勝てる領域で勝負、前進/繊維はグレードアップを/東レ 大矢 光雄 社長(前)
2025年01月06日 (月曜日)
「緩やかながらも回復基調で進む」――東レの大矢光雄社長は2025年の世界経済をそのように予想する。中国の景気回復の度合い、米トランプ政権の政策といった懸念も残るが、「勝てる領域で勝負することで前進できる」との見解を示した。繊維産業については、築いてきた地位を守るためにも「従来の取り組みを研ぎ澄ましてグレードを上げることが重要」と強調した。(桃井直人)
――今年はどのような1年になると予想していますか。
先に24年を振り返ると、前の年と比べて世界経済は緩やかに回復しました。特に前半はパリ五輪などの影響で需要が拡大しました。ただ、10月以降は中国をはじめとする世界で物が売れず、潮目が変わりました。トランプ氏の大統領選勝利で、様子を見ようという意識が働いた部分もあるかもしれません。
そのような状況の中で今年を迎えましたが、半導体関連やEV(電気自動車)を中心とする自動車は、全体の流れとしては右肩上がりだと思います。それらを考えると、25年の世界経済は緩やかな回復基調が続くと予想しています。懸念は、トランプ氏の政策、中国内需の回復、地政学リスクなどでしょうか。
――今年は何に注視すべきでしょうか。
当社や他の多くの企業が今後の収益拡大をけん引する領域に位置付けているサステイナビリティー関連の動向です。トランプ政権の政策によっては世界的に成長速度が鈍化する可能性があります。例えば、水素ビジネスなどが後ろ倒しになり、関連するビジネスにも影響が出るかもしれません。
そのほかでは、やはり中国内需がどれだけ回復するかでしょう。世界経済に与えるインパクトが大きいので若干気掛かりだと言えます。とはいえ、当社の24年度上半期の中国事業は健闘しました。悪い中でも「勝てる領域」はあり、そこで事業を進めれば大崩れはないと考えています。
――トランプ政権誕生の影響は。
高関税政策がポジティブに働くケースも多いと考えられます。米国内での生産は当然ですが、中国品に高い関税が課されることで日本製製品に好機が訪れる可能性があります。繊維産業については、縫製地は既に中国からASEAN地域やバングラデシュに移転しているので大きな問題はないでしょう。
唯一の懸念はメキシコですが、それも限定的かもしれません。当社が同国で生産している炭素繊維(ラージトゥ)は、米国内の洋上風力発電翼用途が減速する可能性がありますが、グローバルで見れば(洋上風力発電の)需要は回復しています。エアバックについても状況に応じて他拠点との使い分けは可能です。
――こうした環境下で日本の企業が進む道は。
繊維関連企業の話をすると、衣料用合繊は北陸産地を中心に確固たるポジションを築いています。それを維持しつつ、さらに付加価値を高めるためにも従来の取り組みを研ぎ澄まし、グレードアップを図る必要があります。中国の内需低迷であふれた製品の日本などへの流入も考えられ、その対策にも目を向けなければいけません。