別冊ユニフォーム春夏25(4)/マーケティング/ブランド力の醸成へ

2025年01月10日 (金曜日)

 インフレ加速によってユニフォームの販売価格が上昇し、価格の安さを追求したビジネスモデルは困難になりつつある。そこで問われるのはブランド力であり、影響力や認知度の高さが企業として成長できるかどうかの鍵を握る。価格以上の価値を持ったブランド力の醸成を目指し、メーカー各社は新たな目線で戦略を練り始めている。

〈独自性突き詰める〉

 ブランド力を高める上で重要となるのが、“独自性”だ。アイズフロンティア(岡山県倉敷市)は、「リミテッド」として特別な刺しゅうなどの2次加工を施した限定品を打ち出し、他ブランドとの同質化を防ぐ。

 Asahicho(広島県府中市)は、異物混入を防ぐため、あえてポケットがないワークウエアを打ち出す。サンエス(同福山市)は、LEDを搭載した高視認性作業服を開発した。電子部門を持つ同社の強みが存分に生かされた商品といえる。

 ある一定の分野に特化して、その分野でのブランド認知度を高める手法も見られる。村上被服(府中市)は、さまざまな規格に適合する難燃作業服を展開する。三愛(倉敷市)は、綿のワークウエアを拡充。価格帯や機能など多面的な選択肢を提供する。細やかな別注に対応する戦略を取るのが中塚被服(福山市)。他社が対応しにくい別注分野で認知度を高めている。

〈環境配慮と安定供給〉

 環境に配慮したワークウエアは大手企業の納入案件で引き合いが強く、社会的責任を果たすイメージの醸成に一役買っている。アルトコーポレーション(東京都千代田区)は、東レの植物由来ポリエステル繊維「エコディアPET」を使ったウエアで、農機具メーカーの大型納入案件を獲得するなど、実績を重ねる。

 環境分野で、“業界のどこよりも早く”取り組むのがアイトス(大阪市中央区)。24秋冬に導入した全アパレル製品でライフスタイル全体の二酸化炭素排出量を表示するカーボンフットプリント(CFP)を25春夏でも継続。環境配慮型素材「ブリングマテリアル」使いのウエア開発をはじめ、「AOZORAプロジェクト」として環境配慮に関連するサービスを総合的に展開する。

 盤石な供給体制もブランディングの一つの手法といえる。安定的な備蓄供給体制を維持することは、販売代理店から強い信頼を得ることにつながる。ジーベック(福山市)は、安定供給を徹底する姿勢で、備蓄販売の要望に応えてきた。既に安定供給という企業イメージを形成しているが、「あくまでこれまでの安定供給の実績が積み上がった結果」とする。ビッグボーン商事(同)は、分散した在庫を集中させることで、備蓄体制を強化する。定番セットアップを売れ筋の品番に絞って備蓄を積み増し、売り逃しを防ぐ。

 これまでにない販路へ認知度を広げることもまた、ブランディングに大切な要素になりつつある。エスケー・プロダクト(同)は、「ゴーアウトジャンボリー」や「国際ガーデン&アウトドアエクスポ」といったアウトドア関連の来場者が多い展示会への出展を通じて、ワークウエア業界以外での認知度向上を目指す。クレヒフク(同)は、農業産地のコミュニティーが開くイベントに参加。農業従事者への認知度を高める。つちや産業(倉敷市)は、運転手向けユニフォームの製造で得た知見を生かして開発した筋肉質な体系の人に向けスーツ「ゴリラスーツ」の販売に着手した。

 同一カテゴリーで複数のブランドを展開することで幅広い層のシェア獲得を目指すメーカーもある。多くのブランドを展開するコーコス信岡(福山市)やクロダルマ(府中市)、桑和(倉敷市)、アタックベース(福山市)といったメーカーがこれに当たる。

 多ブランド戦略の利点としては、市場の変化に柔軟に対応でき、一つのブランドに問題が発生しても他のブランドへの影響が波及しにくいという効果もある。

〈ユニフォームの価値広める〉

 ユニフォームは、さまざまな企業にとって事業活動に欠かせない必需品だ。本来は価格では語れない価値が存在する。業界を挙げてユニフォームの必要性や導入する利点をさらに発信していく必要がある。

 山田辰(大阪市城東区)は、ツナギ服の発信に取り組んできた。ツナギ服の着用メリット、進化などを掲載したパンフレットを通じてツナギ服を着たことがない若い世代に対しても認知してもらうのが狙いとなる。

 対外的なブランディングだけではなく、社内に向けたインナーブランディングも加速している。ワークウエアメーカーでは経営者の世代交代が進んでおり、新たな道しるべとなるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を定める社長も少なくない。

 それぞれ「使命」「理念」「価値観」を指す言葉で、これらを明文化することで会社の価値観や存在意義が明確になり、社員全員が共通意識を持ち業務に取り組める体制を整える目的がある。

 従業員が会社に対して愛着や貢献の意志をより深める従業員エンゲージメントの向上にも寄与する施策で、これにより対外的な顧客エンゲージメントにもつなげる意図がある。