特集 アジアの繊維産業(9)/ベトナム/中国からの生産シフト続く/日系各社の業績堅調

2025年03月19日 (水曜日)

 ベトナムの日系各社の業績は堅調だ。日本のブランドなどが、中国からベトナムに生産シフトしていることが追い風になっている。これまでの日本向けに加え、ベトナム内販と第三国向けの拡大を目指す動きが活発になってきた。(ホーチミン=岩下祐一)

〈地場ブランド開拓にアクセル/プロミネント〈ベトナム〉〉

 伊藤忠商事のベトナム法人、プロミネント〈ベトナム〉が、地場ブランド向けの販売拡大にアクセルを踏む。内販を進める体制が整ってきたことから、新規顧客の開拓を積極化する。

 2025年3月期業績は、前期に比べ2割増益の見通しだ。地場ブランド向けの製品と、生地の販売を手掛ける内販が大きく伸びる。

 内販では、伊藤忠商事グループが資本・業務提携する地場大手ブランド企業のコーウィルとの取り組みを中心に手掛けている。同社向けの今期の売り上げは、前期比倍増となる。

 内販ではこれまで、与信リスクを回避するため、売り先を厳選してきたが、与信管理を含め、「内販を進める体制が整ってきたことから、来期は新規顧客の開拓を本格化する」と高藤康晴社長は説明する。経営が健全とみられる数社の地場ブランドに絞って、取り組みを始める。

 地場の生地コンバーター向けの生地内販も拡大する。同社にはR&D(研究開発)センターがあり、編み物と織物のさまざまな生地を開発している。

〈トーレ・インターナショナル・ベトナム/縫製工場向け生地販売好調〉

 東レインターナショナルのベトナム法人、トーレ・インターナショナル・ベトナム(略称TIVN)の2025年3月期業績は、前期に比べ増益になるもようだ。主力の生地コンバーティング事業が貢献する。もう一つの柱の縫製事業も自社工場のフル生産が続く。

 生地コンバーティング事業では、地場の中国や台湾、韓国系工場が生産する織物と編み物を、日本や欧米向けの縫製工場に販売。「生産管理だけでなく、開発機能と品質管理能力もさらに磨いていきたい」と宮前和哉社長は述べる。

 縫製事業は、日本と欧米向けの製品を手掛ける。自社工場のTIVNクアンガイ工場と協力工場で生産している。

 22年に同国中部のクアンガイ省で立ち上げたTIVNクアンガイ工場では、織物製のスポーツ・アウトドアウエアを中心に生産。工員数は現在、700人弱だ。24年から安定稼働し、フル生産が続いている。

 同工場をマザー機能工場と位置付け、そこで確立した生産ノウハウなどを今後、協力工場に共有していこうとしている。

〈地産地消比率が9割に/島田商事ベトナム〉

 副資材大手、島田商事のベトナム法人、島田商事ベトナムの地産地消比率が、9割に達している。今年はグローバルで通用する商品の現地開発を加速し、日本向けを深耕しながら欧米向けの開拓を進める。

 2024年業績は好調を維持し、目標を達成した。中国からベトナムへの縫製シフトが続いていることが追い風になっている。

 現地で生産し、現地で販売する地産地消の比率は、新型コロナウイルス禍が落ち着いた23年以降に高まった。「中国系などの工場進出が増え、仕入れ先が順調に広がった」と、阪上啓社長は説明する。

 仕入れ先は中国や台湾系など各国の協力工場と、開発の戦略的パートナーと位置付けるグループ工場のベトナム・トリム・マニュファクチャリング(VTM)だ。

 売り先の縫製工場の地域別構成比は、南部5割、北部3割、中部2割。新規顧客は北部が中心となっている。北部で大型工場の新設が続いていることが背景だ。

 今年も日本向けとともに、欧米向けの開拓に力を入れる。そのために、現地での開発を強化していく。

〈24年は生地販売けん引/豊島ベトナム〉

 豊島のベトナム法人、豊島ベトナムの2024年業績は、前年比で増収となった。地場縫製工場や日本向けなどの生地販売がけん引した。今年は、生地のアップグレードに取り組み、競合する中国品とのすみ分けを進める。

