特集 CSR(1)/それぞれの視点で取り組み加速/YKK/豊島/QTEC
2024年12月20日 (金曜日)
企業が社会的・環境的な要請に対して責任を果たすことを指し、2000年代から日本でも取り入れられるようになったCSR(企業の社会的責任)。取引先拡大やエンゲージメント向上などにつながるとされ、現在では欠くことのできない大きな潮流になっている。多くの企業がそれぞれの視点・角度で取り組みを加速している。
コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティー、日本語では企業の社会的責任と呼ばれるCSR。企業も社会の一員として、社会問題に対して積極的に取り組むことが求められるとする考え方だ。ISO(国際標準化機構)が2010年に正式なガイドラインとして国際規格「ISO26000」を発効した。
ガイダンス規格であるISO26000は、組織の自主的な社会的責任への取り組みを促進することが目的で、認証を受けるものではない。七つの原則と七つの中核主題が掲げられており、原則はCSRの基本的な概念、中核主題はCSR活動の具体的な枠組みと言い換えることもできる。
原則は、①説明責任②透明性③倫理的な行動④ステークホルダーの利害の尊重⑤法の支配の尊重⑥国際行動規範の尊重⑦人権の尊重。中核主題は組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティーへの参画の七つ。全てに取り組むことは難しく、課題の選択が重要になる。
昨今、サステイナビリティーが重要視されているが、そのために必要な事業活動がCSRとされる。経済的価値に焦点を当てるCSV(共有価値の創造)とは一線を画し、慈善活動であるボランティアとも違う。企業イメージの向上や利害関係者との関係強化、従業員満足度の向上といった利点があるといわれる。
〈YKK/SDGs達成めざす施策推進〉
YKKは、2050年までに「気候中立」と「自然との共生」を実現させるための持続可能性目標「YKKサステナビリティビジョン2050」を掲げる。それに基づき、「気候」「資源」「水」「化学物質」「人権」の5テーマで目標を設定し、関連するSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた取り組みを進める。その最新情報を統合報告書「This is YKK 2024」で報告している。
主な活動実績として、温室効果ガスの排出量削減の状況を伝える。23年度は、自社での燃料燃焼などによる直接排出と、購入した電力・熱の使用による間接排出の温室効果ガスの量が、基準年の18年比で56・2%削減した。
リサイクル材や植物由来材料などの〝持続可能素材〟を商品に使用する割合は38%に達した。
YKKジャパンカンパニーは、黒部事業所(富山県黒部市)から出荷するファスニング商品の梱包(こんぽう)用段ボールを環境配慮型に切り替えた。
黒部事業所内に整備した「YKKセンターパーク ふるさとの森」は、富山県で初めて環境省の「自然共生サイト」に選ばれた。ここを環境教育に活用するなどして、持続可能な社会づくりに貢献する。
〈豊島/フェムテック普及に注力〉
豊島の「Hogara」(ホガラ)は女性社員が中心になって立ち上げたフェムテック・フェムケアブランドで、働く女性たちの声を反映させた商品を展開する。「アクティブな女性のほがらかな毎日を応援する」をコンセプトとするBtoB向けの協業プロジェクト「ホガラクティブ!プロジェクト」も推進する。
その一環として、2024年6月にプレステージ・インターナショナル(東京都千代田区)が運営する女子スポーツチーム「アランマーレ」への協賛を通じたプログラムを実施した。アランマーレは秋田市でバスケットボール、山形県酒田市でバレーボール、富山県射水市でハンドボールの活動を行っている。プログラムでは3チームの選手に向け、福利厚生としてフェムテック・フェムケア関連製品の導入を目指す取り組みについての勉強会を開き、そこで得た情報をSNSで発信した。
5月にはアウトドア事業を行うヤマップ(福岡市)とのオリジナル商品開発も行った。サニタリー期間でも山歩きを楽しむ女性に向けた「YAMAP別注 吸水ショーツレギュラー」を販売し、アウトドア・クリエーターの四角友里さんが商品を着用した感想を語ったインタビューを販売サイトで公開するなど、「使ってみたい」と感じてもらえるような情報発信にも力を注ぐ。
〈QTEC/独自の認証と監査で〉
日本繊維製品品質技術センター(QTEC)は、「人権方針」と「責任ある企業行動ガイドライン」を策定し、「トップコミットメント」を発信するなど、CSR活動に力を入れている。QTEC内部での施策はもちろん、外部との取り組みも積極的に進めている。
QTEC内部では、エンゲージメントを高めるための取り組みの一環として、働きやすい環境づくりを推進している。その一つが北陸試験室での搾乳室の設置だ。育児休暇から復帰した職員の声を受けて昨年の12月に設けた。要望があれば他の拠点にも設置する。
今年11月には「こども家庭庁ベビーシッター券」を導入した。ベビーシッターを利用した際に一定の補助が得られる制度で、こちらも職員の要望に応えて導入を決めた。今後は全ての職員が元気で長く働ける制度の構築を目指す。
外部との取り組みではCSR監査を強化している。現在は、食品や駐車場を展開する企業からの引き合いもあり、繊維工場の監査で培った知識やノウハウを生かすことで対応を可能にしている。今後は、独自のQTEC認証とCSR監査の連動、監査員の育成・拡充を図っていく。