繊維ニュース

インドネシアの日系繊維企業/米中摩擦はチャンスか/価格競争過熱の懸念も

2025年03月14日 (金曜日)

 米中間の経済摩擦が新たな商機を生むかもしれない――。インドネシア日系繊維企業からそんな見方が出始めた。米トランプ新政権の通商政策は日系企業にどのような影響を与えるのか。チャンスと見る声もある一方で、「低価格競争が過熱する」「一層、市場は混乱する」といった懸念も出ている。(橋本 学)

 中国が米国の関税率引き上げを回避する手段としてしばしば語られるのは次の二つだ。中国から直接輸出せず、第三国を経由して米国に入れる、あるいは第三国の工場を使って、もしくは第三国に工場を新設し、現地で作って米国に輸出する。実際、第1次トランプ政権の期間中(2017年~21年)、中国国内の人件費高騰と相まって、中国資本の繊維工場がASEANへと進出する勢いが強まった。

 今年1月の第2次トランプ政権発足でインドネシアの日系繊維企業の間では、関税政策が再び引き金となって中国のASEAN諸国への工場移転や中国主導のインドネシアでの新たな対米ビジネスが過熱するのではとの見方が広がっている。

 「サプライチェーンの脱・中国が加速し、ASEAN内の米国向け再輸出にとっては追い風になる可能性はある」(インドネシアの東レグループ)、「米国市場で中国品の販売が困難になることや米国アパレルで中国素材が敬遠されることから、日本の素材販売には追い風になる部分があると想定する。当社のASEAN拠点活用も拡大する可能性がある」(東レインターナショナルインドネシア)、「中国の受け皿はインドネシアやベトナム。現地生産や中国製の生地を保税地区で縫製して縫製品で輸出するケースが増えるだろう。日本企業にも商機はある」(蝶理インドネシア)。

 対中関税引き上げを見越して既に中国企業がインドネシアでの繊維製品の製造量を増やしているとの情報もある。

 「染色工程で中国企業からインドネシア工場への発注が増えている」(東洋紡インドネシア)、「中国企業がインドネシアでの生地の製造体制を強化している。当社としてはこの動きに積極的に関わっていく。例えば、ローカル企業でできないことを当社ならやれるという案件は多いはず」(東海染工グループのTTI)。

 一方で、「貿易摩擦拡大に伴う中国の安価製品のさらなる流入で価格競争が激化する」(東レ)、「今回は中国のみではなく、全世界を対象にした輸入障壁強化の可能性もあるため、今後の米政府の動きを注視する必要がある」(同)、「米国への行き場を失った安価な中国品がインドネシア市場に出回り、市場はさらに混乱する」(シキボウのメルテックス)などと、リスクを指摘する声もある。

 ここ数年、インドネシアの日系繊維企業は、日本の衣料品市況の悪さから、日本向け輸出で精彩を欠き、それ以外の海外向けでは“捨て売り”とも“投げ売り”とも表現される安価な中国品にシェアを奪われ続けている。この状況で誕生した米政権はASEANの繊維ビジネスにどのような影響を与えるのか。一部の日系企業ではこの変化を好機にしようと設備投資に出る動きも出ている。