不織布新書25春(4)/東レ/新たな不織布を開発/滋賀の開発設備活用で
2025年03月31日 (月曜日)
東レは滋賀事業場(滋賀県大津市)に置く独自のスパンボンド不織布(SB)開発設備を活用し、新不織布を開発した。新不織布はポリプロピレンやポリエチレンなどのオレフィン系SB。同社は海外子会社で紙おむつ用を中心にポリプロピレンSBを製造販売するが、国内生産品は紙おむつやマスクの高級ゾーンといった限られた用途への少量販売程度。本格販売は初めてになるだけに国内の不織布生産で一歩、前進したと言える。
〈国産でオレフィン系SB/フラット・かさ高・複合など〉
同社が新開発したのはオレフィン系SB「アートレイ」シリーズ。滋賀事業場に置く独自の開発設備ですでに生産を始めており、4月から本格販売する。アートレイは産業資材向けを中心に、用途に応じた3タイプを揃えており、2026年度には10億円の売り上げを目指す。
アートレイは3タイプとも独自の開発設備を使った技術を活用し、用途に応じて機能を需要家が選択できるのが特徴だ。
アートレイFNはフラット加工を施したポリプロピレンSBで、紙に似た風合いを持つ一方、紙よりも破れにくく(引裂強力は紙の6倍)、紙粉が出ない。耐摩耗性に優れることから、包装材料やメディカル用途に適する。
アートレイHSはかさ高性のあるポリプロピレンSB。高い剛性、高通気性も備える。同社によると、一般的なポリプロピレンSBに比べ、剛性は約5倍、通気量は約3倍で、フィルター基材などの用途を狙う。
アートレイBCは2成分の複合SBだ。接着剤を使わず熱によって接着させるヒートシール性を持つ。芯部がポリエステル、鞘部がポリエチレンからなる芯鞘構造SBであり、ラミネート用基材や包装材料に適する。
オレフィン系SBの中でもポリプロピレンSBはソフトな風合いを生かし、紙おむつを中心とした衛生材料向けに使用される。同社はアジア最大のポリプロピレンSBメーカーであり、日本、韓国、中国、インドネシア、インドにポリプロピレンSB生産拠点を持ち、「リブセン」ブランドで国内外に販売する。
日本は2017年に滋賀事業場に開発設備を新設した。アートレイはこの開発設備で開発、生産する。衛生材料で培った技術や販売ネットワークも駆使しながら、産業用途向けに国内を中心に拡販し、将来的にはニーズに応じて海外展開も視野に入れる。
これまで国内ではポリエステルSB「アクスター」を主力に製造・販売してきた同社。その面で今回のアートレイ開発は国内生産品の幅が広がり、不織布事業がさらに強化されたことになる。
〈ウルトラスエード/幅広い用途で高い評価/自動車、衣料、家具など〉
東レの人工皮革は超極細繊維によるスエード調の「ウルトラスエード」と銀面調の「ウルトラスエードヌー」からなる。衣料から家具、自動車内装材など幅広い用途に使われており、各分野から高い評価を受けている。
〈次世代の車デザイナー支援〉
東レは昨年、中国の電気自動車(EV)メーカー、上海蔚来汽車(NIO)と共同で、中国の中央美術学院において特別授業を開いた。
NIOは2014年設立。17年の車両販売開始以来、全量産車種の天井、ピラー、サンバイザー用途へウルトラスエードを採用する。最新型車、ES8/ES6/EC7/EC6には植物由来の再生資源を粗原料の一部に使用したウルトラスエードの新製品を使用する。
産学連携による同授業は「モノづくりを通じて社会や人々の生活をより豊かに美しくしたい」というビジョンを共にする東レとNIOが共同で若手デザイナーの育成支援を目的に、中央美術学院のデザイン学院プロダクトデザイン学部出行創新専攻2年生11名を対象に行った。
ウルトラスエードやNIO内装デザインについての講義②ウルトラスエードを利用したワークショップと課題中間報告会、③課題最終報告会の3回で構成。講義の中でNIOデザイナーがコンセプト「セカンド・リビング・ルーム」について述べ、シンプルかつ機能的でありながら優美で温かみのある心地良い空間づくりをウルトラスエードを通じて実現したことを紹介した。東レはウルトラスエードの50年以上にわたる歴史や「素材の進化で、まだ見ぬクリエーションを共に。社会をより豊かに、美しく。」というビジョンのもとに開発した様々な製品の情報、今後の素材開発方針などより豊かで美しい人々の生活・社会の実現への貢献とともに時代の要請に基づく環境に配慮したモノづくりについて紹介した。
ワークショップでは、社内で不要となったウルトラスエードの生地サンプルや試作の残反など、廃棄していたサンプルを学生に提供し、自由な発想で切る、貼る、縫う等をしたモノづくりを行ってもらい素材を有効活用する「リユース」で、学生の素材への理解を深める機会を作った形だ。
この取り組みを通じて、学生は専攻するプロダクトデザインを素材という観点から深く考え、素材の特性がクリエーションの幅を広げる、という特別なアプローチを学ぶことができ、EVデザインの第一線で活躍するプロのデザイナーから直接アドバイスを受けることができ「大変有意義で特別な機会となった」との声が寄せられた。
〈スノーピークの雑貨にも〉
アウトドア製品を製造販売するスノーピークはこのほどトートバッグ、ポシェット、パソコンケース、キーケース、ラゲージタグにウルトラスエードを採用した。ウルトラスエードの上質でなめらかな風合いに加え、優れた耐久性、製品にした際の軽量性、イージーケア性が評価された。消費者からは使い込むほどに馴染んでゆく風合いの変化も楽しめるなど好評を得ている。
〈国産材家具にも初採用〉
「日本の木とモノづくりを国内外に発信したい」という想いで家具を製造するモリタインテリア工業(福岡県大木町)の家具ブランド「9×9(クク)」に、ウルトラスエードが初めて採用された。ククは国産材を積極的に活用し、その魅力を発信し森林資源の持続的な循環を目指している。豊かな表情をもつ日本の木と確かな木工技術、しなやかなで品のある手触りとカラー展開をもつウルトラスエードを一体化。何度も触れたくなるような美しく優しいククの世界観を実現した。