春季総合特集Ⅱ(5)/Topインタビュー/東洋紡せんい 社長 清水 栄一 氏/用途・売り先を広げる/非衣料加えて営業利益2倍へ

2025年04月23日 (水曜日)

 世界経済の不透明感が増す中、「変動にもぐらつかない商権をどれだけ作れるかがポイントになる」と東洋紡せんいの清水栄一社長は強調する。一方、高付加価値品への特化は生産数量拡大のハードルが高まることを意味する。それだけに「用途と売り先を広げることが重要になる」と指摘した。新たに非衣料領域の事業も加わり、さらなる利益拡大を目指す。

――Gゼロ時代に入り米国の関税引き上げで世界経済が動揺しています。

 外部環境は言い訳になりませんから、やはり世界経済の変動でもぐらつかない商権をどれだけ作っているかが問われることになります。今後、関税によって米国市場へのアクセスが難しくなった中国などから、米国以外の市場に過剰在庫が流入する可能性もあり、そうなると日本企業にとってコモディティー品のビジネスがますます難しくなるかもしれません。

 一方、代替品のない高付加価値品は、どうしても需要がニッチのため、数量拡大のハードルが高いという問題があります。メーカーからすると、生産スペースをどう埋めるのかが問われるわけで、このあたりのバランスをどう取るのかが課題となります。

 そのためには、用途と売り先をいかに広げるかが重要です。小さくても代替不可能な用途・売り策を積み重ねることで数量を確保するという考え方です。当社の場合も、これまで衣料繊維中心に事業を運営していましたが、4月から工業材料事業と機能資材事業が東洋紡STCより移管されました。非衣料分野も含めてターゲットとなる市場を増やし、差別化商材を拡販することを目指しています。もちろん単純に数量を追うのではなく、あくまで“利のある商品”で販売数量を確保するという考え方です。

――2024年度(25年3月期)を振り返ると。

 計画はほぼクリアしており、営業利益も倍増となって黒字を維持しました。スクール事業は流通在庫増加の影響で勢いが鈍化していますが、学生服の合繊化・ブレザー化に対応するこれまでの方向性は間違っていないと考えています。ただ、布帛製の学販シャツは今後も需要減退が進むでしょうから、国内の生産拠点の再編を検討しています。

 輸出織物事業は欧州向けのナイロン高密度織物が好調でした。マスバランス方式を含めてケミカルリサイクルとマテリアルリサイクルの両方をそろえていることが評価されています。中東民族衣装織物も受注は堅調。国内の自社工場で製造・加工しているため納期対応力も強みになります。今後も自社開発品の比率を高めていくことが重要でしょう。

 マテリアル事業も原糸販売が好調で増収増益を確保しました。新方式開繊技術によるリサイクル綿糸「さいくるこっと」への注目度が高いですね。“原料回帰”の戦略が成果を上げています。熱可塑性炭素繊維複合糸など非衣料分野の開発も進めており、こちらは新たに加わる工業材料事業や機能資材事業とのシナジーも発揮させたい考えです。

 ユニフォーム事業も備蓄アパレル向けが減少した分を企業別注などでカバーし、増収増益となりましたが、こちらは受注の安定性という面で不安があります。やはり安定した受注を確保できる事業へと再構築が必要ですから、白衣・サービス用途などを強化します。自社縫製工場で発生する端材をリサイクルする「T2T」もリネンサプライ企業と連携し、25年度からレンタルユニフォームで実用化します。

 また、スポーツ事業は苦戦が続いています。縫製品は採算重視で臨んだことで数量が減っており、それを中国内販向けの生地輸出で補っているのですが、縫製品の落ち込みをカバーするには至りませんでした。まだまだ抜本的な改革が必要であり、それこそ25年度は収益改善に向けた“勝負の年”になります。

――25年度が始まりました。

 営業利益を衣料繊維だけで1・5倍、そこに新たに加わった工業材料事業と機能資材事業を加えて全体では倍増させることが目標となります。米国の相互関税問題などもあって事業環境は不透明ですが、環境変化に対する耐性を高め、“外部要因でふらつかない事業体を構築する”ことを目指します。

〈昭和時代の思い出/過去の“不適切”を反省〉

 「『不適切にもほどがある!』を見て、身につまされた」と話す清水さん。昭和的行動が令和の時代にはコンプライアンスに抵触することを描きながら“本当に大切なことは何か”を問う宮藤官九郎脚本。阿部サダヲ主演のコメディーだが、「自分の若い頃を振り返ると、“不適切にもほどがある!”ことが多々。反省した」。ただ、「コミュニケーションが円滑で、寛容だった面もあるのでは。そんな“昭和の良い面”は残したい」と、“言葉を選びながら”指摘する。

【略歴】

 しみず・えいいち 1986年東洋紡績(現・東洋紡)入社。生活テキスタイル事業部ワーキングサービスグループマネジャー、グローバル推進部主幹兼東洋紡インドネシア社長などを経て2021年執行役員東洋紡STC社長、22年東洋紡せんい社長、24年4月から東洋紡常務執行役員機能繊維・商事本部長を兼務