アクリル繊維“起死回生の一手”か/マスバランス方式を導入/環境配慮原料で量産可能に
2025年03月24日 (月曜日)
三大合繊で最も厳しい状況にあるとされるアクリル繊維。他素材との競合に加え、近年は環境負荷低減の取り組みの難しさから“需要消滅”の可能性すらささやかれる。こうした状況を打開するためマスバランス方式導入による環境配慮原料の本格導入が始まる。“起死回生の一手”となるか。(宇治光洋)
日本化学繊維協会(化繊協会)によると、アクリル繊維の国内生産は2001年に年間36万9千トンあったものが、24年には7万6千トンまで縮小している。他の主要合繊と同様に海外品との競争激化が国内生産縮小の最大の要因だが、アクリル繊維の場合は世界的に需要自体が減少していることが無視できない。
やはり化繊協会のまとめによると世界のアクリル繊維生産量も10年に194万トンあったものが、23年は125万トンまで減少した。同時期にナイロン繊維とポリエステル繊維はいずれも生産量が増加しているのと対照的だ。
背景にはポリエステル繊維など他の合繊にシェアを奪われたことがある。衣料用途だけでなく、かつてアクリル繊維の牙城だった毛布や縫いぐるみの側などは、いまやポリエステル繊維が大部分を占める。アクリル繊維は価格競争力で劣後する上にポリエステル繊維が高性能化したためだ。
さらに近年、環境配慮の面からもアクリル繊維は苦境に立つ。ポリエステル繊維やナイロン繊維はリサイクル原料の活用が加速し、バイオマス由来原料の開発も進む。一方、アクリル繊維はリサイクルに必要な単一素材の廃棄物が乏しいことや物質特性上、リサイクルのハードルが高い。
現在、グローバルアパレルやSPAはライフサイクルアセスメント(LCA)評価値や温室効果ガス(GHG)排出量の削減を企業目標として設定しており、目標達成のために素材選定するケースが増えている。あるアクリル繊維メーカーの関係者は「取引先から『環境負荷低減の仕組みができなければ、将来的にアクリル繊維の使用を全面的に止める可能性もある』とはっきり言われた」と、“需要消滅”への危機感を募らせる。
こうした状況を打開する手法として注目されるのが、製品の製造・加工・流通工程でバイオマス由来や廃棄プラスチック由来などの特性を持った原料と通常原料を混合使用した際に、特性を持った原料の投入量に応じて製品の一部に特性を割り当てるマスバランス方式だ。例えば、廃棄プラスチック由来原料20%と石油由来原料80%でアクリル繊維を製造した場合、生産量の20%を廃棄プラスチック由来アクリル繊維として販売できる。
東レはバイオマス由来や廃棄プラスチック由来特性をマスバランス方式で割り当てたアクリル短繊維「トレロン」の量産を4月から開始する。これにより環境配慮原料によるアクリル繊維を市場投入することが可能になった。
東レが先陣を切ったことで、今後は他の日本のアクリル繊維メーカーの動きも要注目だろう。アクリル繊維の“需要消滅”を回避する“起死回生の一手”となることが期待される。