在名商社座談会/人材戦略が今後の鍵/中国市場開拓に本腰/生地輸出の現状と展望

2024年12月13日 (金曜日)

出席者(社名五十音順)

瀧定名古屋 取締役グローバル事業部部長兼瀧定紡織品〈上海〉総経理 黒田 剛臣 氏

タキヒヨー 取締役執行役員グローバルブランドグループマネジャー兼サステナブルセクションリーダー 土屋 旅人 氏

豊島 三部部長 近藤 裕幸 氏

 少子高齢化に伴う人口減少で国内市場の縮小が待ったなしだ。国内の繊維産業にとっては海外市場の開拓が急務となっている。繊維関連の商社は国内外のサプライチェーンを駆使したモノ作りを進め輸出に力を入れてきた。地政学的リスクや気候変動など目まぐるしく変化する世界情勢の中で今後の海外販売戦略で重要なポイントは何か。名古屋市に本社を置く瀧定名古屋(中区)、タキヒヨー(西区)、豊島(中区)各社の生地輸出担当者に聞いた。

〈企画提案と備蓄強みに/在庫はけ欧米向けは堅調〉

  ――生地輸出の現況を教えてください。

 黒田剛臣氏(以下、敬称略)欧州向けは順調で、特にメンズのドレスやカジュアルが伸びており、レディースはボトムが堅調です。韓国向けは昨年、一昨年と好調だったアウトドア向けが踊り場に入っており、今期の受注は落ち着いています。中国は景気が停滞していますが上半期は好調だったものの、直近3カ月はブレーキがかかっています。

 土屋旅人氏(同) 当社は欧米向けが中心ですが昨年よりは好調に推移しています。新型コロナウイルス禍明けで作った在庫が滞留しているという状況の中で、今年前半までは注文が落ちていましたが、その在庫がはけつつあり回復傾向です。中国向けの開拓に本腰を入れており、駐在員を置き、売り上げも増えつつあります。

 近藤裕幸氏(同) 欧米向けは堅調で、韓国向けもメンズ衣料が中心のため、そこまで悪くありません。ただ、気掛かりなのは中国向けです。先ほどのお話にもありましたが、この3カ月で急に落ち込んでいます。当社としても力を入れてきた市場ですので心配です。

  ――海外販売での御社の優位性や強みは。

 近藤 当社は国内外で産元的な機能を持ちモノ作りをしています。糸や生機を作って、染色整理工場を管理するなどメーカー的な立ち位置です。例えばお客さまから値段や納期が合わないと言われたら、原料や糸の調達を工夫して対応できるのが強みでしょう。

 当社は加工反ストックでの商売ではなく基本的には別注で対応していますので、正確かつ迅速に対応していくことが求められます。それこそ、メール一つとってもそうです。文章の書き方はもちろん、添付資料の貼り付け方などお客さまが一目見て分かるようにしなければなりません。当たり前のことかもしれませんが、信用第一の商売ですので、こうしたことを徹底しています。

 土屋 当社もほとんど別注のため、注文を取れる商品企画を重視しています。絶えず新商品を開発していくという文化があります。ただ、それもやみくもではなく、顧客分析やマーケティングはもちろん、価格面も踏まえながら、自己満足にならないよう開発しています。サステイナビリティーといった最低条件もクリアしながらのクリエーティビティーを意識しています。

 黒田 強みは企画提案力と備蓄機能の組み合わせです。中国向けは備蓄機能を生かした商売が大きいですが、欧米向けは備蓄機能と企画提案の組み合わせが重要です。日本国内向けに開発した4千~5千品番という膨大な備蓄生地をグローバル事業部が上手に“編集”してパッケージで提案しています。営業、企画、備蓄機能を上手く活用しています。

〈景気減速も中国向け拡充/現地生産強化で内販狙う〉

  ――仕向け地や商材を含めて今後注力したいポイントは。

 土屋 中国向けは元々が少ないので伸ばせる余地があると考えています。欧米ほど追跡や環境などの認証には敏感ではありませんので、欧州向けに開発している商品の新たな売り先として中国向けは拡大していきたい。ただ、欧米向けではそうした認証がマストで、しかも年々厳しくなっています。日本品はその部分がネックになっており、特に染色整理工場での認証取得が難しい。薬品や助剤、廃水などの面で監査が通りません。中国やインドの工場は取得できていますので、日本品を販売する当社にとっては死活問題と言えます。

 近藤 チャンスと感じているのは、米国西海岸で繊維業界ではない人がアパレルを始めるなど新しい動きがあることです。そうした新興アパレルと商売できれば、糸から素材まで豊富な知見を持つ当社の強みを生かすことができると考えています。

