春季総合特集Ⅲ(18)/Topインタビュー/カケンテストセンター 理事長 眞鍋 隆 氏/各国・地域で顧客支える/今できることを地道に

2025年04月24日 (木曜日)

 カケンテストセンター(カケン)は、2025年度(26年3月期)に中期経営計画の最終年度を迎えた。環境対応や海外展開、コスト対策などに取り組むが、眞鍋隆理事長は「今できることに地道に取り組んでいく」と語る。その中でも人材に目を向ける方針で、教育の実施のほか、「次の中計に職員の意見や考えを取り入れる」考えを示した。

――Gゼロ時代といわれます。日本企業に求められるものは。

 Gゼロによってどのような時代になるのかを考えた時、二つのキーワードが浮かび上がります。一つは混迷度や不透明感が深まり、これまでのような秩序がなくなります。もう一つはリーダー不在によるブロック化です。その両方の影響の中で、どのような立ち位置を取るのかになってきます。

 混迷度や不透明感が深まるとリスク分散の意識が強まると思います。チャイナリスクもその一つであり、ベトナムをはじめとするASEAN地域への生産拠点の移転が加速することが考えられます。ブロック化に伴う懸念もあります。米国の保護主義によって行き場を失った中国製の製品が日本市場に流れてくる可能性は否定できません。

――カケンとしてはどのような対応を取るのか。

 カケンの事業は顧客あってのものです。日本国内はもちろんですが、中国やASEAN地域、南アジアなど、それぞれの国・地域で顧客を支えていきます。その一つがベトナムで、昨年10月に子会社のMTVカケンベトナムを立ち上げて業務を開始しました。インドやバングラデシュの充実も次の課題です。

 カケンには、グローバルテクニカルサポート室があり、豊富な情報を持っています。海外ではさまざまな法律があり、欧州などでは環境に関連する規制も進んでいます。現在、十数カ国の情報を提供することが可能ですので、生産面のほか、販売面でも活用してほしいと思います。

 Gゼロ時代に入っていたとしてもしっかりとした対応を行えば、多少の混乱はあったとしても大きな問題は生じないでしょう。マクロ経済の鈍化などを考えても切りがありません。試験・検査業務やコンサルティング(情報提供)など、自分たちができることに地道に取り組みます。

――24年度が終了しました。業績は。

 電気料金をはじめとするコスト上昇の影響は受けましたが、カケンとしては堅調に推移しました。新型コロナウイルス禍の落ち込みから脱したほか、近年の酷暑を反映して遮熱性試験などに動きが見られました。それに対して職員一人一人が丁寧かつ誠実に応じたことが奏功したと考えています。

 売り上げも試験依頼件数も前年を上回る見通しです。国内外とも伸長しているのですが、けん引役は海外が務めています。中国主要拠点の上海科懇検験服務は機能性試験の強化が寄与したほか、一般試験も増加しました。全体として想定通りの動きを見せており、コロナ禍前の水準に戻っています。

――25年度は中計の最終年度です。

 米トランプ大統領の政策、米国と中国の関係、地政学リスクなど、さまざまな変化が起こり、先の予想はできません。分からないことを考えても仕方がありません。今の自分たちにできることに対して地道に取り組みます。中計で掲げている「お客さま、従業員、社会を大切にする」という思いを改めて強くしています。

 環境、海外展開、コスト高への対応にも継続して力を入れます。環境ではLCA(ライフサイクルアセスメント)算定に加え、経済産業省が策定した「JASTI」(繊維産業の監査要求事項・評価基準)の監査も強化します。海外は、ベトナムに加え、インドとバングラデシュの機能を強化します。

――人材の育成については。

 積極的に取り組んでいます。昨年「カケンアカデミー」を立ち上げ、ベテラン職員が各ラボを訪問し、教育を行いました。講師4人で約40回実施しましたが、25年度からは講師を7人に増やし、メニューも充実しました。国内だけでなく、海外拠点でも実施する可能性があります。

〈昭和時代の思い出/三つのキーワード〉

 「宇高連絡船、アンカレッジ経由、ベルリンの壁の三つが浮かんだ」と眞鍋さん。昭和が終わった1989年1月はポーランドの日本大使館に勤務していたが、赴任前の87年正月に宇高連絡船で実家のある四国に帰り、3月に米アラスカ州のアンカレッジ経由でポーランドへ。89年のベルリンの壁崩壊も同地で知る。日本に戻る時にはアンカレッジ経由はなく、宇高連絡船は廃止。実家には電車を利用して帰ることになり、「旅情がなくなった」と話す。

【略歴】

 まなべ・たかし 2003年経済産業省化学課長、05年NEDO総務部長、08年産業技術総合研究所理事、09年経済産業省大臣官房審議官、10年全国中小企業団体中央会専務理事、16年タクマ常務執行役員などを経て、23年10月カケンテストセンター理事長就任