転換期の香港/本土一体化で新たな強み/日系企業は生かせるか?
2025年04月28日 (月曜日)
香港が中国本土との一体化により、高度人材と研究開発を新たな強みとする地域に生まれ変わろうとしている。地元企業家はこれをチャンスと見る。日系繊維企業の香港への態度は二分化している。(香港=岩下祐一)
2019年に反政府デモで社会が混乱し、20年から新型コロナウイルス禍に苦しんだ香港が、落ち着きを取り戻している。
経済は回復の途上にある。従来の強みだった金融、物流、貿易のうち、物流と貿易は本土や他国にお株を奪われつつある。24年のGDP成長率こそ2・5%で、2年連続でプラスになったものの、足元では米国の相互関税により、先行き不透明感が増す。域内消費は、物価が相対的に安い広東省深センへの消費流失に直面する。
しかし、地元企業家の表情は意外にも明るい。香港が本土と一体化し、新たな強みを確立しようとしているからだ。
中国政府は19年、香港・マカオ、広東省を一体化し、発展させる「粤港澳大湾区」(グレーターベイエリア)構想を始動した。それもつかの間、反政府デモとコロナ禍で一時停止を余儀なくされたが、コロナ禍が落ち着いた23年に再開した。
先行するのが、高度人材の一体化だ。香港の著名大学の博士課程では、本土の大学院修士課程を修了した学生の進学が急増している。繊維の研究に注力する香港理工大学は「この5年で、内地から2千人の修士課程修了者を受け入れた」(同大学関係者)と言う。その一部は、米中対立の激化で米国留学を諦めた学生とみられる。
深センと隣接する“北部都会区”では、ハイテクパークの建設が進む。グレーターベイエリア構想の橋頭堡と目される同区には将来、ハイテク企業の研究開発センターが集積する。香港の大学で博士課程を修了した高度人材に、活躍の場を提供する。
「香港で研究開発↓深センで実用化↓東莞で生産↓香港の金融機能を活用し製品を普及、というのが政府の描く青写真だ」と、地元企業家は説明する。金融に加え、研究開発とそれを支える高度人材が、これからの香港の強みになる。
限られた一部の現地日系企業は香港の高度人材を生かし、事業の強化に取り組む。
編み物製衣類の縫製を手掛ける東レ〈香港〉(THK)は、自社の高度IT人材を活用し、デジタル技術で企業を変革するDX化をベトナム子会社で進める。生成AI(人工知能)による社内業務の効率化にも挑戦している。
帝人富瑞特〈香港〉は、欧米文化に精通する社員を生かし、生地と製品の欧米ブランド向け販売を拡大中だ。
一方日本では、香港と本土の一体化の負の側面ばかりが注目されている。現地日系繊維企業は、日本人駐在員の派遣を止めるなど、縮小の動きも見られる。
しかし、香港が今後、新たな地の利を得て強くなる可能性もある。各社は香港の将来性や、今後の活用の可能性について再検証すべきではないか。