合繊メーカー/“勝てる領域”とは何か/独自素材と革新技術で付加価値を

2024年12月26日 (木曜日)

 2024年、繊維産業を取り巻く環境は一段と厳しくなった。合繊メーカーも事業撤退や縮小など構造改革が相次ぐ。こうした中、今後の繊維事業の成長に向けたキーワードが“勝てる領域”。「“勝てる領域”とは何か」が問われる。(宇治光洋)

 合繊メーカーが構造改革に踏み切らざるを得ない要因の一つが、コスト構造と需給構造の変化だ。世界的なインフレ高進によって原燃料価格や物流費、人件費が恒常的に上昇する一方で、汎用品を中心に内需減退に直面した中国メーカーが安値攻勢を続けており、供給過剰問題が深刻化した。これが汎用品の値上げを難しくし、採算性が悪化した分野への抜本的対策に迫られる。

 もう一つの背景が、資本市場の要求。近年、株式公開企業は株主から投下資本利益率の向上など資本効率の改善を強く求められており、繊維事業も一定以上の利益率を確保できなければ撤退や縮小せざるを得なくなった。

 こうした中、「繊維事業も“勝てる領域”を見極め、グローバルに戦う」(東レの大矢光雄社長)、帝人の内川哲茂社長も「事業ポートフォリオ変革を進め、“戦える領域”で勝つ」(帝人の内川哲茂社長)と言うように“勝てる領域”がキーワードとして浮上した。

 “勝てる領域”とは何か。近年は繊維製品、特に衣料品が高機能品・嗜好(しこう)品と実用品に2極化する傾向が一段と強まった。このうち高機能品・嗜好品分野に向けて独自素材や革新的な技術による圧倒的な付加価値を提案することが一つの解と言える。

 例えば、東レは独自の複合紡糸技術「ナノデザイン」による開発を加速させた。旭化成のキュプラ繊維「ベンベルグ」によるインド民族衣装用途、東洋紡せんいの中東民族衣装用途や、欧州のラグジュアリーブランドやアウトドアブランド向けのナイロン高密度織物などもこれに当たる。

 一方、実用品分野は衣料だけでなく寝装・インテリアまでSPAによる市場の寡占が一段と進んでおり、このサプライチェーンにどれだけ参画できるかが問われる。この領域では東レや帝人フロンティア、東洋紡グループの日本エクスラン工業などが成果を上げている。原糸・原綿・テキスタイルでの供給に加え、加工や縫製まで担うなどサプライチェーン全体での競争力で戦うことも重要になる。

 また、産業資材分野も“勝てる領域”として各社とも力を入れる。産資は原料変更が容易でないため、いったんサプライチェーンに参画できれば安定的な販売が期待できる。東レ、旭化成、東洋紡のエアバッグ事業や、東レ、旭化成、クラレの人工皮革などは今後も繊維事業で重要な役割を担う。

 そのほか、先端医療や新エネルギーなどの分野で繊維素材の新たな需要が生まれていることも見逃せない。こうした新規用途でも先行者利益を含めて“勝てる領域”をどれだけ見いだせるかが今後の繊維事業の成長にとって不可欠となる。