“樹木繊維”脚光浴びる/今春夏の婦人外衣で

2003年05月14日 (水曜日)

 レーヨン、トリアセテートなど、樹木を原料とするいわば“樹木繊維”を使って綿紡績会社が商品化した編み地が、今春夏の婦人外衣素材として脚光を浴びた。日本の綿紡績会社が販売する婦人外衣用編み地のほとんどは、小売価格が高い中高年服向け。今回の樹木繊維ブームは、中高年婦人服分野でのものだといっていい。今月から生地出荷が始まる秋冬商戦に、この流れがどう受け継がれるかが注目される。

紡績が編み地で商品化

 日本に2社しかないレーヨン短繊維製造会社の一つオーミケンシ。同社ニット事業部の井畑雅年・大阪販売部長が、婦人外衣市場でのレーヨン人気を実感したのは今春夏商戦でのこと。春夏用の発注は2月で終わると予想していたが、今も続いているという。今春夏商戦へのレーヨン編み地投入は、糸量換算で前年同期の3倍以上になりそうだ。

 シキボウでは、トリアセテート長繊維を綿で覆った二層構造糸、「チコリーノ」を使った今春夏向け編み地への発注が、婦人外衣業界から急増した。吉村安司・衣料第二事業部長は、全ての注文に対応できれば「前年の5倍ぐらい」の商量になったはずだという。しかし、ここまで発注が増えるとは同社も予想していなかった。糸の生産が追いつかず、全ての注文には対応できなかった。

 例年なら今月から、秋冬向け婦人外衣用生地の出荷が始まる。しかし、消費不振を受けて婦人服卸も生地商も、発注に及び腰だ。このため紡績会社は、どのような生地に人気が集まるを現時点では予測できないという。そんな霧中の秋冬商戦で唯一確実視されているのが、樹木繊維人気の継続。

 品質表示法では「指定外繊維」となる樹木繊維、「レンチング・リヨセル」を使った編み地を販売するユニチカテキスタイルのニット営業第一部。同部の佐嘉田義孝部長代理は、同編み地の販売規模が拡大に転じており、秋冬向けにも予定量を販売するめどがついたと語る。オーミケンシの井畑雅年部長も、「レーヨンなら失敗はないとの読みがバイヤー側にもある」と、今秋冬商戦でのブーム継続を予想する。

 ただし、春夏商戦の樹木繊維ブームが、秋冬商戦で変形する可能性も否定できない。樹木繊維をフィブリル化(ささくれ立たせること)させて、桃皮のような表面感にして欲しいとの要望が増えていると、ユニチカテキスタイルの佐嘉田義孝部長代理はいう。この指摘は、婦人服業界の要望が、単に樹木繊維使いであればいいという段階から、加工面にも踏み込んだ高度なものになりつつことを示唆する。

 要望の高度化は、結果的に樹木繊維ブームを変形させるかもしれない。樹木繊維の加工には高度な技術を要する。しかし、同繊維は長年に渡って流行の圏外に置かれていた。高度な加工技術の継承が途切れている可能性がある。継承が不十分な場合、加工に伴う生地のぜい弱化を、合繊の力で補う動きが出てもおかしくない。樹木繊維よりも安価な合繊を編み込むことで、値合わせも容易になる。事実、複数の紡績会社が、「合繊へ移行しそうな流れがある」と指摘している。