2024年回顧/紡績/合繊メーカー/商社/生地商社
2024年12月25日 (水曜日)
〈紡績/利益改善進むも“もう一歩”/下半期から回復基調に/存在問われる繊維事業〉
綿紡績大手の繊維事業の上半期は、物流費や原燃料の高騰、円安によって厳しい環境が続いたものの、ユニフォーム地などで価格改定が進み、安定した黒字化、黒字浮上まで“もう一歩”のところまできた。特にユニフォームではワーキング分野が在庫調整から抜け出し、来春夏向けに受注拡大の見通しが出てきたことは追い風になりそうだ。
3カ年の中期経営計画が今期(2025年3月期)で最終年度となるクラボウ、シキボウは、次期中計でさらなる成長につなげるためにも、下半期の巻き返しによって現中計で目標とする数値に少しでも近づける。両社とも期初の利益目標をいずれも上方修正しており、勢いを来期にもつなげたい考えだ。
中東民族衣装向け輸出も堅調で、特に日清紡ホールディングス(HD)はインドネシアで設備を増強し、その効果を少しずつ出している。
富士紡HDは、インナーの「BVD」などで高収益の定番商品に集中、日東紡は芯地を中心に安定した収益の確保。強みの分野を磨き、成長につなげる動きがより明確になってきた。
それでも紡績の繊維事業の売上高比率は低下しつつある。日東紡は今期(25年3月期)から繊維事業が資材・ケミカル事業となり、繊維単体の業績を公表しなくなった。
日清紡HDの次期社長、石井靖二取締役は「稼げない事業、分野は撤退もあり得る」と述べ、改めて繊維事業の存在が問われている。
今年3月にダイワボウHDから独立した大和紡績は、改めて繊維専業の企業としてIPO(新規株式上場)を目指している。何かと「撤退」というキーワードが多かった繊維業界の中で、期待の眼差しが注がれる。
〈合繊メーカー/事業撤退が相次ぐ/問われる資本効率/革新技術への期待〉
合繊業界にとって2024年はエポックメーキングとなった年として記憶されそうだ。繊維事業からの撤退発表が相次ぎ、業界地図が大きく塗り替えられることになる。背景には国際市場での競争激化と、資本市場での効率化への要求がある。
11月28日、前身の大日本紡績の時代から日本を代表する繊維企業の一角を占め続けた名門、ユニチカが繊維事業からの撤退を発表し、業界に衝撃が走った。その前の9月には三菱ケミカルグループがトリアセテート繊維事業をGSIクレオスに売却することを決める。同社は23年にアクリル繊維からも撤退しており、これで衣料用繊維からは完全に手を引くことになる。このほかの合繊メーカーもポリエステル繊維やアクリル繊維は汎用品を中心に生産規模の縮小を進めるなど構造改革が加速した。
こうした動きの背景にあるのがインフレ高進によるコストアップと、内需減退に直面した中国メーカーによる過剰供給問題。これが汎用品の値上げを難しくし、採算性が悪化した分野から撤退を余儀なくされた。
もう一つは、資本市場の要請。近年、株式公開企業は株主から投下資本利益率の向上など資本効率を問われており、黒字でも低い利益率では事業継続の是非が問われる。繊維事業も一定以上の利益率が至上命題となり、それができない商品や用途は撤退せざるを得ないことがはっきりした。
一方、革新的な技術の普及では将来に期待できる動きが加速した。例えば東レの複合紡糸技術「ナノデザイン」の活用が進む。旭化成がポリウレタン弾性糸で、東洋紡がナイロン繊維で実用化を進めたマスバランス方式ケミカルリサイクルなどは、実践的なリサイクル技術として引き続き注目だろう。
〈商社/良品計画が衣料品事業内製化/ワールドがMCFを子会社化/伊藤忠、デサントにTOB成立〉
商社の繊維事業は2021~22年にかけ、業界再編を予感させる事業統合や買収といった大型案件の発生が相次いだ。日鉄物産の繊維事業部門と三井物産アイ・ファッションの事業統合によりMNインターファッションが発足。蝶理は住友商事の子会社だったスミテックス・インターナショナルを買収し、後に「STX」と改称して、蝶理との連携を深めた事業運営を推進している。
24年はこうした〝再編の波〟が再び押し寄せたかのような案件が続いた。特に三菱商事ファッション(MCF)を巡る動きは、商社のOEM/ODMを取り巻く環境が急激に変化している現状を浮き彫りにした。
良品計画は5月、同社を販売先とするMCFの衣料品製造販売事業に関して保有する権利義務を承継した。MCFの一部従業員を引き取る意向も示していた。
良品計画は無印良品などの衣料品事業を内製化する方針を打ち出しており、商社が担っていた領域にも手を伸ばした。
そして11月には、ワールドがMCFの全株式を取得し子会社化すると発表した。25年2月中にも譲渡を行う方針だ。
ワールドは、MCFのアパレル商材や服飾雑貨の生産供給網、物流リソースなどを活用し、ファッション事業の総合サービス化を推し進める。プラットフォーム事業のシナジー発揮も狙う。
伊藤忠商事は8月、完全子会社であるBSインベストメント(東京都港区)を通じ、デサントにTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。10月29日にTOBが成立し、株式保有比率は85・92%まで上昇した。完全子会社化の道筋がつき、今後は株式の非公開化がなされる見通しだ。
商社の繊維事業は、原料・素材から一貫して提案できる強みに活路を見いだす動きが増える一方で、自らブランド展開に乗り出すという流れも加速している。
〈生地商社/越への視線に熱帯びる/国産維持へ取り組み深耕/輸出で実績や温度に差〉
今年2月にベトナム・ホーチミンで開かれた、繊維品の総合展「ベトナム国際アパレルファブリックス&繊維関連技術専門見本市」(VIATT展)に多くの日本企業が出展した。アパレルファブリックコーナーに出展した日系企業は、コスモテキスタイル、北高、KIRARI、クラボウ、柴屋、シキボウ、双日ファッション、スタイレム瀧定大阪、サンウェル、瀧定名古屋、田村駒、豊島、植山テキスタイル、宇仁繊維とそうそうたるメンバー。会期後には「将来の市場として手応えを感じた」「日本製生地の市場としてはまだまだ」と両極の意見が聞かれたが、ベトナム市場への視線が一気に熱くなった年だったのは間違いない。
一方、モノ作りへの危機感が改めて表面化した年でもあった。今年に限ったことではないが、国内の繊維製造業者の廃業・破産が相次いでいるためだ。24年も新潟の見附染工や京都のプリント工場の一部で事業撤退などがあった。生地商社トップたちが改めて、「国内サプライチェーンの維持が最優先のテーマ」と口をそろえており、各社がモノ作り企業とさまざまな取り組みを深化させた。
国内市場の停滞感を背景に輸出の重要性がさらに高まった一年でもあった。新型コロナウイルス禍が明けたことや為替要因も手伝って、ベトナムだけでなく欧米や中国での展示会に参加する生地商社が増えた。輸出が95%を占めるデビスが24年12月期で前期比40%超の増収を計上することはその象徴であり成功例の代表と言える。ただ、思うように伸ばし切れていないケースや人材面含め「(輸出は)まだまだこれから……」とする生地商社もおり、実績差や温度差は見受けられる。