 商材については、これまでは織物が中心でしたが、高品質な国産の丸編みなど、織物以外のラインアップを増やしたい。また、以前は縫製まで国内で手掛けたTシャツなどの製品を輸出していましたので、今の為替を追い風にこうしたこともチャンスがあると感じています。

 黒田 強化したい地域はまず中国です。大きく魅力的な市場であり、地理的にも日本から近く、当社のリソースを最も効果的に動かすことができます。先ほど話したように中国向けは日本品の備蓄販売が大半です。基本的に日本で備蓄品を在庫していますが、コロナ禍で電子商取引(EC)が台頭したことで、顧客からは「明日欲しい」と言われることもあります。中国現地で在庫していくことにも挑戦しなければなりません。

 日本のノウハウやアイデンティティーをインストールした中国でのモノ作りも重要です。その一つが東レグループと取り組みを始めた機能性ファッション生地ブランド「エボトゥルース」です。東レグループの差別化原糸を使って中国の工場で生産しており、日本のテクノロジーを生かした中国素材という打ち出しで拡販を進めます。

  ――一方で中国は景気が冷え込んでいます。

 黒田 これまでもリーマンショックや東日本大震災、コロナ禍がありましたし、景気や為替などの経済変化、気候変動、政治情勢など外的要因で世の中は絶えず変化しているので気にしていません。ただ、中国ではこれまで高かった消費意欲が節約志向に切り替わっているのは事実ですし、これらはマインドに起因するため、不安感を完全に払しょくしない限りはこの状態が続いていくでしょう。

 これを打破するには二つ方法があると考えており、一つは変化を加えることです。自身のクローゼットの中にあるような服を消費者は手に取りませんので、色や素材を変えるなどの商品企画が必要です。もう一つは自分たちで顧客を増やす努力をすることです。具体的には展示会の開催地域を広げています。これまでは上海、深セン、北京の3カ所で開催しており、顧客が固定化していましたので、広州や青島なども加え計7カ所で開くようにしました。

 土屋 中国は不景気によって顧客にはかつての勢いが失われていることはマイナスですが、実はメリットも感じています。中国の生地サプライヤーが内販や対米輸出の冷え込みによって、以前よりも日本に目を向けるようになり、手間のかかる企画でも受けてくれるようになりました。当社としても中国内販向けに商品を開発しなければ戦えませんので、より良いモノを中国で生産できる要素を感じます。

 近藤 確かに中国の景気は不透明ですが、その半面、技術の進歩は目覚ましいものがあります。これまで日本品を買っていた顧客が中国品に切り替えるケースも散見されるなど、日本品だけでは難しくなっています。

 そのため当社としても、「中国-中国」の商売をさらに増やしていきたい。つまり、中国で作って、中国で売るという流れです。それには中国の拠点である豊島国際〈上海〉が重要になるでしょうし、日本向けのモノ作りで、かなり鍛えられてきましたので生かすことができると考えています。逆に日本品は中国ではできない商品を開発・提案していかなければさらに難しくなるでしょう。

〈サステは企業として当たり前/日本の価値観は欧米に遅れ〉

  ――サステ対応が必須の中で、どのように差別化を図りますか。

 黒田 欧米向けはマストになっているのは間違いありません。差別化というより、企業として真剣に取り組んでいる姿勢が重要です。当社は以前よりもサステが浸透したとはいえ、欧米に比べると日本のファッション市場における環境配慮素材はまだ少なく、売上の9割近くが国内販売の当社が取り扱う素材も同様です。サステ素材で差別化を図るという感覚ではなく、もはや当たり前にあるもので、その価値観を持った企業であるべきです。ただ、ファッションは独自性を追求するほどサステとは相反する側面があります。例えば長く着られて持続可能なベーシックなものばかりになれば、ファッションとしてはつまらない。そのバランスが重要ですので、やはり企画提案が重要です。

 土屋 サステ素材がちまたにあふれていて、ある意味お腹いっぱいなのでは、という趣旨の質問だと思いますが、欧米ではサステが「たしなみ」として当たり前のものとして備わっています。マーケティングの側面として使われることはなく、もっと本質的なものとして扱われています。

 それを踏まえると、これまで欧米では人権の部分がフォーカスされてきましたが、今後は環境インパクトの部分で議論されていくでしょう。そうしたことをベースにしてモノ作りをし、その上にファッション性を積み上げていく。繰り返しになりますが、サステは企業体として当たり前の要素として求められています。

