中東向け生地輸出/年内は成約で堅調続く/円高基調と“完コピ品”に警戒
2025年03月17日 (月曜日)
素材メーカーの中東民族衣装向け生地輸出が拡大している。国内工場の設備を改造、増強し中東向けに振り向けているものの、「年内船積み分まで成約している」としてフル稼働が続く。懸念は円高と、現地で出回り始めた完全なコピー商品、いわゆる“完コピ品”。偽物対策にも本腰を入れる。
(於保佑輔、泉 克典)
中東輸出は2022年から拡大に転じ、これまで好調を維持してきた。東洋紡せんいは「1年先まで成約している」(今道裕久取締役営業本部輸出織物事業部長)として、今期(25年3月期)は前期比2割超の増収を見込む。シキボウも「10月までは生産スペースが埋まっている」(橋本康典繊維営業部長〈衣料素材担当〉)と堅調。今期は3割の増収を想定する。
両社は中東市場でブランド力があり、1ヤード(約0・9メートル)5~7ドル台の高級ゾーンの取り扱いが多い。シキボウではリピート需要に加えて、高級ゾーンの新商品が販売数量を押し上げ、売り上げの4割程度を占めるまで増えた。
一村産業は生産キャパシティーの制約で、出荷数量が23年からほぼ横ばいとしながらも10%超の増収になる見通し。10月まで成約したと言う。東レも20%の増収を見込み、9月出荷分までは成約済み。為替要因と一部の単価アップが増収に寄与した。
自社品に加え、他社品も取り扱う帝人フロンティアも今期は計画通り堅調。先行きも差別化品で来年まで、汎用(はんよう)ゾーンも11月まで成約した。
受注拡大により各社は設備の改造、増強を図っている。東洋紡せんいは庄川工場(富山県射水市)の設備を見直し、中東向け生地の生産性を向上。液流染色機を改造し、対応できる風合いの幅出しも広げた。
シキボウは織布・染色加工子会社のシキボウ江南(愛知県江南市)で整経機の導入やスチーマー、ベーキング機を更新。中東向けの生地生産を1・5倍から2倍まで拡大できるキャパシティーを確保した。
輸出拡大が続くものの、じわじわと進む円高基調に警戒感をにじませる。東洋紡せんいでは、価格転嫁が生産コスト上昇などによる必要分の60%程度にとどまり、「余地のある商品は随時値上げ交渉する」(今道取締役)としているが、円高が進めば交渉が難しくなる。
日本メーカー製の人気を受け、現地で出回る偽物も増えている。これまではブランド名の綴りの一部を変えるなど、見れば偽物と分かる商品が多かった。しかし最近、ブランドのタグやパッケージングまで精巧に複製した完コピ品が出回り始め、「一目では本物との区別が付かなくなっている」(シキボウの橋本繊維営業部長)。
シキボウでは昨年、従来よりも強い警告文を作成し現地で配布した。今後は日本貿易振興機構(ジェトロ)とも協議しながら、シキボウの拠点以外の国から輸入されてきた生地をドバイの税関で差し止めるといった対応策を講じる。
欧米向け“サプライチェーン外し”で、新たな輸出先開拓に躍起の中国企業にとって、中東で確固たる地位を築く日本メーカー製の生地が格好のキャッチアップ目標となっていることも背景にありそうだ。各社の法務担当部署が意見交換を始めており、「共同戦線を張る必要がある」(東洋紡せんいの今道取締役)との認識が強まっている。