学生服特集/学生服の海外生産の行方/国内、海外の住み分け始まる

2002年05月29日 (水曜日)

海外生産/学生服の海外対応始まる/今春都立5校が中国製採用

 学生服業界は国内生産比率が9割以上を占める国産主流の業界であるが、今年から一部で学生服本体の海外生産の活用が始まった。同業界における海外生産の取り扱いアイテムは軽衣料が中心で、業界の海外生産比率は数量ベースで1割前後、金額ベースでは数%程度と推定される。

 すでに業界内ではシャツ・ブラウスの海外生産がかなり進んでおり、男子学生服の替えスラックスや関連商品のニット製品、コート、ウインドブレーカーも海外生産が中心を占めている。しかし、学生服本体の詰襟服やブレザー、スーツなど重衣料のほとんどは国内生産で対応してきた。

 そうした中で今春、吉善商会が東京都内の都立校5校の制服を中国で生産して納品。5校のうち、2校が中国の現地毛紡素材を使用して一貫生産したもの。あとの3校は日本の毛紡素材を使用し、中国で縫製したものだ。同社によると、5校とも品質、納品とも問題なく対応できたという。同社はすでに10年前からニット製品などの関連商品を海外生産対応してきたが、学生服を海外対応して納品するのは初めて。同社は一部の価格要求の強い学校に対して、海外を活用する仕組みで対応したという。

 しかし、学生服の海外対応が現実に始まったことから、海外生産を検討する動きが業界内で高まってきた。学生衣料メーカー最大手の尾崎商事では「海外生産を急激に増やすことはないが、検討を進めている」という。現在、海外生産比率は数量ベースで約1割。「制服の海外生産はいろいろ検討しているが、現状では付属の調達が一番ネックになっている」と話す。小郷産業も「国内縫製は確実に減っている。当社も減っているし、海外縫製は視野に入れていかざるを得ない。来年で海外生産比率は1割ぐらいになる」という。また、大手学生衣料メーカーの瀧本は「シャツ、コートなどを中心に海外生産比率は現状1割もないが、3年後2割をめどに徐々に増やしていく方向」で取り組んでいる。

 また、学生服分野で海外縫製の提案を推し進める住金物産では「学生服もまちがなく海外生産が増える傾向にある」と強調する。すでにインターネットでCAD/ACMのデータを中国に送れるし、追加生産や別寸対応も関東地区であれば1カ月で対応できるという。同社は海外生産で学生服の全アイテムに対応できる準備がすでにできたとし、これからアパレル対応を前提に得意先の要望があればいくらでも対応する意向だ。

 さらに、素材メーカー段階では帝人が中国・南通を活用した学生服素材の夏用のポリエステル100%トロピカルと冬用のポリエステル100%カシドスを今年から一部で提案している。来年から日系素材メーカーの現地素材による中国で製品化された学生服が登場する見通しだ。

「競争力」の定義/「コスト」以外の要因追求/付加価値やブランド力も

 一橋大学の伊丹敬之教授の著作である『日本の繊維産業 なぜ、これほど弱くなってしまったのか』の中で「競争力」の定義を次のように説明している。

 「買い手との関係で自らの製品を選択せしめる力」。これが競争力の定義とし、それがどういった要因によって決定されるかについて、次の4つの要因を挙げている。「コスト」「技術」「時間」「消費者訴求力」の4つで、「コスト」とは買い手が払う価格を決める要因。「技術」は非価格競争力の根幹をなすもので、価格競争力が小さくなっても、新素材や品質の高さが競争力を高めてくれる。「時間」は買い手の手元に商品が実際に届くまでの時間の速さで、ファッション性の強い繊維産業ではこれが重大な競争力の決め手になる。また、学生服業界では入学式の期日までに納品できるかどうか。これが同業界の競争力でもある。最後に「消費者訴求力」とは、典型的にはブランドやイメージである。

 日本のアパレル業界はこれでまで「コスト」要因に目を奪われ、海外生産に走りすぎたきらいがある。しかし、「コスト」以外に「技術」「時間」「消費者訴求力」という要因の追求が日本のアパレル業界の中では弱かったのも確かである。まだ学生服業界は一般アパレルに比べて、かなりの国内生産を維持してきた業界である。しかし、その業界にもデフレスパイラルの影響がここに来てじわじわ出てきた。急激な海外シフトより、やはり国内に生産基盤を残しながら、いかに中国との住み分けを図っていくか。ここ2、3年が学生服業界の大きな正念場である。また、高付加価値製品をじっくり売っていくことも大切だろう。

住金物産の喜来孝介ユニフォーム部スクール衣料課長・喜来孝介氏に聞く

<海外対応は増加基調>

重衣料の海外対応が増える

関東地区では1カ月で対応

 ここ5、6年は減収で推移してきたが、今入学商戦で減収に歯止めがかかった。ただ、テキスタイルの販売は相変わらず減少しており、製品対応が増えてきたことでプラスになった。

 製品対応は国内縫製を含めて、スクール衣料課の扱いでは25%ぐらいになるが、このところ重衣料関係の海外対応が増加している。製品対応のうち、海外対応が4分の1ぐらいになる。今後は海外製品を含めた製品化の対応を強化する意向だ。しかし、安く作って安く販売するという考えではなく、中国も生産基地の1つとしてとらえている。また、海外対応はあくまでアパレルと対応することを前提に考えている。

 学生服の海外対応もここに来て全アイテムに対応できる準備が整ってきた。すでにIT技術の進歩で確実に中国との距離も縮まっている。追加フォローや別寸対応も関東地区であれば1カ月で対応できる状態にある。学生服の海外生産も今後増える傾向にあり、アパレルからの要望があれば、国内の素材メーカーと取り組む形でいくらでも対応していきたい。当面学生服業界の海外対応も3割ぐらいまでくるのではないかと思う。

海外生産の取り組み/吉善商会専務・吉村善和氏に聞く

<例外なく制服も2極化時代/日本、中国使い分けが重要>

 一般市場では当たり前のこととなっている2極化現象だが、学生服市場にもその影響が強く及んでいる。

 当然ことながら学生服でも2極化に対応することは必要なことで、「学生服だけは特殊」といった論理は一般には通じない。ただそういった中でも、「メード・イン・ジャパン」でも堅守できるところがあるはずだ。確かに安定供給などの面で「ジャパン」の方がいいのだが、低価格志向への今の時流は否定できない。

 都立校などでの入札制度導入で、価格競争が激化している。このことで更なる価格崩壊を懸念する向きが多いが、それはこれまでのシステム・商品をそのままに対応しているためだ。単に価格だけを大幅に下げるという行為は、自らの首を絞めることになる。

 現状の入札制度のやり方自体には疑問はあるものの、価格ニーズに対応できるシステム・ノウハウを新たに構築して、その流れに対応することが必要だ。その対応策の1つが海外生産となる。周辺商品に関して当社では10年前から中国生産を手掛けている。入札によって同じ物が半額になるとそれは価格崩壊となる。しかし、新たなシステム構築や中国対応で価格を下げるという行為は、極めてリーズナブルなこととなる。

 私学がベースとなる当社としては、基本的スタンスは国内にある。ただ低価格を強く要望する入札ケースでのみ、中国で対応する。今春、都立校で入札によって獲得した新規校は5校あり、初めて中国で対応した。だからといって、品質・納期には何ら支障はなかった。日本と中国を使い分けることが、2極化時代には重要となる。