 近藤 最近、トレーサビリティーはよく問われるようになっています。当社は綿花を祖業としており、世界各国の紡績工場とネットワークもありますし、綿花・綿糸・綿織物の各部署とも情報を共有しています。綿素材については一番安心感を持ってもらえるスキーム作りはできていますので、そうした強みは生かしていきたいですね。ほかにも食品残さを染料に活用する「フードテキスタイル」の展開や、リサイクル事業を展開するJEPLAN(ジェプラン、旧日本環境設計)への出資などもアピールできたらと考えています。フードテキスタイルは衣料向けで輸出も決まってきています。

  ――米国大統領選挙でトランプ氏が再選しましたが影響は。

 近藤 新疆綿問題が再燃しそうですので、脇を締めていかないと足元をすくわれかねず、その部分はナーバスになっています。トランプ氏は関税引き上げを公言しており、その影響を懸念する声が多いです。ただ、それを実行すると、米国内でさらにインフレが加速してしまいますし、冷静に状況を注視することが重要だと考えています。外的要因を心配してもきりがありませんので、お客さまの要望をしっかり聞いてぶれずに対応することが重要でしょう。

 土屋 トランプ氏は中国製品の関税を60%引き上げると言っていますし、中国発のシーインやティックトックといった企業への風当たりが強いことを考えても、米中関係がさらに冷え込むかもしれません。中国の対米輸出は厳しくなるため、中国縫製で米国納めは難しいでしょう。ただ、米国で縫製というのは現実的ではありませんので、他国経由での輸出はあるのかなと思います。素材を含めてベトナムやインドで商品開発を増やす必要があるかもしれません。

 黒田 私も高関税はブラフだと思っていますが、海外展で米国に店舗を持っている欧州の顧客と話していると、代替としてASEANで生産できないかという話はありました。生地、製品含めて中国品は使いづらくなる可能性があるからでしょう。中国企業も生機を第三国へ送って、そこで二工程ルールを経て、米国に輸出するという手段を踏んでくるかもしれません。

〈産地縮小で供給能力低下/投資など支援の必要性も〉

  ――輸出を進める上での障壁は。

 土屋 労働力不足もありますが、生地輸出業界は人材が枯渇していると感じています。ガッツのある有望な人材がIT分野など成長産業に取られていますので、今後は育成や女性活躍を含めた人材戦略が大事だと考えています。海外に目を向けると伸びているアパレルは多くあります。需要サイドは人材を含めて成長しているのに対して、われわれ供給サイドは人材不足などで苦戦しています。

 近藤 障壁は国内産地の縮小です。供給能力が年々低下しているので、何らかの支援をできないかと常日頃考えています。結局、リードタイムが長過ぎることで、引き合いが流れてしまうので、当社として糸や生機の備蓄を強化できないかなどを考えています。

 社内の課題で言うと、中国以外の仕向け国に駐在員がおらず、現地代理店を通じての商売になっており、顧客との接点が不十分で販売がどうしても弱い。狙っていく市場に対しては、積極的に人材を投入していかなければなりません。海外でのモノ作りでもそうです。作る場所、売る場所共に最適な人材を置いていくことが必要です。

 黒田 当社に在籍している社員は日本人が大半ですが、グローバルに活躍している企業ではさまざまな国の方が活躍しています。海外貿易を積極的にやっていくのであれば、海外人材を当たり前に獲得できる企業にならないといけません。求人の募集を国内だけでなく世界に広げる。海外では当社の知名度はないかもしれませんが、日本学科がある海外大学に通う学生にコンタクトするなどやり方はあると思います。

  ――産地との取り組みや今後の方向性は。

 土屋 当社は高級ゾーン向けが多いので産地は重要です。産地の取り組み先に対してトレース関連の認証取得の支援をしています。いずれにせよ日本市場は縮小していくことは間違いありませんので、海外へ目を向けてもらえるように産地への働き掛けをしつつ、互いに手を携えて取り組んでいければと思います。

 黒田 匠の技術は大変貴重です。大切な部分は人が継承し、自動化で効率化とコストダウンを進めていくことが必要だと感じています。それによって人手不足を解消することにもつながっていきます。産地の方と当社のような商社が手を組み、例えば設備投資の資金支援していくことで、より多くの日本素材を海外に届けることができればと考えています。

 近藤 海外販売に積極的な産地企業とは昔から取り組んでいます。輸出向けに糸から開発し、実績を積み上げてきました。お互いの輸出への本気度が重要です。こうした取り組みは役割分担だと思いますので、われわれのような商社が在庫機能をさらに拡充したり、設備の資金を出したりすることも必要かもしれません。産地というより、われわれ商社がもっと踏み込んで考えなければいけません。