2025年春季総合特集(15)/Topインタビュー/大和紡績 社長 有地 邦彦 氏/基本方針変えず海外市場拡大/IPOへ成長を明確に示す

2025年04月22日 (火曜日)

 大和紡績は、ダイワボウホールディングスからの独立後1年が経過した。中期経営計画の初年度(2025年3月期)は、設備投資の遅れなど課題を残しつつも、全体としては前期比で増収増益を見込む。インドネシアを軸にグローバル展開を拡大していくとともに、グループ内の連携や人材交流を活性化。有地邦彦社長は「グローバル市場に挑戦し、世界で通用する人材育成にも力を入れる」と話す。企業価値の向上を推進しながらIPO(新規株式上場)に向け「着実に業績を積み上げ、成長戦略を明確に示す」としている。

――「Gゼロ」時代に国内外で強化すべきポイントは。

 米国のトランプ大統領が「相互関税」を発表し、自由貿易から保護主義へと方針を転換しました。この影響で株価が下落し、景気や消費行動にも変化が起きる可能性があります。結局、関税を負担するのは米国の消費者であり、製造業の米国回帰もどこまで進むか不透明です。

 こういった環境下では、どこへ資本投下するかの判断が難しい。当社の場合、インドネシアを中心に生産拠点を確保しています。実行しようとしていた投資も、しばらく様子を見る必要があり、時間がかかる可能性があります。

――実用衣料を中心にインドネシアから対米輸出に力を入れています。

 関税の影響はどの国でも避けられず、冷静に動向を見極める必要があります。インドネシアだけでなく、中国や東南アジア諸国など本当にこれだけの関税をかければ、米国の衣料品業界も大変なことになりそうです。

 ダイワボウレーヨンでも特殊なレーヨンわたの対米輸出を継続しています。競合メーカーの撤退や脱中国の動き、BCP(事業継続計画)の観点から需要が増加傾向にあります。

 日本経済にも株価をはじめネガティブな影響が出ていますが、当社の基本方針は変わりません。インドネシアでのモノ作りを継続し、グローバル販売を拡大していきます。

――24年度(25年3月期)の見通しは。

 23年度に比べ増収増益を見込んでいます。合繊、産業資材、製品・テキスタイルの全事業で堅調に推移しています。計画に対するばらつきはあるものの、中計の初年度としては順調なスタートとなりました。

 第4四半期(1~3月)に、ダイワボウレーヨンの益田工場(島根県益田市)で機械トラブルにより操業率が低下し、利益面で影響が出ましたが、それ以外はおおむね堅調です。

 財務体質もアスパラントグループとの連携により改善し、バランスシートも良好な着地が見込まれます。

 合繊事業はフェースマスクやコスメティック製品での取り組みが奏功し、特に猛暑により制汗シート向け需要が伸びました。衛材や建材、電材などの産業材も価格転嫁の努力と需要回復により堅調でした。

 ダイワボウレーヨンの素材を活用し、合繊の不織布工場で仕上げるといった、グループ間の連携もうまく進んでいます。また、開発チームも頑張っており、その成果が表れています。最終製品まで見守り、しっかりとした品質・納期管理の積み重ねが、顧客からの信頼感を高めています。

 ダイワボウレーヨンは、米国向けの防炎・難燃性のわたで、中国製品との競合に苦戦しましたが、機能性の高いわたは堅調で、前期比で増収となりそうです。当初は設備投資を初年度に集中して行う予定でしたが、装置や設備メーカーの納期遅延、建設業者の人手不足が影響し、設置が遅れている状況です。前期はメンテナンスを優先せざるを得ない状況で、大規模な機械の入れ替えは後ろ倒しになっています。

 産業資材事業では、ゴム製品が自動車を含む電気部品向けに堅調、価格転嫁も進みました。

 電子部品向けフィルター関係では、下半期から価格転嫁が進み、収益が改善しました。高機能フィルターの上市が進んでおり、播磨研究所を中心に、若手がしっかりと商品開発を進める体制が整ってきました。さらに塗装や食品など用途開拓も進んでいます。

 重布関連では、大阪・関西万博によって、建築関連の需要が高まりました。特にテント向けの受注が活発でした。製紙業界の環境が悪化しているカンバス事業を除けば堅調です。

 製品・テキスタイル事業では対米・国内向けとも回復が見られました。国内向けインナーは価格転嫁が厳しい状況でしたが、対米では在庫調整が終わり急回復しました。

――今期の方針は。

 前期は問題点を早く察知して対策を打ち、アクションを機敏にしていたら、もっと数値の面で上乗せを図れるはずでした。問題点を解決しながら、需要に合わせた生産体制を強化していきます。

 計画としては引き続き増収増益を想定しています。大規模な設備投資は、早くても今期後半になる可能性があります。現在、詳細な計画を策定中です。進行中の開発案件を着実に上市していくとともに、研究・生産・販売の連携を強化し、迅速な商品展開を目指します。

 合繊事業では国際販売室を軸に海外でのレーヨン需要の取り込みも積極的に図っています。グループ内の連携や人材交流を通じてグローバル市場に挑戦し、世界で通用する人材育成にも力を入れます。オーガニックグロース(自社の経営資源による成長)に加え、企業連携やM&A(企業の合併・買収)への投資も模索しながら企業価値の向上にも取り組んでいきます。

――4年後にIPOも想定しています。

 実現時期は未定ですが、準備を進めています。まずは着実に業績を積み上げ、成長戦略を明確に示すことが重要だと考えています。

〈昭和時代の思い出/昭和の中で生きている〉

 有地さんが入社したのは昭和62(1987)年。当時の若者は「新人類」と呼ばれ、まさに「ドラマ『不適切にもほどがある!』の世界だった」。まだ入社したばかりの頃、児島の加工場へ納期確認に行くと「まずは飯だ」と社長に誘われ、酒を飲まされることも。そうした中で仕事を通じて信頼を築き、「あの頃、社会人としてのベースを教わった」と語る有地さん。当時の気持ちは今も変わらず、「ずっと昭和の中で生きている気がする」と笑う。

【略歴】

 ありち・くにひこ 1987年大和紡績入社。2017年ダイワボウホールディングス執行役員経営企画室長兼大和紡績取締役、18年ダイワボウホールディングス取締役兼常務執行役員、19年ダイワボウホールディングス専務兼大和紡績監査役、21年4月から大和紡績社長