特集 アジアの繊維産業(5)/タイ/複合紡糸で高付加価値化/産資はDX推進で競争力強化

2025年03月19日 (水曜日)

 タイ東レグループは、開発型拠点への転換に引き続き取り組む。新たに複合紡糸設備も導入したほか、自動車用原糸・基布はデジタル技術を活用した品質・生産効率改善などデジタル技術で企業を変革するDXを推進することでさらなる競争力強化を目指す。

 2024年度(25年3月期)は、合繊糸製造のタイ・トーレ・シンセティクス(TTS)と紡織加工のトーレ・テキスタイルズ〈タイランド〉(TTT)ともに売上高こそ微減ながら、事業利益は前年度を上回る水準で推移している。これまで推進してきた生産・販売品種の高度化が利益率の向上につながった。

 TTSは、低調だった衣料用ポリエステル長繊維が回復しつつある。複合加工糸など高付加価値糸の拡販で成果が上がってきた。また、産業資材用途は自動車用原糸が好調。製造工程での自動モニタリングや品質の日次管理を導入し、基布製造のTTTとデータ連携するなどDXを進めたことで品質の向上と安定性が高まり、コスト競争力が高まった。一方、一般資材向けと衣料用のナイロン長繊維は市況低迷が続く。それでも黒字は確保している。

 TTTも自動車用途の好調が続く。自動車用コード資材用途も計画通りに推移するなど堅調だ。一方、衣料用途は厳しい市況が続いている。特にポリエステル・綿混織物は中国品などとの競争が激化し、ポリエステル短繊維織物も力を入れる中東向けが政情悪化の影響で勢いが鈍化した。ポリエステル長繊維織物はスポーツ・アウトドア向けが上半期は好調だった。風合い加工や高次加工の導入などで商品の高度化を進めたことが成果を上げつつある。

 25年度も引き続き事業の高度化を推進する。その一環として、TTSに複合紡糸設備を導入し、準備が始まった。これを生かし、高付加価値糸のグローバル販売を進める。産資分野は自動車用途原糸の拡大を進める。基布製造を担うTTTとデジタルデータ連携をさらに進めることで競争力を一段と高める。

 TTTも衣料用途はTTSの高付加価値糸を使ったポリエステル長繊維織物やニット生地に力を入れる。トーレ・インターナショナル・トレーディング〈タイランド〉(TITH)とも連携を深め、最終製品を見据えた生地開発・提案で欧米カジュアルブランドへの提案も進めるなどサプライチェーンの延伸に取り組む。ポリエステル短繊維織物も風合い加工などで高付加価値化を推進する。産資用途は自動車用基布に加えて、自動車用コード資材も増産し、販売拡大を目指す。

〈在タイ国東レ代表トーレ・インダストリーズ〈タイランド〉社長兼セルロシック・バイオマス・テクノロジー社長 木村 将弘 氏/開発型拠点の役割強める〉

 タイ東レグループは現在、生産品種の高度化を進めており、そのために複合紡糸設備を新規導入するなど投資も実施してきました。今後は開発拠点としての役割を強めることになります。衣料用途は複合紡糸や高次加工の活用を拡大し、さらにTTS、TTT、TITHの連携を深めることで繊維事業の拡大を進めます。

 また、セルロシック・バイオマス・テクノロジー(CBT)では非可食バイオマスナイロン原料の開発に取り組んでおり、試作も始まりました。これからモビリティーと衣料それぞれの用途でサンプルワークを始めます。現在はリサイクル原料の需要が高まっていますが、次はバイオマス原料の需要が本格化するでしょう。2027年ごろの実用化を目指しています。

 近年、繊維産業は革新的な新素材の登場が少ないことで悩んでいる面があります。そうした中、タイでも開発型の高付加価値素材を生産できることの利点は大きいはずです。タイの注目を再び高めることを目指します。