 同社は糸・生地の素材販売事業と、日本向けが中心の製品OEM/ODM事業の二つを展開する。それぞれの売り上げ比率は、素材販売7、製品OEM/ODM3だ。

 素材事業は24年、織物と編み物の販売が順調で、増収に貢献した。ただし、中国品との価格と納期を巡る競争が激しく、「中国品と競合しない商流作りが課題だ。素材の差別化も重要になっている」と、稲森佳太社長は述べる。そのため、機能性素材の現地開発などに力を入れていく。一方、中国系工場は仕入れ先として重要であるため、情報収集に努め、優良企業と関係構築を図っていく。

 製品OEM/ODM事業も、織物製、編み物製ともに健闘した。米中対立を背景に、米国向けの中国縫製がベトナムにシフトしているため、協力工場のスペースを前倒しで押さえるように努めている。

〈24年は過去最高益更新/STXベトナム〉

 STXのベトナム法人、STXベトナムの2024年業績は過去最高益を更新した。ベトナム南部のロンアン省にある自社工場、SFLでの生産拡大がけん引した。今年は自社工場のさらなる拡充などに取り組む。

 同社は日本向けの製品を手掛け、大部分を直貿で受託する。生産背景は自社工場と協力工場で、自社工場生産が売り上げ全体の半数以上を占める。自社工場はオールアイテムを生産するSGS(ホーチミン)と、ボトムス専門のSGH(中部のダナン)、レディース中・軽衣料のSFLの三つある。

 SFLは元々ホーチミンにあったが、人出が豊富でコストを低減できるロンアン省に23年に移設。24年はフル稼働が続き、業績向上に寄与した。

 今年も日本の顧客のベトナムへの生産移管が続き、好調を維持する見通しだ。ただし、米中対立を背景に中国から生産シフトが続き、ベトナム全体のキャパシティーはひっ迫しつつある。そのため、自社工場の拡充と、協力工場との関係強化に力を入れていく。課題とする第三国向けの開拓も模索していく。

〈クラボウ・ベトナム/内販や第三国向け拡大へ〉

 クラボウのベトナム法人、クラボウ・ベトナムの2024年売り上げは、ベトナム内販の進捗(しんちょく)の遅れで計画をやや下回った。今年は引き続き、ベトナム内販や第三国向けなど、オウンビジネスの拡大に傾注する。

 同社は、タイ・クラボウが紡績・織布・加工の一貫体制で生産する差別化織物と地場縫製工場をつないだ製品ビジネスや、クラボウ独自の技術を使った地場協力工場での織物生産などを展開する。

 今年はベトナム内販の拡大のため、タイ・クラボウなどのグループ会社で生産する素材の提案を加速する。地場の協力工場工場のさらなる活用のほか、日本本社、タイ・クラボウ、クマテックス(インドネシア)などのグループとの連携による商品開発力と提案力の強化も進めていく。

 ここ数年、中国からの安価な糸、生地の流入が続き、紡績や合繊の地場メーカーに影響が出ている。こうした中、商品開発や素材の安定調達がカギになっているため、取引先との情報共有にも力を入れていく。

〈シキボウベトナム/糸の備蓄販売の体制固めへ〉

 シキボウのベトナム法人、シキボウベトナムの設立初年度は、順調だった。糸から一貫で手掛ける日本向け製品の販売などを拡大した。今年は、日本と地場で生産する糸の備蓄販売の基礎固めに取り組む。

 シキボウは2024年1月、駐在員事務所を法人化する形で、同社を設立した。ミッションは、日本と地場で生産する糸と生地、製品のベトナム内販と第三国、日本向けの販売拡大だ。24年の商材別売り上げ比率は、糸15%、生地5%、製品80%となった。

 中でも力を入れるのが、現地で備蓄するベトナム製と日本製の糸の販売だ。24年1月にベトナム製、同年11月に日本製の販売に乗り出した。

 現在は、綿100%を中心にベトナム製と日本製を計10品番展開している。

 2月末にホーチミンで開かれた展示会「VIATT2025」に出展した際は、「地場ブランドが想定以上に差別化を求めていることが分かった」(藤井靖之社長)。こうした地場ブランドをはじめ、日本、欧米の全方位で糸販売を今後拡大していく。