インドネシア/繊維業界苦境で賃上げ重く/政府配慮も大手が債務超過
2024年12月10日 (火曜日)
インドネシア政府は4日、同日に公布・施行した2025年に適用される最低賃金を一律6・5%引き上げる決定について、順守するのが困難な産業を救済する政策を策定する方針を明らかにした。25年は州・県・市別の最低賃金に加えて、業種別の最低賃金制度が復活するが、業種別は自治体別よりも高い金額になると規定されている。低迷が続く繊維業界では債務超過に陥るなど経営危機に直面する大手企業が相次いでおり、業界団体は賃上げに耐えられないと指摘する。
同国政府は4日に、25年の州・県・市別最低賃金を前年比6・5%増とすることを規定した労相令『24年16号』を公布・施行した。25年からは業種別最低賃金が再び導入されるよう制度が改定された。業種別最低賃金が設定された場合、州・県・市の最低賃金よりも高い金額となると規定されている。
同令では、州別の最低賃金と業種別最低賃金を11日までに、県・市別の最低賃金と業種別最低賃金を18日までに公表するよう定めた。労働省によると、最低賃金は勤続1年未満の従業員に適用される。
5日付「インベストール・デーリー」によると、ヤシエルリ労相は4日、25年の最低賃金規定を順守するのが困難な産業を救済する政策を年内に策定する方針を明らかにした。ヤシエルリ氏によると、同規定を満たすのが難しい産業を救済する政策を検討する合同チームを、アイルランガ調整相(経済担当)の支援を受けて設置している。救済策を策定するには年内いっぱい時間があると述べた。
経済担当調整省専門家チームのラデン氏は先に、25年の最低賃金上昇による実業界への負担を軽減するため、政府は許認可や税務などの行政手続きにかかる時間を短縮する可能性が高いと述べていた。
〈上場大手、相次ぎ経営危機〉
最低賃金規定を満たすのが難しいとみられる産業の一つが、苦境が続いている繊維産業だ。繊維業界では、経営が悪化したインドネシア証券取引所(IDX)上場の大手メーカーが破産宣告を受けるなどしている。
スリ・レジェキ・イスマン(スリテックス)は10月21日に中ジャワ州スマラン市の商業裁判所から破産宣告を受けた。同社は1万4千人を超える従業員を抱えており、政府は破産宣告が出た直後から救済措置を講じると表明。会社側も従業員を解雇しないことで政府と合意した。
スリテックスの24年1~9月期決算は、売上高が前年同期比19%減の2億ドル、純損失が6605万ドルだった。債務超過は10億ドルに膨れ上がっていた。
また、上場大手のパン・ブラザーズとスジャトラ・ビンタン・アバディ・テキスタイルは現在、中央ジャカルタ商業裁判所で債務支払い猶予(PKPU)手続きを実施している。PKPUは日本の民事再生に相当する制度。債務者に対して債務の支払い猶予を一定期間認めた上で、債務再編や返済計画などを記載した和議案を検討し、会社再生を模索する。和議が不成立となると破産が宣告される。
パン・ブラザーズの次回協議は6日に実施される。スリテックスに続く大手の破産宣告となれば繊維産業の先行きはさらに不透明になる。パン・ブラザーズは24年1~3月期決算を報告した後、1~6月期と1~9月期については未報告。3月末時点では債務超過には陥っていなかった。
パン・ブラザーズは、「アディダス」「ユニクロ」などグローバルブランドの製品も生産してきた。1~3月期の両ブランドとの取引額は全体の24%を占めていた。
一方、スジャトラ・ビンタンは9月18日以降、IDXでの株取引が停止中。23年通期決算や24年の各期決算を発表していない。
また、9月末時点で債務超過に陥っているセンチュリー・テキスタイル・インダストリーは10月末に開いた臨時株主総会で、上場廃止する方針が承認された。同社には東レが24%出資している。
さらにアジア・パシフィック・ファイバーズが、11月1日から西ジャワ州カラワンの化学繊維工場の操業を停止した。9月中旬時点で同社の工場稼働率は同月末に40%まで下がるとの見通しを示していた。世界的な過剰生産や廉価な製品の輸入による外的要因が原因としている。
「テンポ(電子版)」が1日伝えたところによると、全国労働組合総連合(KSPN)のリスタディ代表は2500人の従業員が工場閉鎖の影響を受けたと述べた。
〈大幅賃上げに企業耐えられず〉
大手繊維メーカーの業績が悪化する中での最低賃金の引き上げについて、インドネシア合成繊維生産者協会(Apsyfi)のレドマ会長はテンポに対して「購買力の向上には賃上げが必要という点には同意している。問題は現在産業が低迷している中での賃金政策の適切な規制だ」と述べた。
その上で「繊維産業は現在のコスト構造の中で操業維持と従業員の解雇回避のために努力している。労働者の賃金が大幅に上昇すれば、多くの企業は耐えられなくなるだろう」と指摘した。
プラボウォ・スビアント大統領はマニフェストで質の高い雇用や賃上げを掲げているが、二つの関係は「もろ刃の剣」(テンポ電子版)で、業種別の最低賃金が設定後にどこまで産業界を救済するかが焦点となりそうだ。
[NNA]