクリル)や綿、麻との混紡素材も展開する。ソフトタッチの「シルフシルク混」、さわやかで清涼感のある「シルフ麻混」などだ。衣料用途以外の寝装インテリア関連の商品開発も進め、ライフスタイルマテリアルとして展開する。
ゴールドウイン「ラテラ」/デサント「ホールアース」
ゴールドウインのノース・フェイス事業部が展開する「ラテラ」は団塊リセット世代に特化、デザインに対するこだわりを考慮し、デザインの“若返り”を実施して再構築した。
とくに中高年のトラベル需要が高いことから、取り組みを強化。旅行を切り口とした「トラベルコンフォート」ライン(レディースのみ)を設置している。「トレッキング」とも連動させ、相乗効果も狙う。
04春夏は、年齢層を問わず足長シルエットが注目される中、ボトムスを中心にしたアイテム構成を強化。ボトムスという定番的なアイテムの中で、新素材の導入、これに伴う多様な機能提案、シルエットのバリエーション強化などを行う。またパンツスタイルの変化により、活動する場所や動きも変わってくることからトップスの変化も伴うことになるという。
素材には「トラベルコンフォート」で「ダクロンQDコットンストレッチデニム」「サプレックス」「クールマックス」「タクテル」「アルティマパワーストレッチ」を使用。運動性や軽量性、速乾性、撥水性などを訴求する。「トレッキング」ラインでは、これにPTT繊維「フィッティ」を加え、運動性を強調する。
シルエットは大腿部にゆとりを持たせたものや、タイトなもの、フレアタイプなど多彩なバリエーションを打ち出している。
デサントは「ホールアース」で、団塊世代のハイキング・トレッキング層に向けた打ち出しを強化し“ネイチャークルーズ”を04春夏から投入する。
ネイチャークルーズはポーチなどの軽装で自然を楽しむための旅行をコンセプトとした。収納性を強化しベストとジャケットを合体させたアウタージャケットや、初春から初夏までの長期シーズンに使えるニットインナー脱着式のジャケットなどを打ち出す。
ボトムスはレディース向けが“スラットパンツ”メンズは“ガッシリパンツ”として打ち出す。身体のラインを細く、足を長く見せるシルエットにした。
素材はUVケア機能に注力。ジャケットのほかミドラー、アクセサリーに至る全商品にUV機能を持たせた。