ストレスケア特集/“呼吸する繊維”のワケ/東洋紡のストレスケア素材
2002年06月17日 (月曜日)
「エクス」を徹底解剖
東洋紡が、アクリレート系という耳慣れない繊維を「エクス」商標で発売したのは、97年のこと。店頭デビューは、98秋冬商戦だった。婦人肌着として投入され、折からの“ババシャツ”ブームもあってヒット。そのブームが去った後も、安定した売れ行きを示している。婦人肌着にこれを採用している企業は、6社に達した。また用途も、ふとん中ワタ、紳士服、スポーツなどの分野へ広がりつつある。「エスク」の生産量は前年度も、前年比20%増を記録した。この繊維が人気を得たのは、「水分を自力で感知し、そして自力でホカホカ熱を発する」という不思議な機能を備えているからだ。もちろん、そこにはタネも仕掛けもある。
熱源は湿気/羊毛より多い吸着分子
繊維は、湿気(液体ではなく気体)を吸うと、吸着熱と呼ばれる熱を発する。その熱量は繊維によって異なるが、既存繊維の中では羊毛が特に高い。「エクス」は、それを上回る発熱性を備えている。湿気を吸着する分子が羊毛よりも多いからだ。このことは同時に、吸湿能力が大きいということを意味する。
重ね着や、分厚い衣料をまとうというのが従来の保温手段だった。しかしこれは、ムレの原因になる。吸着熱を多量に、かつ長時間に渡って発生させる「エクス」を使えば、そんなに厚着をしないでもいい。しかも、前述の発熱特性は、湿気を吸う容量がそれだけ大きいということを意味するから、ムレを心配する必要もない。
東洋紡は、「エクス」の発熱性を「調温効果」、吸湿性を「調湿効果」と呼ぶ。両効果は、上述した通り、対になっているものだ。「エクス」にはこの他に、「調和効果」がある。健康な肌は、体から分泌される酸性成分や皮脂成分によって弱酸性に整えられているとされる。ところが、アルカリ汗や洗剤によって、衣服はアルカリ性になりがちだ。アルカリ成分は、肌の皮脂分をとかし、肌から水分をうばってしまう。ところが「エクス」繊維には、アルカリ性の水溶液の中でも弱酸性を保つ性質がある。これに加えて消臭性も備えているという。これが、「エクス」の「調和効果」だ。
知られざる能力/夏素材としての研究進む
アクリレート系繊維には、知られざる能力がまだ潜んでいると東洋紡は考えている。すでに、化学的吸着でアンモニア臭を消す特性を持つアクリレート系繊維を「ディスメル」商標で、汗の分解で生じる臭気を、化学的中和反応とイオン交換作用で消す性質を持つアクリレート系繊維を「エチケット」商標でそれぞれ商品化した。これ以外にも多くの可能性が残っているとみており、研究を進めている。その中の大きなテーマが、夏の衣料素材としての可能性の追求だ。
「エクス」が持つ吸湿能力の大きさは、夏場にも威力を発揮する。この特徴を強調しようとする研究が今進んでいる。すでに、資材用途では商品化にこぎつけた。「モイスファイン」商標で販売している繊維がそれで、吸湿パッドや、クローゼット用除湿材などに使用されている。
これらのアクリレート系繊維を生産しているのは、東洋紡の子会社、日本エクスラン工業の西大寺工場(岡山市)だ。同工場のアクリレート系繊維生産能力は、量産開始当初の3、4倍になっている。それが今、フル稼働しているが、それでも足りない。このため、さらなる能力増を検討している。東洋紡のアクリレート系繊維事業は今、成長過程にある。
なお、東洋紡は昨年10月、アクリル繊維の販売業務を日本エクスラン工業に移管した。日本エクスラン工業は現在、アクリル繊維の生産・販売・開発の全てを担っている。
ストレスケア素材ファイル
「バイオサウンド」
木々の間を吹き抜ける風の音、鳥のさえずり。自然界の森羅万象にはそれぞれ固有の周期性がある。信州大学工学部の中村八束教授はこれを、「バイオサウンド」と名付けた。
東洋紡は、人間が考えた図案に、「バイオサウンド」的変化を与え、それを、プリントやジャカード織りなどで生地に表現して販売している。発売は96年。訪問販売ルート向けのふとん地素材と、売れ行きが伸びている。カーテンや、ロールスクリーンにも採用されている。
同業他社も同様の試みを行っているが、それが図案を数学的に作りだすものであるのに対し、「バイオサウンド」は、図案作者の主張を補強するためのものだ。日本料理の皿に、菊の花を添えるようなものだという。菊の香が、自然を連想させるが、それ自体は主役ではない。東洋紡によると、人気のある「バイオサウンド」は、蓼科高原や、黒姫高原の風の音だという。
「アルパック」
「アルパック」は、肌へのやさしさを重視して商品化した純綿生地だ。高級原綿を使い、それに含まれるペクチンなどのワックス成分を除去し、選択された加工剤で仕上げた。また、保湿性、制菌性を備える天然因子を付着させる。加えて、反応性染料群から最も皮膚刺激性の少ない基本染料4種を選択し、25色の基本色を用意した。大阪市立大学医学部小児科学教室アレルギー研究グループの清原氏の指導のもとに、アトピー性皮膚炎患者延べ145人を対象に着用テストを実施、「『アルパック』は、肌の弱い人や赤ちゃんなどにも安心して着用していただきたい素材である」とのコメントを得たという。
「デオドラン―C」
「デオドラン―C」は、綿のセルロース分子を改質したスキンケアと消臭機能を持つ綿生地だ。汗や尿などのアルカリ成分や酸性成分などを中和するpHコントロール機能を持つ。また、改質セルロースの作用により、アンモニア臭などをすばやく消す。
「キュルール」
「キュルール」は、天然保湿成分のピロリドンカルボン酸を用いて加工した綿およびポリエステル・綿混生地。人間は生まれながらに、肌のみずみずしさを保つためのうるおい成分として天然保湿因子を持っている。その一つが、ピロリドンカルボン酸。これは、乳液やクリームなどスキンケア用品の保湿成分として幅広く使われている。
「アロマーブル」
「アロマーブル」は、アロエから抽出した成分を含浸させることで保湿性を付与した生地。「SEK」基準を満たす抗菌防臭性も備えている。