春季総合特集Ⅱ(9)/Topインタビュー/一村産業 社長 大嶋 秀樹 氏/供給力の向上に臨む/海外生産機能磨いて

2025年04月23日 (水曜日)

 一村産業(大阪市北区)は「中東民族衣装向け以外」の拡大に取り組んでいる。事業利益で過去最高を更新した2025年3月期をけん引したのは同販路だったが、それ以外の拡大に向けた種まきもしっかり進めた。その成果が25年度に発現してくる見込みと言う。さらなる業績拡大に向け、供給力の向上にも余念がない。

――Gゼロ時代の到来で先行きの不透明感が増す中、国内外で改めて強化していく取り組みを教えてください。

 世の中が変化してもしっかりと着実に生地を供給できる体制を改めて構築していくことが肝要かと思います。その実現のために技術や物流の改革にも着手しています。

 当社は日本の北陸産地を軸にしつつ、中国、ベトナム、インドネシア、インドの協力工場で紡績、織布、染色加工を行ってきました。これらの国で、工程をその都度分解し、最適生産地を見極めて生産し、コスト低減と納期短縮を実現するというグローバルコンバーティングの力を磨いてきました。この取り組みが当社の今の強みですし、今後も推進していきます。

 加えて、C反発生率の低減を改めてテーマに掲げました。中国やベトナムの海外協力工場に日本からスタッフを派遣し、品質向上に努める取り組みです。既存の協力工場で品質を引き上げつつ、提携先も増やす構想です。さらなる業績拡大に向け、供給力の維持拡大が前期と今期の大きなテーマになります。

――25年3月期の繊維事業の決算はいかがでしたか。

 繊維事業は、前期比増収増益となりました。売上収益が前期比9%増で、事業利益は同80%増になる見込みです。事業利益は、東レ子会社になった46年間で過去最高を更新します。

 旗・幕の非衣料向けが需要減退で減収だったものの、主力の中東民族衣装向けが大きく伸び、ユニフォーム向けは市況が良くない中でも微増収と健闘できました。欧州メゾン向けなどのライフスタイル関連は下半期に盛り返して増収となり、国内染工場の自販部門向け販売も拡大しました。

 前期は染色加工場の価格改定を受け入れたことでその分のコストは上がりましたが、それでも伸ばせたことは意義深いですね。海外向けは為替の恩恵もありますが、商品構成的にも付加価値化が進みました。

 新規分野として取り組みを強めた産業資材向け不織布は伸ばし切れませんでしたが、種まきは順調に進んでおり今期以降には数字になってくるとみています。

 今期も10%前後の増収を狙い、伴って利益も拡大させます。

――ポリエステル短繊維織物の「中東民族衣装向け以外の開拓」にも取り組まれています。進捗(しんちょく)を教えてください。

 24年度に取り組みを進め、25年度からは多角推進課という専任の課も設け、スパンポリ部は従来の中近東衣料課に多角推進課を加えた2課体制となりました。この「中東以外」も産資分野と同じく、25年度には数字になってくる見通しです。東南アジアやインドのイスラム民族衣装、イスラム民族衣装以外、などがターゲットです。

 機能衣料部に属するユニフォーム課とライフスタイル衣料課のシナジーも発現させていきます。例えば、既に女性ユニフォームで採用される高伸縮の「ラクストリーマ」をアレンジして欧州のメゾンに販売するなどの実績があります。こうしたシナジーをさらに出していきます。

――北陸など日本の産地とは。

 高付加価値化の方向です。織物工場や染色加工場との共同開発を推し進め、産地企業と共に開発・販売するという体制を構築していきます。

 物流改革もテーマです。前期のうちに、営業部門の中に物流の部署を組み込みました。顧客、仕入れ先に対して一村産業から具体的な提案を行うためです。顧客、仕入れ先、一村産業が三位一体となった動きを進めているところです。コスト削減と納期短縮を実現させることが目的です。まだ道半ばですが、世の中が変化しても商品を着実に供給できるよう、物流改革も進展させていきます。

〈昭和時代の思い出/ビジネスは貪欲に〉

 「キャッシュレス化が進んだことを実感する」と大嶋さん。昭和の頃は小銭を握りしめて駄菓子屋に通った。今は現金払いの機会も激減したが、「財布のひもが緩んでしまう」との危機感が強まり、最近はできるだけ現金で支払うようにしているそうだ。「昔はもっとお金に貪欲だった」とも。支払い方がスマートになった分、価値観もスマートになったのかもしれない。「ビジネスはもっと貪欲でありたい」と泥臭さを歓迎する大嶋さんだ。

【略歴】

 おおしま・ひでき 1983年一村産業入社。2012年取締役産業資材事業部門長兼優水化成工業取締役、18年常務、22年専務を経て、23年6月から社長