特集 メディカル・介護ウエア2025(1)/コスト増乗り越え需要創出/商況見通しに明るさ

2025年03月26日 (水曜日)

 本紙はこのほど、主要メディカル・介護ウエアメーカー20社・事業部を対象に、商況見通しや経営課題などについて取材とアンケートを実施した。原材料費や人件費、為替をはじめとする種々のコストアップによる負担は増しているが、新たな需要創出を図るためのウエア開発は盛んだ。

 2025年度の商況見通しについてのアンケート結果は、「増収」9社、「前年並み」6社、「大幅増収(前期比10%以上)」3社、「その他」「分からない」各1社となった。増収と大幅増収で過半数となり、減収予測がないことから、商況見通しとしては明るさが感じられていると言って良いだろう。実際、「病院向け患者衣が好調」(トンボ)、「昨年は悪かったが、今年は受注件数が回復傾向」(ミドリ安全)、「BtoB展開の強化で1月までの売り上げ実績でメディカルが前期比10%増、介護同9%増伸びている。25年度も同様の施策を推進していく」(ナースステージアンファミエ事業部)など、好調な事業環境がうかがえる。

 一方で、超高齢化を背景に中長期的には緩やかな成長が続くと予想されるメディカル・介護ウエア市場だが、足元では取り巻く環境の変化に伴う課題が山積している。エンドユーザーの購買原資に大幅な増額が見込めない状況もその一つだ。物価高による薬剤、医療材料の急騰や、24年度の診療、介護報酬改定を経て賃上げを優先する傾向が強まっていることなど、その影響がじわりと病院、介護施設経営に負担としてのしかかってきている。

 そのような状況下でユニフォームメーカーはシェア拡大策を図ることになる。中でも戦略上最も重要な価格改定については、値上げ幅の大きさによって買い控えや買い替えサイクルの延長につながる可能性が高くなるため、転嫁率を抑えた値上げや据え置きで対処する慎重な姿勢が目立つ。増収は確保できたものの、コストを全て転嫁できずに利益が圧迫され続ける状況は、業界の健全な発展のためにも好ましくない。引き続き注視していく必要がある。

〈裾野拡大へEC強化〉

 メディカル・介護ウエア事業で強化していくべき分野についての設問では13社が電子商取引(EC)の活用を挙げた。ECを軸にした戦略は多様化しており、ユニフォームEC大手ユニフォームネクストの24年12月期決算(非連結)売上高は、前期比12・6%増の83億9300万円と大幅な伸びを記録。けん引役となった電動ファン(EF)付きウエアの売り上げ増が注目される一方で、医療向け分野においては自社専売のスクラブを展開するなど新たな顧客開拓策に着手している。

 また、ベルーナグループで看護師向け通販事業を展開するナースステージ(大阪市西区)の25年3月期決算は、売上高113億円、営業利益3億8千万円で前期比微増収微増益の見通し。過去1年以内に同社製品の購入実績があるアクティブ会員登録数は、「アンファミエ」「ナースリー」の主力2ブランド合わせて80万人・社に達しており、EC化率のさらなる向上と収益性の改善に取り組んでいる最中だ。

 このうちアンファミエ事業部の通販カタログ冊子は想定するレスポンスに応じて年3回各50~90万部発行。印刷、発送コストが重荷になる中、ECへの円滑な移行を探っており、現在のEC化率60%をさらに引き上げていく方針。ナースリー事業部はEC化率を71%にまで高めており、伸び代のある介護分野のEC商品拡充を検討中。カタログ冊子は年3回各45~60万部を発行している。

 住商モンブランは、EC専用で販売してきたコスメティックメーカーuka(東京都港区)によるスクラブシリーズが想定以上に好評のため、新たにカタログ定番商品「ウカ メディカルユニフォームスタディ」として拡大展開する。

 ヤギコーポレーションは、EC販売が好調な「ビームス メディカル」ブランドが大幅増収となる見通しであることからさらなるEC強化を図る方針。

 「病院・介護施設との関係構築」が次ぐ11社となった。BtoCを展開するメーカーも含めて、病院・介護施設との直接的あるいは販売代理店との協業を通したパイプ作りは今後さらに重要性が増してくる。

 ネットを利用した医療関連サービスの提供を行うエムスリーは昨秋、患者衣、タオルなどを含む入院セットレンタル大手、エランを連結子会社化した。一番の目的は、エムスリーが構築した約6千件の医療機関とのネットワークと、エランが持つ年間延べ約500万人の患者接点によるクロスセルシナジーだ。新規事業開発や入院セットの付加価値向上、海外展開サポートの連携といった取り組みも計画しており、医療関係機関向けサービスを一元的に網羅していこうとする動きを見せる。そのネットワークを生かしてユニフォーム事業を拡大していく可能性も十分あり得るだろう。

 ユニフォームメーカー側もさまざまな方策を講じている様子がうかがえる。「法人受注拡大に向けて、施設との関係を強化するためサンプル貸し出しなど一般消費者向けとは差別化した対応を準備している」(ナースステージナースリー事業部)、「ダイレクト営業を強化して説得力のある商品開発に努める」(ヤギコーポレーション)、「学会などに積極的に参加し、営業拠点をベースにした案件の掘り起こしを行っている」(明石スクールユニフォームカンパニー)、「販売代理店とタイアップして、より多くの介護施設にコンタクトできるよう販売促進している」(ボンマックス)、「販路強化に注力するとともに別注サービスの認知度を高める取り組みを予定」(シーユーピー)。

