東レ/抗ウイルス粒子で加工剤/従来比100倍以上の性能
2025年01月31日 (金曜日)
東レはこのほど、2022年に開発した従来比100倍以上の速度でウイルスを不活化する即効性の抗ウイルス粒子を活用し、抗ウイルス性に加えて抗菌性、防カビ性、抗アレル物質性を兼ね備える加工剤(塗剤)を開発した。4月から繊維加工メーカーや日用品メーカーにサンプルを提供し、実用化に向けたマーケティングを開始する。25年度(26年3月期)中の量産・本格販売を目指す。
同社が開発した抗ウイルス粒子は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として麻布大学獣医学部の田原口智士教授と共同研究した成果を応用したもの。酸化セリウム粒子を独自方法で合成・表面処理したもので、ウイルスに対する吸着性と酸化分解機能を持つ。
新型コロナウイルス(SARS―CoV―2デルタ株)を15秒で99・9%以上不活化することを確認した。これは従来の金属系抗ウイルス剤と比べて100倍以上の即効性となる。インフルエンザウイルスとネコカリシウイルス(ノロウイルス代替)に対しても99・99%以上の不活化効果を確認した。
独自の粒子製造技術によって粒径は約30ナノメートルと小さく、水溶液中での分散性も極めて高い。粒子サイズが小さいことで散乱光も小さく、高い透明性を持つことで付与する製品の外観を損ねない。また、酸化セリウムは構造安定性が高いため、銀系や銅系の抗ウイルス加工剤で課題となっている黒ずみ・変色といった経年変化も起こりにくい。
今回、東レはこの抗ウイルス粒子に最適な添加剤を付与することで分散性と素材への固着性に優れる高機能塗剤を開発した。塗材を含侵加工した不織布とテキスタイルを外部機関で試験した結果、抗ウイルス性を損なわずに不織布は抗菌性(大腸菌と黄色ブドウ球菌対象)と防カビ性(クロコウジカビ対象)、テキスタイルは抗アレル物質性(スギ、ダニ対象)も発揮することを確認した。
抗ウイルス粒子が添加剤成分と複合体を形成し、塗膜上で相互作用することで各機能が相乗的に発現した。多機能が必要な加工で一般的な複数薬剤の使用ではなく、1種類の塗剤で複数の機能を発現するため製品の多機能化や加工工程の低コスト化が期待できる。
今後は対象菌・カビ・ウイルス種を広げる開発を進めながら、フィルターやカーテン、衣類、寝具、内装用塗料などに向けて提案し、量産と販売本格化を目指す。
〈ナノテク関連展で複合紡糸技術など紹介〉
東レは、今日31日まで東京ビッグサイトで開催中の国際ナノテクノロジー総合展・技術会議「nano tech2025」に出展している。環境やモビリティーなどをテーマに、複合紡糸技術「ナノデザイン」で生産した素材や抗ウイルス粒子などを展示している。
ナノデザインは、繊維の断面を任意かつ高精度に制御する複合紡糸技術で、この技術を駆使することで従来では表現が難しかった多様な特徴が付与できる。nano tech2025では、高い水滴除去性を持つ撥水(はっすい)ストレッチ織・編み物「デューエイト」を紹介している。
同織・編み物は、サイズの大きい凹凸の上に微細な凹凸を形成したマルチラフネス構造を取り入れ、PFAS(有機フッ素化合物)フリーで高機能化を実現した。生地表面に乗った水滴の下に複雑な空気の層ができるため、水滴が滑らかに転がる。
抗ウイルス粒子では、独自の処方で添加剤を配合した塗剤(加工剤)を展示している。同社の抗ウイルス粒子は、従来比100倍以上の速度でウイルスを不活化するが、塗剤は抗菌性や抗カビ性、高アレル物質性を付与した。同塗剤で加工した不織布製アイソレーションガウンを披露した。多機能塗剤として25年度中に本格販売を開始する予定。
同社製品としては、エアフィルター(空気清浄機、エアコン用)、ユニフォームなどでの応用・展開を検討している。