米国・相互関税 影響「読みづらい」
2025年04月10日 (木曜日)
米国のトランプ政権は9日、相互関税の適用を開始した。これに先立ち、5日には全ての国・地域を対象に一律10%の基本関税を発動している。今回は、貿易赤字や非関税障壁の存在する国ごとに追加の上乗せ関税が適用される。日本の繊維業界では「影響が読みづらい」との声が多く、今後の動向を注視する姿勢が強い。
大和紡績の有地邦彦社長は「景気や消費行動にも変化が起きる可能性がある」と話す。同社は実用衣料を中心にインドネシアから対米輸出が多く、前期(2025年3月期)は、「米国市場は在庫調整が終わり急回復していた」。しかし、今回の政策でインドネシアは32%の相互関税が課せられ、堅調だった輸出に水を差す可能性がある。
ただ、「関税の影響はどの国でも避けられず、冷静に動向を見極める必要がある」(大和紡績の有地社長)。さらにインドネシアだけでなく、中国や東南アジア諸国などの輸入品にこれほどの高い関税が課されれば、「米国の衣料品業界も大変なことになる可能性がある」(同)。
米国市場への直接的な販路開拓を進めてきた企業にとっては、今回の関税措置が打撃となる可能性がある。
イ草製品・インテリア、家具製造卸の萩原(岡山県倉敷市)は、米国市場の開拓に注力してきただけに、影響は避けられない。同社は、中国拠点の蘇州萩原弘業藺草で製造した中国産イ草製品を24年8月から米国に輸出し、電子商取引(EC)サイト「アマゾン」で販売してきた。関税発動により、好調だった売れ行きにブレーキがかかる可能性がある。
同社は国産イ草製品の販売にも注力しており、24年12月にアリゾナ州で開催された「テイストオブジャパン」への出展を通じて、認知度の向上を図っていた。今回の措置を受け、今後は販売戦略の見直しを迫られるとの見方を示す。
スタイレム瀧定大阪(大阪市浪速区)も前期(25年1月期)に米国市場向け生地販売を大きく伸ばしたが、今期は「苦戦を強いられる可能性が高い」(瀧隆太社長)との見解を示す。
間接的な影響もじわじわと
繊維産業への直接的な影響は現時点でそれほど大きくないとみられるが、自動車や半導体向けなど、間接的な影響が今後大きく表れる可能性がある。
東洋紡の竹内郁夫社長は「経済原則から考えれば、関税による製品価格上昇が需要減退につながる。インフレと不況が同時進行するスタグフレーションが心配だ。企業経営としては、積極的な投資は控え、手元資金を厚くするなどディフェンシブな姿勢を強めざるを得ない」と話す。
海外での設備投資についても、こういった環境下では、「どこへ資本投下するかの判断が難しくなる」(大和紡績の有地社長)といった声も出てきた。
米国の繊維製品輸入額の約3割を中国が占めており、関税引き上げによる衣料業界への影響は避けられない。関税が比較的低い国からの代替調達を模索する動きが活発化すると見られるが、「最終的にはインフレ率の上昇につながる」(国際繊維工業連盟)との懸念も強まっている。
また、中国などから米国への輸出が停滞すれば、滞留した過剰在庫がアジアなど米国以外の市場に安値で流入する懸念もある。東洋紡せんいの清水栄一社長は「日本の繊維企業は、コモディティー品がますます困難になるのでは。代替の難しい高付加価値品をどれだけ持っているかが問われる」と指摘する。