学生服/海外生産に揺れる
2002年05月24日 (金曜日)
学生服業界は国内生産比率が9割以上を占める国産主流の業界であるが、今年から一部で学生服本体の海外生産の活用が始まった。同業界ではすでにシャツ・ブラウスの生産がかなり海外生産に移行しつつあり、男子学生服の替えスラックスや関連商品のコート、ウインドブレーカーも海外生産が中心を占めている。しかし、学生服本体の詰襟服やブレザー、スーツなど重衣料のほとんどは国内生産で対応してきた。
都立5校が中国製採用/模索続く“住み分けの形”
学生服業界における海外生産の取り扱いアイテムは軽衣料が中心で、業界の海外生産比率は数量ベースで1割前後、金額ベースでは数%程度と推定される。
そうした中で今春、吉善商会(東京)が東京都内の都立校5校の制服を中国で生産して納品した。5校のうち、2校が中国の現地毛紡素材を使用して一貫生産したもの。あとの3校は日本の毛紡素材を使用し、中国で縫製したものだ。同社によると、5校とも品質、納品とも問題なく対応できたという。同社はすでに10年前からニット製品などの関連商品を海外生産対応してきたが、学生服を海外対応して納品するのは初めて。同社は一部の価格要求の強い学校に対して、海外を活用する仕組みで対応したが、基本は国内生産であることを強調する。
しかし、学生服の海外対応が現実に始まったことから、海外生産を検討する動きが業界内で増えてきた。学生衣料メーカー最大手の尾崎商事では「海外生産を急激に増やすことはないが、検討を進めている」という。現在、海外生産比率は数量ベースで約1割。「制服の海外生産はいろいろ検討しているが、現状では付属の調達が一番ネックになっている」と話す。小郷産業も「国内縫製は確実に減っている。当社も減っているし、海外縫製は視野に入れていかざるを得ない。来年で海外生産比率は1割ぐらいになる」という。また、大手学生衣料メーカーの瀧本は「シャツ、コートなどを中心に海外生産比率は現状1割もないが、3年後2割をめどに徐々に増やしていく方向」で取り組んでいる。
しかし、一方で国産堅持の主張も根強い。学生服素材最大手の日本毛織は「学生服業界では継続性、安定供給が求められ、一方で制服の別注化が進み多品種小ロット化している。さらに一般衣料と違って3年間、ほぼ毎日・年間200日近く着用する制服の耐久性や品質確保には目に見えない技術やノウハウが蓄積されている。そう簡単に海外素材には変わらない」(内藤征二スクールユニフォーム部長)という。
また、学生服の主力産地、岡山・児島地区にある岡山県アパレル工業組合の河合正照理事長は「高校1校あたりの新入生数は全国平均で約260人。中学はさらにその半分。この中には別寸といわれるイレギュラーサイズの対応もある。いまや学生服も完全に多品種小ロット型のアイテムになっている。これが入学シーズンの一時期に全国の学校で集中する。このような生産を海外に移して、果たしてどれだけのメリットがあるのか。それよりも制服の希少価値をアピールすることが大事」と強調する。
業界内では「定番品はともかく、別注品の海外生産は現状では無理」とする声が多い。ある商社では「別注品の平均ロットは80~90着で、3ケタの数量にもなっていない。コスト的に国内生産とあまり変わらない」という。定番品を海外生産に移行した場合、国内工場の縫製スペースをどのようにして埋めるのかという問題もあり、簡単に海外生産に踏み切れない事情もある。業界の大勢としては当面、国内生産を中心にしながら海外生産との住み分けを模索していくことになりそうだ。