特集 アジアの繊維産業(3)/インド/高い成長率で存在感/繊維企業の市場開拓進む
2025年03月19日 (水曜日)
インドの存在感が高まっている。製造業や建設業などに支えられ、実質GDP(国内総生産)は高い成長率を維持し、国際通貨基金(IMF)は2025年度の成長率を6・5%と予想する。日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査では、同国に進出する日系企業の多くが事業拡大に意欲的で、繊維関連企業による市場開拓も進展を見せる。
インドのGDP成長率は、新型コロナウイルス禍の2020年は41年ぶりにマイナス成長(5・8%減)となったが、21年は9・7%増でV字回復を果たす。以降も堅調な推移を見せ、GDPは日本に次ぐ世界第5位。25年には日本を抜いて第4位に、27~28年には3位になると予想されている。
成長は人口の増加が支えている。22年で14億2千万人(中国は14億3千万人)、50年には16億7千万人(同13億1千万人)に達する。一家で1台の自動車を保有する上位中間層と富裕者層も拡大する。上位中間層の割合は、20年の8・2%から30年には28・9%へ、富裕者層は1・4%から10・8%に増える。
同国では、国内製造業の振興を目的に、合計14の重点分野に生産連動型奨励策(PLI)が導入された。繊維製品も対象14分野の重点分野の一つ。対象分野はそれぞれの適格基準を満たせば、新規工場を設立した製造業企業に対し、売上高の増加額などに応じて補助金が支給される。
〈日本の大手も虎視たんたん〉
そんなインドで古くからビジネスを行っているのが旭化成だ。キュプラ繊維「ベンベルグ」の販売を始めたのが1976年で、来年で50年を迎える。この間、経済危機やコロナ禍などの逆風が吹いたこともあったが、1度も途切れることなく、ビジネスが続いていると言う。
同社が直接手掛けていたのかは不明だが、糸売りを始める前からベンベルグの生地はインド国内で出回っていたという。素材の特徴である肌触りの良さや発色性が知られるなど、ベンベルグの糸販売が受け入れられる下地があった。2010年以降に量的拡大を見せ、ベンベルグ事業の屋台骨の一つとなった。
コロナ禍と工場火災の影響もあって供給量は一時的に減少する。現在は回復基調に入っているものの、ビスコースレーヨンなどとの競争もあって24年度の販売は計画に届かない見込み。需要自体は堅調で25年度は、連紡糸の再稼働(26年度)を念頭に置いた施策を進める。
その一環として新規顧客の開拓に力を入れる。民族衣装だけでなく、「洋装にもベンベルグを広げる」(飯高健ベンベルグ第二営業部部長)のが狙いで、現地パートナー数社との連携で複合糸などを作り、織物会社やニット(丸編み、横編み)製造会社に販売する。染色・加工場との連携も深める。
販売は、北西部に位置するグジャラート州の都市で、日本の北陸産地のようなイメージというスーラトがメインになっている。ただ、同国には、桐生や米沢のような先染め織物の産地、丸編み地の産地も存在し、絞り込むことなく、「幅広い産地の企業への販売を志向していく」(飯高部長)としている。
帝人フロンティアのインド法人である帝人フロンティア・インディアは、21年に北部ハリヤーナー州のクルグラムに設立された。ゼロからのスタートだったが、今期(25年3月期)の利益は、前年比3倍に拡大する見込みであるなど、着実な成長を示す。
繊維・衣料製品と産業資材の両方を販売している。このうち繊維・衣料製品について帝人フロンティア・インディアの山本健次社長は「インドは綿花の栽培が世界第2位であるなどコットン大国。われわれのポリエステル素材をいかに浸透させるかが課題でもあった」と話す。
帝人フロンティアグループで、タイの合繊織布・染色加工会社であるタイ・ナムシリ・インターテックスで生産した生地をジャケットやパンツ、シャツ分野に提案。ポリエステル100%の生地で機能性を付与しており、徐々にではあるが、順調に伸びている。
25年度は、タイ・ナムシリ・インターテックスの商材を増やす。現状は生地がメインだが、衣料用の原糸の販売の拡充にも力を入れる方針だ。その中でターゲットとするのはスポーツ分野。インドのスポーツ市場はまだまだ発展途上だが、「ジムに通う人やウオーキング人口が増え、チャンスがある」と捉える。
今年2月にニューデリーで開催されたテキスタイル・アパレル&衣料品生産設備展示会「バーラト・テックス」にも出展した。
一方の産業資材では、工業用綿帆布がスペックインし、動きが出てきたとする。そのほか、燻蒸剤や医薬用途で展開している日本製不織布の販売も伸びてきた。車両用途フィルムなども取り扱っている。
東レは、産業資材・衛生材料用の生地や不織布を自社工場で生産し、販売している。
自動車用エアバッグ基布は、現地のクスンガー社との合弁会社であるToray Kusumgar Advanced Textileで16年から生産し、インド国内のエアバッグ縫製・モジュール生産会社(ティア1)に販売している。
衛生材料用のポリプロピレンスパンボンド不織布は、インド南部のスリシティにある自社工場、Toray Industries〈India〉で20年に生産を開始。現在、インドの紙おむつメーカー各社に提案している。
そのほか、商事会社のToray International India経由で、PPS繊維やポリエステル不織布などの産業資材の輸入販売、衣料用繊維のインドからの輸出、ASEAN地域や韓国の関係会社による衣料用繊維・生地の直販も手掛ける。
今後は、衣料用では生地や縫製などで現地生産に力を入れる計画だ。同時にインドを東レグループにおける原料ソースの一つと捉え、紡績糸などを中心に輸出に力を入れる考えを示す。また、インド標準規格局(BIS)の認証制度の動きにも目を向ける。
衣料品製造卸の小泉アパレル(大阪市中央区)は、インドでの一貫生産・調達体制を生かした国内向け製品供給を増やしている。
伝統的に、綿や麻など天然素材使いの布帛や製品作りに強い産地だったが、近年は合繊系素材や各種捺染、編み地などの供給網も確立が進む。
海原耕司社長は「日本の市場の構造変化に合わせた製品供給に適した環境が整ってきた」と話す。同社が推進する「マンスリーMD」を担う生産地として拡大を図る。
同社の子会社、i.i.i.(アイアイアイ)がインド各地に持つインフラも活用拡大を図る。日本国内のアパレルブランドや大手量販店などがインドの現地企業と直貿を進める際に、信頼性の高い同社の供給網を部分的に提供するなどの柔軟な取り組みも進める。