 大口納入先にもなり得る「リネンサプライヤーとの関係構築」は8社。同業界もエネルギー費高騰と人材不足に苦しんでおり、病院・介護施設などと同様にコスト管理に厳しい姿勢を見せている。そのため、ECによる空中戦だけでなく、ユーザーとの密なつながりを構築していくことも重要となってくる。限られた購入原資の中からユニフォームの予算を確保するためには、両面で展開していかなければならないのが実情だ。

 ここ数年、サステイナビリティーへの取り組みを重視するメーカーが多い傾向が見られたが今回は4社にとどまった。ワークウエア業界などと比較するとエンドユーザーである病院・介護施設がユニフォームを通じたサステ活動にまだ積極的でないということが大きな要因とみられる。ただ、環境配慮素材採用品やメーカー自体のサステ活動を重視するユーザーが着実に増えてきていることだけは間違いない。資源循環に向けた旧ユニフォームの回収サービスなども徐々に受け入れられ始めている。

 クラシコは、デジタル技術とファッションの融合を目指すSynflux(同中央区)と型紙設計を最適化するプロジェクトによるサステ活動に着手した。ウエアの3Dデータを元に最適な型紙配置を人工知能(AI)で計算する。生地の無駄を極限まで減らすことで従来比約9~10%の廃棄量の低減を見込む。縫製箇所が増えないことから作業工数や電力消費の抑制効果も期待できると言う。

〈生産コスト高が足かせ〉

 メディカル・介護ウエア事業が成長していくためには今何が課題となっているのかの設問では、「生産コストの高騰」が13社で最も多く、次いで「価格競争の激化」9社だ。生産コストの増加分を価格転嫁していくには、エンドユーザーの理解を得るだけではなく、常に他社との価格競争にさらされている現状にも対応しなくてはならない。値上げもできず利益圧迫も続くという負の連鎖を断ち切るきっかけが必要だ。

 現状の打開策としてメディカルウエア、介護ウエアのコア商品を軸に、手術衣や患者衣、被介護・在宅療養者向けウエアといった周辺領域に広げていくケースがある。「従来の病院施設だけでなく、美容系医療施設の開拓と価格競争に対応した戦略品の展開」(KAZEN WLD)、「現場からは安価な製品を求める声が根強いが、そういった声を覆せるような高付加価値商品の開発が課題」(ヤギコーポレーション)。

 このほか、協業ネットワークを多方面に展開する動きが見られる。クラシコ(東京都港区)はこのほど、MNインターファッションと資本業務提携を締結した。市場の裾野を広げていくために東南アジア市場をはじめとするグローバル化の加速を目指すとともに、国内市場において企画開発から生産、物流など商品供給全般で協業を進め効率化を図る考えだ。

 リネンサプライ業大手のワタキューセイモア(京都府井手町)は、クラボウのアップサイクルシステム「ループラス」を活用したサステ活動を進める。

 自社の患者衣の製造過程で発生する裁断片を反毛、紡績、縫製し、新たな患者衣に再生する仕組みを構築。25年は試験的に3千着強の生産計画を立てている。

〈複雑化する事業環境〉

 メディカル・介護ウエア業界を取り巻く種々の問題は年々複雑さを増し続ける。原燃料の高騰や人件費上昇、為替といった事象がそれぞれ複雑に絡み合いながらさらには価格転嫁、輸送コスト、消費意欲にまで影響を及ぼす。課題整理が一筋縄ではいかない中、特に注視している動向と対応についての設問では、「原材料、輸送費の高止まり」「病院・介護施設の経営状況」が各12社、「為替レートの急変動」「値上げによる販売への影響」各11社がそれぞれ上位を占めた。

 能動的な動きとしては以下の事例が挙がった。「生産に関わる外部環境は今後も厳しさが続くことが予想される中、生産背景の見直しや商流の改善を検討する」(ナースステージアンファミエ事業部)、「付属品などを安価なものに変更し、トータルで原料を抑える工夫をしている。縫製料金は工場と協議して一度の生産枚数を多くするなどで対応している」(レピウス)、「医療従事者の待遇改善に向けたニーズに対応したマーケットインの商品開発、サービスの強化」(住商モンブラン)、「ベトナムでの海外一貫生産への移行」(明石スクールユニフォームカンパニー)、「生産地変更や閑散期生産などでコスト対策を行っている」(オンワードコーポレートデザイン)。

〈アンケート協力企業〉

アイトス、明石スクールユニフォームカンパニー、オンワードコーポレートデザイン、KAZEN WLD、カーシーカシマ、クラシコ、サーヴォ、三光白衣、シーユーピー、住商モンブラン、トンボ、ナガイレーベン、ナースステージアンファミエ事業部、同ナースリー事業部、フォーク、プロフェッサーズラウンド、ボンマックス、ミドリ安全、ヤギコーポレーション、レピウス(五十音順)