繊維ニュース

繊維業界・社会に貢献する「TES」へ~企業と消費者つなぐ~

2025年01月30日 (木曜日)

 繊維・ファッション業界における人材の高度化と専門化をサポートする「繊維製品品質管理士」(TES)資格制度。同認定事業を運営する日本衣料管理協会の島﨑恒藏会長は、「TESを通じて時代に即した人材の育成に寄与し、業界の発展、社会の期待に応えていきたい」と語る。

〈時代に即した出題〉

 TES資格者は衣料品をはじめ、敷物、カーテン、寝具寝装品、タオルなど家庭用繊維製品の品質・性能の向上を図るとともに、消費者からクレームが出ないように、製造から販売までさまざまな場面で活躍している。

 2024年末時点で有資格者は8千人を超えた。携わる業種はアパレル、試験・検査、商社・卸、素材メーカー、染色加工、小売り、クリーニング、通信販売、行政、寝装・インテリアなど多岐にわたる。

 資格試験内容は、基礎知識を問う短答式3科目(「繊維に関する一般知識」「家庭用繊維製品の製造と品質に関する知識」「家庭用繊維製品の流通、消費と消費者問題に関する知識」)と、繊維製品の品質管理業務に携わるために必要な識見・応用能力を判定する記述式2科目(「事例」「論文」)から成る。

 1981年のスタート以来、進化する素材や加工技術、多様化する流通・販売形態などを踏まえて試験内容をアップデートしてきた。近年ではSDGs(持続可能な開発目標)、CSR活動などにも対応。水・大気・土壌の地球環境保全はもちろん、労働者の人権保護、ジェンダー平等、社会福祉など幅広い視点で物事を捉え、行動することが求められる中、それらに応じた設問でTESの資質を高める。

 試験範囲が広範に及ぶため、科目ごとの“取りだめ方式”を採用。合格した科目は次年度から3年間有効とし、4年間で全科目合格すればTESに認定される。24年度は1406人が出願し、取りだめ方式を含め266人が全科目に合格・認定された。

〈ジョブ型雇用推進に〉

 認定者を業種別に見ると、「アパレル」「商社・卸」「繊維、糸、織物、編物、不織布」の順で上位を占めた。業務別の上位三つは「営業」「商品企画」ときて、「生産」と「生産管理」が同数で続いた。

 業種別・業務別とも次に「学生」が続いた。24年度から新設した学割制度の影響もあり、増えたようだ。人手不足が続く中、若手人材の確保も期待される。

 繊維・ファッション業界で働く人の中には当然、被服学系の教育を受けていない新卒者や異業種からの転職者も多い。受験者アンケートによると、TESの出願動機は「知識の習得」「上司に勧められて」という回答が圧倒的に多く、「社員教育の一端を担っている面がある」と分析する。昇格・昇給など人事評価に取り入れる企業も少なくない。

 島﨑会長は、「働き方の多様化や市場のグローバル化を背景に、採用前に職務内容を明確にして雇用契約を結ぶ『ジョブ型雇用』が増えつつあり、経団連も導入を提唱している。TESはある意味、繊維・ファッション業界におけるジョブ型雇用の推進につながるだろう」と展望する。

 ジョブ型雇用では、勤続年数や年齢に関係なく給与、待遇が決まるため、自身のスキルアップ次第で良い条件で働ける。一方、企業側は即戦力の獲得、生産性の向上につながりやすい。双方のそうしたメリットを高める上でも「TESの実力を引き上げる」考えだ。

〈合格がスタートライン〉

 TESの実力アップに貢献しているのが「TES会」だ。所属企業や業種・業務の枠を越えたTES同士の連携と、最新情報・知識のアップデートを促す場で、東日本、中部、西日本、北陸、中国の5支部と九州会で構成され、地域ごとに活動。工場見学会やクレーム事例勉強会、品質問題研究会、技術講演会、苦情処理検討会、ライフサイクル研究会、年次大会など活発に展開している。

 「社会動向や技術革新など業界は常に動いている。TES合格はスタートラインに立ったということ。TES会で知識と人脈を広げ、自身のスキルアップ、企業への還元に役立ててほしい」(島﨑会長)と呼び掛ける。

 工場見学会では、古着リサイクル工場やパイル織物工場、染色整理加工場、紡績工場などを視察する。各支部で企画し、TES会員は支部をまたいで参加できる。各地で実施するクリーニング工場見学も同様だ。実際に見て話を聞くことで知識の定着、新情報の効率的な吸収に役立つ。

 クレーム事例勉強会では、デニムパンツの黄変やニットシャツの針穴、カットプルオーバーのタック不良、ダウンジャケットの付属変色、配色ワンピースの洗濯汚染など、実際のクレーム事例について原因を深り、対策を検討する。

 各種勉強会では、「衣料業界と景品表示法~令和5年改正法を中心に~」「繊維製品におけるPFAS(有機フッ素化合物)の規制動向と評価方法」「アパレル製品の評価方法とクレーム事例」「『機能性』や『優良性』を謳う製品の広告表記や根拠確認についての現状と課題~百貨店の取り組みから見えてくるもの~」など多彩な内容で行われた。

 今年度のTES資格試験は7月13日に実施される。ウェブ申請も導入し、気軽に出願できるようにした。今後は、ますます重要になるSDGsに関して世界の動向も見据えながら、体系的に学べる設問やTES会活動を拡充していく方向。企業活動の合理化、消費者利益の保護、企業と消費者の信頼醸成を担うTESを育み、業界、社会に貢献していく。