綿紡績大手/技術を軸に“稼げる”体質へ/海外開拓や差別化素材拡販など
2025年02月18日 (火曜日)
綿紡績大手の多くは、全社の通期(2025年3月期)業績で前期比増益を予想している。半導体業界向けの需要回復などを受け、クラボウや日東紡では各利益段階での過去最高をうかがい、高収益化が進む。一方で、繊維事業は損益改善が進むものの、安定した利益の確保が課題。技術を軸に“稼げる”体質への転換が急務となる。(於保佑輔)
日清紡ホールディングス(HD)の繊維事業の24年12月期業績は、2期ぶりの営業損益の黒字化を果たした。ブラジルの原糸販売が堅調だった一方で、主力のシャツやユニフォームは苦戦した。
今期(25年12月期)は、全社でノンコア領域の事業ポートフォリオの最適化を推進。石井靖二取締役常務執行役員は、事業の「見極め、見切りのステージに入っていく」と話す。「稼げるビジネスに集中する」中で、繊維事業では「技術を軸に見直し、社会に貢献できるか、事業を伸ばせるか見極める」考えだ。
技術で強みを発揮できる市場をしっかり捉えていけるかは今期(25年3月期)、繊維事業で黒字浮上を目指すクラボウやシキボウにとっても大きな課題となる。シキボウは織布・染色加工子会社シキボウ江南(愛知県江南市)の技術力の高さを背景に、中東民族衣装向け生地輸出を拡大。昨年のパリ五輪ではアラブ首長国連邦の選手団ユニフォームに採用されるなど、中東での生地ブランド強化の動きも強めている。
クラボウは、原綿改質の機能綿糸「ネイテック」をはじめ、差別化素材の販売を加速。北畠篤取締役専務執行役員は、差別化素材の販売比率で掲げるKPI(重要業績評価指標)を今期中に「ほぼ達成できる」と話す。来期から始まる次期中期経営計画では、織りや編み、加工、縫製まで含めた「独自技術の掛け合わせ」にも取り組む。
さらに米国が対中関税を引き上げる中、中国から日本市場に対し素材や製品で「供給過多になる」(クラボウの北畠取締役)可能性もある。だからこそ「クラボウから買う理由」となる、独自技術による差別化素材の比率向上が重要性を増してくる。
大和紡績は、ダイワボウHDから独立によって、繊維のみに集中できる事業体制となった。設備投資ではまだ老朽化設備の更新が中心ではあるが、エネルギーコスト削減や製品の高品質化といった副次的効果を期待する。業界動向に左右されない独自性の高い開発力に磨きを掛けながら、数年後のIPO(新規株式上場)を見据える。
富士紡HDや日東紡は、繊維の中でも強みに特化した形になりつつあり、利益率の向上に取り組む。富士紡HDは、生活衣料事業で売り上げの7割以上を占めるインナーの販売に注力。「アングル」では日本製高級肌着として中国富裕層向けに輸出を拡大している。
日東紡の芯地を中心とした繊維分野は、暖冬を警戒したアパレルメーカ―の商品の作り込みが弱く減益基調にある。ただ、商品を「作らなさ過ぎたとの声が聞かれている」(日東紡アドバンテックスの森徹也社長)として、来期には受注が回復し、業績が上向くと予想する。夏の期間が長くなる中、元々「薄手の接着芯地が土俵」であることを強みに商機を捉える。