2025年春季総合特集(11)/Topインタビュー/シキボウ 社長 尻家 正博 氏/新中計で「稼ぐ力の向上」/グループ連携強化し機会創出
2025年04月22日 (火曜日)
シキボウは今期(2026年3月期)から新中期経営計画をスタートさせる。30年度に向けた成長のための3カ年と位置付け、最終年度となる27年度(28年3月期)には売上高480億円、営業利益25億円、経常利益21億円、純利益14億円を計画。うち繊維事業では売上高256億円、営業利益9億5千万円を見込む。新中計では「成長への変革」を推進しながら、「稼ぐ力の向上に重点を置いて取り組む」と語る尻家正博社長。サステイナブルへの対応力を強化しつつ、新たなビジネスの機会を着実に捉える。
――Gゼロ時代へと突入する中、国内外で強化すべきポイントは。
先行きが不透明な環境において、未来を正確に予測することは困難です。そのため、まずは「やれることをやる」姿勢が重要となります。新中計では、国内外で拠点が整ってきたことから、稼ぐ力の向上に重点を置いて取り組んでいきます。
この3年間は、海外拠点の整備と販売強化に注力してきました。特に中東民族衣装向け輸出は、シキボウのブランド力を生かし、大きく伸ばしています。今後は寝装品といった関連商品の横展開を進めていきます。
サステへの対応力の強化も重要な課題です。生分解性ポリエステル「ビオグランデ」、新内外綿と連携する繊維廃材のアップサイクルシステム「彩生」を活用し、ユニフォーム用途を中心に採用が拡大しています。今後も販売強化に向けた取り組みを加速させます。
――国内では紡績事業の撤退が相次いでいます。シキボウは富山工場(富山市)、グループ会社のナイガイテキスタイル(岐阜県海津市)を合わせて国内最大規模となる約4万錘を保有しています。
国内生産は必要不可欠な存在です。原糸販売は、対中関税の影響で中国から安価な製品が市場に流入し、価格競争が厳しくなっています。しかし、マザー工場を持つ強みを生かし、技術力と開発力の向上に努めます。
――前期は中計の最終年度でした。
上半期(24年4~9月)まではさまざまなコストアップによって利益面での苦戦が続きました。下半期以降も厳しい環境下にありますが、想定通りの推移を見せています。繊維事業の計画では7期ぶりの黒字化を目指しています。
繊維部門では中東輸出が前期比3割の増収となる見通しで、年内までの成約が決まっています。ユニフォーム分野は価格改定が進み、徐々に業績に反映されています。在庫調整もほぼ終わり、企業別注向けの案件も増えています。特に校倉(あぜくら)造り構造の高通気生地「アゼック」の採用が拡大しています。
業務提携するファッションブランド「アンリアレイジ」が、パリの25/26秋冬コレクションでアゼックの構造をヒントに風ではなく光を透過させる新しい使い方を提案し、革新的な発想に驚かされました。大阪・関西万博のNTTのパビリオンへもアンリアレイジと連携し、スタッフユニフォームとして、アゼックを使ったアウターやポロシャツを提供しています。
ニット事業は不採算アイテムの撤退や取引の見直しで利益が改善しつつあります。生活資材事業はリビング分野が低調ですが、リネン分野は工業洗濯に対応した洗濯耐久性の高い顔料プリント「アペニノ」使いが増えています。SDGs(持続可能な開発目標)の観点から長く使える製品への需要が高まっています。
一方で課題は原糸販売。ただ、特殊紡績法による絶妙な毛羽コントロール糸「ふわポップ」といった売れ筋ができつつあり、しっかりと差別化を図っていきます。
――産業材セグメントはいかがですか。
産業資材部門では製紙会社向けのドライヤーカンバス事業が苦戦しています。新型コロナウイルス禍による紙の需要減少に加え、電子化の進展が影響しています。一方でフィルタークロス事業は堅調に推移しています。
機能材料部門では、食品用増粘安定剤の販売が好調です。今年1月には、シキボウ堺(堺市)の新工場が完成し、試運転を開始しました。医薬品レベルの衛生環境を備えた工場で、アレルゲンを含む原材料の取り扱いが可能となり、新商品開発の幅が広がります。
複合材料事業は、航空機用途向け部品で生産調整を受けましたが、回復基調にあります。
不動産・サービスセグメントでは、リネンサプライ事業の工場が一昨年12月から稼働し、順調に業績を伸ばしています。今期は万博需要の増加を期待しています。
――今期から新中計に入ります。
稼ぐ力の向上に力を入れます。繊維部門では中国や台湾、インドネシア、ベトナム、タイにある拠点を通じて海外ビジネスを広げていきます。グループの新内外綿を含め、社内連携も強化し、新たなビジネスの機会を捉えていきます。
産業材セグメントでは、国内トップシェアを誇るカンバスによる事業の維持に加え、中国の敷島工業織物〈無錫〉を通じた海外販売にも力を入れます。段ボール製造向けのコルゲーターベルトでは、基布に繊維層を特殊針でニードリングした「Nドライ」の販売も強化していきます。
――環境配慮の面では廃棄された綿素材を再利用したバイオマスプラスチックペレット「コットレジン」の生産を本格化していきます。
シキボウ江南(愛知県江南市)にバルク生産が可能な設備を設置し、試運転を開始しました。ポリプロピレン樹脂と混合することで物性を向上させ、プラスチック製品の強度を高めることができるため、自動車部品や電化製品、建材などさまざまな用途へ提案できます。現在はサンプルの供給が中心ですが、サステ推進への大きな一歩となり、新たな用途開拓につながることを期待しています。
〈昭和時代の思い出/電話〉
「昭和といえば、電話にまつわる二つのエピソードを思い出す」と尻家さん。大学時代、付き合っていた彼女(現在の夫人)と頻繁に長電話をしていた。ある日、親が高額な電話代の請求書を見て驚き、彼女の存在を知られることに。もう一つは入社して2年目、彼女と待ち合わせをしていたが、仕事の都合で2時間も遅刻。当時は固定電話しかないため連絡の取りようがなかった。それでも彼女は待ってくれていた。「今でも何かあれば、そのことを蒸し返される」(笑)
【略歴】
しりや・まさひろ 1988年シキボウ入社。2018年総務部長、19年執行役員コーポレート部門経営管理部長、20年執行役員コーポレート部門経営戦略部長兼財務経理部長、21年執行役員コーポレート部門財務経理部長、21年6月代表取締役兼社長執行役員、25年6月に代表取締役会長に就任予定