特集 事業戦略(1)/クラボウ/取締役専務執行役員 繊維事業部長 北畠 篤 氏/突き詰めた付加価値追求/「スマートフィット」売り上げ3倍

2025年03月06日 (木曜日)

 クラボウは今期(2025年3月期)、3カ年の中期経営計画の最終年度となる。「独自技術を活用した高機能素材やサステイナブル素材の販売拡大」「サプライチェーン全体を意識したQR対応と生産性向上」という重点施策に対し、北畠篤取締役は「実績ができつつあり、方向性は間違っていない」と話す。次期中計に向け、独自技術で「突き詰めた付加価値」を追求しながら「クラボウから買う理由」をより明確にしていく。

――第3四半期(24年4~12月)までは減収でしたが、営業損益で黒字を維持しました。中でも糸売りが健闘しています。

 糸売りでは紡績の安城工場(愛知県安城市)を起点とした各産地との取り組みが進んでおり、一つずつ成果が挙がってきました。中でも重点商品の原綿改質の機能綿糸「ネイテック」の販売がかなり伸びています。綿100%でありながらも素材の風合いを損なわず「吸湿発熱」「吸放湿」「消臭」「UV遮蔽」といった機能を付与できます。

 オールシーズンへの提案が可能な点からインナーだけでなく、寝装や靴下、パンツなどのアイテムに広がってきました。

 インドネシア紡織子会社のクラボウ・マヌンガル・テキスタイル(クマテックス)ではネイテック増産のために、奇麗な糸を生産できるコンパクト糸の紡績機を増設しました。現在、フル稼働となっています。

 既存の技術である中空紡績糸「スピンエアー」の技術を掛け合わせた素材開発も進んでいます。現状では糸売りが中心ですが、編みや織り、加工で付加価値をもっと高めていきます。

 糸売りでは対米向けセーター用原糸や、タイ・クラボウでデニム用途の販売も増えています。ブラジルも昨年からずっと堅調です。

――テキスタイルはカジュアル向けが苦戦しています。

 2年前、新型コロナウイルス禍明けにより一気に需要が回復した反動が出ました。カジュアル向けでは製品も減りました。ただ、今が普通だと考えています。一方で中東民族衣装向け生地輸出が伸びています。

 ユニフォーム地は上半期に在庫調整の影響を受けていましたが、下半期から巡航速度に入ってきました。夏の期間が長くなる中で、高通気でストレッチ性のある「ジェットエアー」に、難燃「ブレバノ」や高制電「エレアース」を組み合わせた素材も新たに打ち出し、じわじわと販売を広げています。

――製品では暑熱リスク・体調管理システム「スマートフィット」が堅調です。

 22年4月からユニフォーム部にスマートフィットの事業を移管し、より積極的に営業活動ができる体制となり、売り上げは前期に比べ3倍伸びています。スマートフォンを介さずにデータの送受信ができるスマホレス型ウオッチの販売や、「体力特性」「暑さ特性」など5項目に対し客観的に数値化し分かりやすくなった見える化が、導入のきっかけになっています。大手企業への採用実績も増えています。

 昨年11月にはアシストスーツの「CBW」とともに、国土交通省の新技術情報提供システム「NETIS」に登録されました。認知度を高めながら、さまざまな現場での労働環境の向上に貢献していきます。

――今期は中計の最終年度となります。

 当初掲げていた売上高540億円、営業利益8億円の達成には遠い状況となっています。ただ、「独自技術を活用した高機能素材やサステイナブル素材の販売拡大」「サプライチェーン全体を意識したQR対応と生産性向上」という重点施策に対しては実績ができつつあり、方向性は間違っていないと考えています。だからこそネイテックをはじめ、ブレバノやスマートフィットなど、独自技術が明確な商材にもっと経営資源を集中していかなくてはいけません。より他社にまねされないモノ作りのウエートを高めなければ収益改善は難しくなります。

――独自技術による差別化素材の販売比率を高めていました。

 中計で掲げるKPI(重要業績評価指標)に対しては、ほぼ達成できると思います。米国のトランプ政権による対中関税の引き上げによって中国では経済が低迷する中、同国で生産された安い繊維素材や製品が供給過多となり、日本へも洪水のように押し寄せてくる可能性があります。だからこそ“クラボウから買う理由”をしっかり追求していかなくてはいけません。突き詰めた付加価値をどのようにもっと高めていくか。これが次期中計の課題となってきます。

 独自技術の比率を高めていくためにも、安城工場にテキスタイルイノベーションセンター(TIC)の機能を生かし、技術の掛け合わせも強化していきます。織り、編み、加工、縫製まで含め、QRで開発できるチームも作っていければと考えています。

――設備投資の計画は。

 国内外ともに進めていきます。特に海外拠点はここ数年、収益が安定してきました。タイ・クラボウでは11年に洪水の被害に遭い、設備を入れ替えました。あれから10数年経っていますので、競争力を高めるためにも古い紡機の入れ替えを検討しています。